第126話 自由
「『統率者』スキルを解除します」
響子が解除すると、皆の表情がもとの状態に戻った。それまでの記憶がないわけじゃないので、生徒たちには違和感がないみたいだ。
「ふう、全員集まりましたね。それで、こんなケーキ屋に集まってパーティーでもするんですか?響子先生」
「ええ、これから何をするかと言うと……」
「ちょ、待って!
何、ケーキ屋って!!聞いてないんでんすけど?!」
意識を取り戻したジャスミンが叫ぶように言い出した。本当に元気というか、ギャルはパワフルだよな。
そういや、なんかの雑誌モデルやってたんじゃなかったか?
まぁ、派手な格好とかメイクしている感じでは無いし、黙っていればクールビューティな印象だから写真なら映えるんだろうな。
「知らなかったね、ケーキ屋があるなんて」
「でもほら、カップケーキとかかもしれないじゃん?」
「あー、あれはあれで好きだけどね。
ニューヨークのケーキとか、甘すぎてヤバいよね」
今いる場所がケーキ屋だと知って、ジャスミン達がざわめき出した。
タニア水晶から流れてくる映像で把握をしていたけど、お菓子食べてサボっていたみたいだし、甘いものは好きなんだろう。
なんせ、コンビニや駄菓子屋なんて無い世界では、お菓子を買うのはパン屋か専門店くらいにしか見かけない。
パン屋のはお菓子というのり、おやつって感じだから、王宮からくすねてきたか、貴族御用達の専門店で買ったものだろう。
それだけで、甘いものを手に入れるのがいかに大変であるか、どれだけジャスミン達が甘いものが好きなのかが分かる。
ちなみに一般庶民は、甘いおやつを食べるのは家庭で作ったものか、採った果実を食べるのが普通らしい。
「ジャスミン、ここはオッチャンの店なんだよー」
「ん? オッチャンって、用務員さんの?」
「そうそう。美味しいショートケーキが食べれるんだよ!
この間オープンしたばかだけど、今すっごい人気なんだよー」
「え、鈴香食べたことあるの?!
ずるい、なんで教えてくれないのよー!!」
「だって、ジャスミンはいつもいないからさー。
でも、きっと後で食べれるよ。
ね、オッチャン!」
「ああ、ちゃんと頼んでおいたからハンスが今全員分焼いてくれているよ」
そこで、生徒たちから『おおーっ!!』と歓声が上がる。
今はそんな話をしている場合じゃないのだけど、みな興味はそちらに移ってしまった。
まぁ、戦争やら大人の事情やらは元々どうでもいい話だからな。
念の為、アビスの魔法でこの店の中は見えないようにしている。
何気にこの範囲を見えなくさせる魔法が使えるとか、優秀なんだよな。
煽てると直ぐに調子に乗るから言わない。
「さて、焼き上がる前になんでここに集まって貰ったのかを説明する。
ちゃんと聞かないやつは、ケーキ抜きな?」
きっといつもなら『えー、ふざけんなオッサン』とか言いそうなものだが、ケーキの存在は大きいな。
「よし、では説明するぞ」
そこで、俺は全員に向けて説明を始めた。
まずは、知らない筈はないけど全員の腕輪の機能について説明する。
王家のアーティファクトである腕輪は、装着したものを『命令』に従わない者を罰を与えるアイテムだ。
これにより、生徒たちと響子は王家に逆らえないようにされていた。
『命令』に背いて与えられる罰は色々とあるみたいだが、最初に刃向かった時に死にかけた生徒がいたように生命に関わるレベルであるのが分かっている。
これは普通に壊そうとしても発動するらしく、下手なことは出来なかった。
幸いなことに、直ぐに城から追い出された俺は付けられていなかった為、自由に過ごしてきたのだ。
ひょんなことから魔王に目をつけられてしまったが、その代わりにこの呪いともいえる腕輪の解除をして貰える約束を交わすことが出来た。
そして今日、ついにその日がやってきたのだ。
ここまで聞いて、生徒たちは『マジで?』とか、『やった、自由になれるぞ!』と沸き立つ。
自由になれるということは、戦争に行かなくて済むということだ。
これは殆どの生徒が望むところだろう。
「そして、この腕輪と連動して『命令』を与えていた装置が今朝壊された。
そして、それを管理していた魔導師たちもその際に命を落としたらしい」
魔王ベルフェゴールの下僕がやったのだろう。そもそも装置さえ壊せばいいのだったら、探して壊すだけで良かったのにな。
分かってて黙っていたんだろうなぁ。全てはあの代理戦争のためか。
しかし、城にあっさり侵入して厳重に守られていたであろう装置を壊すとか、流石は魔王だな。
それって、やろうと思えばワルダーユ王をいつでも暗殺出来るってことだよな。
それなのに、北の魔王に勝つつもりなんだから滑稽な話だ。まず間違いなく、戦争を起こしても負けるのは目に見えている。
「つまり、装置が直るまでにその腕輪を壊せば、みんなは晴れて自由になれる。
既に鈴木先生や綾堂などは破壊出来たので実証済みだ。だから、これから君たちの腕輪も破壊していく。
タニア、頼んだよ」
「ねぇ、あれって魔族かな?」
「だよな……、なんで魔族がこんな所にいるんだ?」
「川西のやつ、追い出された恨みで魔王に寝返ったんじゃないか?」
「なぁ、本当に大丈夫なのかよ!」
タニアを知らない生徒たちがざわめく。すっかり慣れたし、鈴香たちは何も言わなかったから気にしてなかったけど、精霊族であるタニアも魔族扱いなんだったな。
俺と殆ど面識ない生徒たちは、どうやら信用出来ないようだ。まぁ、それもそうだよな。
でも、別に無理強いするつもりは無い。
俺を信じなければ、またワルダーユ王の言いなりに戻るだけだからな。
まぁ、装置が直せればの話だけど。
「嫌なら別に信じなくていいぞ。
んー、委員長はどうする?」
「え?いや、もちろんやるに決まってますよ!
副委員長だってもうやってもらったみたいだし、俺は川西さんの事を信じます」
「俺も信じるぜ?」
委員長に続き、俺を信じると言ったのはなんと坂本だった。
俺にあれだけやられたのに(正確にはデコピンしただけなんどけどね)、信じるのか。
それを証明するかのように左腕を突き出した。
それに驚いたのは、他の生徒たちだった。
「おいおい、あの坂本が言うこと聞くのかよ!」
「あの坂本君が信じるなんて、余程のことだよね……」
とヒソヒソと話しをしている。
いやいや、それ先に信じると言ってくれた委員長の立場がなくないか?
「まぁ、俊哉がやるっていうならやらない訳にはいかないよな」
田口がそこで、坂本に同意する形で腕を出す。
「じゃあ、俺もやるかなー」
「俺もー!」
そして、それに続いて武藤と藤村も左腕をつき出したのだ。
「お前たち……」
しかし、こいつら勘違いしてないか?
なんで俺が助けてやっているのに、偉そうにしているんだ?
別に見捨てても構わないんだけど?
君たちが俺が追い出されるのを、そのまま見送ったあの時のようにね……。
すると、痺れを切らしたかのように鈴香が坂本たちの前に出てきた。
「ちょっと、坂本ー!
オッチャンが助けてくれるって言うのに、何偉そうにしてるの?
そこはちゃんと、『お願いします』でしょっ!」
「ぐえっ?!」
そして哀れにも、鈴香にみぞおちにパンチをくらい膝から崩れ落ちる。
哀れ、坂本。でもそれは日頃の行いの差だからな。
合掌。
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