第125話 全員集合

「訓練場には約半数の生徒がいます。

 どうやら、真面目に訓練しているみたいですね」


「説明している時間が余りない。

 最初から『統率者』を使って全員連れ出すぞ!」


「はい、分かりました!」


 タニアに正確な位置を把握してもらいつつ、最短ルートで場内を駆け巡る。

 ちなみにアビスも連れてきているので、闇魔法の認識阻害や幻惑する効果の魔法により、俺たちが兵士の横をすり抜けても誰も気が付かない。

 アビスも、意外に役に立つじゃないか。


「(む、旦那様に褒められた気配が……)」


「(気の所為だから、もっと頑張れ)」


「(なんと、厳しい評価ですぞっ?!)」


 そう直ぐに欲しがるから評価出来ないんだよな。

 え、ミィヤや鈴香はいいのかって?

 ハニワと可愛い女子では話が違う。これは世界の真理だ。イケメンは知らんな。


「あの先に、訓練場があります!」


「よし、アビス。全員連れ出したら、一緒にいた兵士に混乱を仕掛けてくれ」


「承知ですぞ、旦那様!」


 道を抜けると、大きな広場に出た。

 そこには懸命に訓練に取り組む者や、疲れて休憩来ている者、そしてサボっている者など様々だ。

 お、委員長は真面目に素振りしているな。流石は真面目君だ。


「響子! 頼んだ!」


「は、はいっ! 『統率者』発動!

 『全員集合』よ!!」


「「はい!」」


 響子が指令を飛ばした瞬間に、全員の目の色が変わる。よくある操られて目が虚ろになるとかでは無い。

 目をかっと見開き、やる気が漲っている顔つきに変わる。まるで歴戦の戦士のような顔つきだ。

 うーん、これはこれで怖いな。


「アビス、今だ!」


「承知しました、旦那様。

 彷徨い幻に怯えよ。『悪夢バッドドリーム』!」


 次の瞬間には『ぐあーっ』とか『ぎゃー』とか叫び声を上げて、兵士たちが逃げ惑う。

 どうやらアビスのスキルが成功したみたいだ。


「ふむ。アビスのスキル精度が上がっていますね。これは評価するに値します」


「おお、そうか。

 アビス、良くやったぞ。これからもちゃんとやるんだぞ?」


「おお、旦那様が褒めて下さったのですぞ!

 これからも精進するのですぞ!!」


 まぁ、褒めていると言えるかな。

 本人が喜んでいるから放っておくか。


「よし、気が付かれる前に帰還しよう。

 響子頼むぞ?」


「分かったよ、リューマ兄ちゃん!

 『全員速やかに帰還する。私に続け!』」


 何故か、お兄ちゃん呼びに変わっていたが気にしている場合じゃない。

 響子と共に、店がある広場まで急ぐのだった。




「えーと、こっちかな?」


「鈴香、そっちじゃなくてあっち!」


「鈴香は落ち着きがない」


 鈴香と星香とミィヤは走りながら目的の場所へ向かっていた。そこは街の外れで、閑静な場所。

 そこにはジャスミンたち女子のグループが隠れているみたいだ。


 彼女たちは最近よくサボっているらしく、どこかでお菓子を買ってきては行方をくらましているようだ。

 ギャルにしては大人しく思えるが、娯楽がないのでサボる程度で済んでいるのだろう。

 ただ、元々素行が悪い子ではないので、息抜きが上手いだけなのかもしれない。


 そんな事情は知らないミィヤたち三人は、ジャスミンたちを見つけるなり遠慮なく大声で呼びかける。


「あーっ、見つけたっ!!

 ジャスミン、サボってお菓子とかずるーい!」


「またあなた達はこんなことろまで来て、サボって!

 響子先生がしんぱいしてましたわよ?」


 見つかったジャスミンは、『げっ、副委員長じゃん!』と嫌な顔をしていた。

 いくらジャスミンでも、自分よりも頭の回る星香には頭が上がらないのだ。

 いつも正論で言い負けるので、どちらかと言うと苦手な相手でもある。


 しかし、もっと予想しないことが起きた。

 咄嗟に逃げようと飛び上がった瞬間だった。


「動かないで。逃げたら、怪我する」


 いつの間にか、小さな女の子にナイフを首に当てられていた。

 見るからに切れそうなそのナイフは、かなり高品質なのが見てわかる。これは、抵抗したら切れるどころか頭が落ちて転げるかもと思い、ゾッとして動けなくなった。


「もう、いくら急いでいるからって、乱暴はダメだよミィヤ!」


「時間がないの。これはあなた達のためでもあるから、大人しく全員着いてきて」


 鈴香が間に入り、ミィヤを止めようとしたが、その気迫に負けて鈴香も黙ってしまう。


「戸田さん、説明は道中でします。

 今は急いで、みんなと合流しましょう」


「え、この女の子は知り合いなの?」


「ええ、その人は用務員だった川西さんの奥様です」


「ええっー?! あのオッサンに奥さんいたの?

 しかも、この子なの? え、ロリコ──」


「私は二十歳。子供じゃない。

 それ以上、リューマを侮辱するならその首を落とすよ?」


「あわわっ、ご、ごめんって!

 じょ、冗談だからっ! もう言いませんっ!!」


 諸手を上げて降参のポーズを取るジャスミン。

 ここで逆らえば本当に命がないと、肌で感じ取ったようだ。


「さあ、急ごう」


「は、はい」


 そして、ミィヤを先頭に鈴香と星香、そしてジャスミンとその仲間の女子たちが素直について行くのだった。



「──え、マジで呪いが解けたの?」


「ええ、その事実が広まれば王宮から追っ手が現れる可能性が高いのです。

 まだ私たちでは勝てない相手もいるので、捕まらないうちに全員集まることになったのです」


「うんうん。だからね、オッチャンが頑張って私たちの呪いを解いてくれたんだよ!」


 そこで俺から受けた説明をざっくりと説明する鈴香。どっかの魔王にお願いしてとか、強くなって仲間が増えたとか、あの時助けてくれたのもリューマだったとか、時系列もバラバラであったが、ジャスミンにはちゃんと伝わったようだ。


「マジで、あのおっさ……、用務員さん、凄い人じゃん!

 マジ、ソンケーするよ!」


 彼女にしては最大級の褒め言葉だったのだが、ミィヤは少し気に入らなかったみたいだ。

 しかし。


「しかも、こんな可愛いくて強いお嫁さんをこっちで貰っちゃうとか、マジやるなー!

 かなり見直したかも!」


 という言葉を聞いて、機嫌を直したみたいだ。

 帰ってくる前に和解したみたいで、良かったよ。


 残りは、町の静かな場所にいる数人だけだ。そちらには瞳月と明日香、そしてシャクティが向かっている。


「見つけたのじゃっ!」


「あれは、野田さんと根津……と山田かな?」


「なんか、暗い顔しているねー?

 どうしたんだろ?」


 三人は、何かを思い詰めた顔で話をしているようだ。


「もう、限界だよ!

 私、いくら魔族の人相手だからって人殺しとかしたくない!」


「俺だってそうだよ!

 でも、この腕輪がある限り逃げるなんて出来ないんだよ!」


「お前たち、落ち着けって! きっと響子先生がなんとかしてくれるって!

 ほら、戻ろーぜ。な?」


 近づくと、どうやら眼鏡っ娘の野田美文子(のだ みやこ)が逃げようと考えているのを引き戻しにきた根津、さらに二人を探しに来た山田という感じからしい。

 あ、山田は男の方の山田ね。


「嫌よ、もう嫌なの!!

 私は、図書館で本を読んでいるのが好きなだけなのに、なんで戦わないといけないの?!

 こんな生活、もうウンザリなのよ!」


 美文子は、戦わされてばかりの生活にストレスが溜まり、限界を迎えているみたいだ。

 このままでは、二人を振り切って国外へ逃亡も有り得るだろう。


「はい、ストーップ!」


「野田さん、迎えに来たよっ!」


「え、加藤さんに天堂さん?

 ……と、その女の子は誰??」


「妾はシャクティ。今はリューマの下僕なのじゃ!

 話は分かったのじゃ。だから、妾の目をよーーーく見るのじゃ」


「え、何?

 綺麗な瞳……ね……」


 すると、パタリと倒れてしまう美文子。

 それに驚いて、他の四人は固まってしまう。


「何をボーッと見ているのじゃ?

 急ぐのじゃろう。そこの男の子よ、この女子を抱えるのじゃ」


「え、俺?」


「お主、彼氏じゃろう?

 さっさとせんか!」


「え、ちがう。は、はい!」


 シャクティに言われて、美文子をおんぶする根津。それを心配そうに見る山田。


「えっと!話は後にするね!

 とにかく、みんなが集まっているから着いてきて!」


「わ、分かった。」


 こうして、半ば連行されるように連れ戻された根津たちであった。


 色々とあったが、全員を見つけて連れ戻すことに成功したようだな。


 ──こうして、生徒全員が店に集まるのだった。

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