第124話 呪縛からの解放

「……壊れた」


「さぁ、他の皆さんも手を出して下さい」


 タニアに皆を腕を出す。

 そして次々に粉々に砕けていく。


「ということは、本当に?」


「はい、間違いなく腕輪が機能していないみたいです」


「「やったー!!」」


 はしゃぐ、鈴香たち。

 そして、腕輪が無くなったのを呆然と見ている響子。その顔は信じられないといった様子だ。


「響子ちゃん、惚けている場合じゃないよ?

 直ぐに全生徒を集めてくれ。

 装置が壊れて魔導師が死んだとなれば別の方法で他の生徒を拘束しようとするかもしれない」


「あっ、そうですね!

 直ぐに行きます!」


「マリウスが出てくるとは思えないけど、念の為俺も一緒に行く。急ぐ必要があるから、生徒達には響子ちゃんのスキルで言うことを聞かせてくれ!」


「……分かりました。混乱を避けるには必要なことです。こういう時の為だと思えば、私が授かったことに意味を持てそうです」


「そうだな、きっと悪用しない響子ちゃんだからそのスキルだったんだよ。

 さあ、急ごう!」


「あれ、オーナーお出かけですか?」


「ああ、今から人を迎えに行くんだ。

 これから追加で26人連れてくるから、ケーキ追加でよろしくな!」


「えええっ?!

 それは随分と多いですね。

 ……分かりました、気合い入れて準備します!」


 ハンスは意気揚々と厨房に戻って行った。

 大変な作業ほど燃えてしまうのは職人の性だろうか?

 でも、きっと美味しいものを作ってくれるだろう。


 それじゃと外に出ようとすると、星香がそれを阻むように前に出て提言してきた。


「私達も、みんなを探してきます!

 人探しなら、多い方がいいでしょう?」


「そうね、星香。急ぐなら私達も行きましょう」


 星香に続き、瞳月も一緒に探すつもりのようだ。

 大勢を集めるなら分散した方がいいが、一人になるのは危険な気がする。

 全員ステータスが高いと言っても、それは一般人から見てだ。

 現に騎士団員も鈴香達に近いステータスまで上がっていた。いくら、こちらよりも低いステータスだとしても戦闘に慣れたプロを複数人相手するとなれば、負ける可能性が高くなる。


「マスター、心配されているのは分かりますが時間がありません。

 流石に一人では危険ですので、二人づつの班に分けて行動するのがいいでしょう。

 また、随時連絡を取れるように私の分身を各班に配ります」


 そう言ってタニアは、水晶の分身を創り出し、星香、瞳月の手の平に乗った。

 これは響子やハンス、女王に渡しているものと一緒だな。

 主に伝言用に使っているけど、随時接続状態にすればトランシーバーのように使える。


「キョーコのスキル『統率者』は、支配領域にいる仲間の意識を操作し、その能力を向上させた上で最高のパフォーマンスを引き出すことが出来るのが主な効果です。

 ですが、もうひとつ効果がありますね?」


「えっと、『鑑定』で見たんですか?」


「ええ、だいぶ前に全てのステータスや健康状態、身長、体重、体形やスリーサイズまで把握済みです」


「ちょ、ちょっと?! 私の情報だけ細かく調べすぎじゃない?!」


「マスターが気にしている女性なので、いつでも答えれるように全て調べました」


 その瞬間、こちらを凄い勢いで見てくる響子。いやいや、俺が調べろって言ったわけじゃないよ?!


「リューマ兄ちゃん……、まさか私の体重やスリーサイズ聞いたの?」


「ま、まて。そんな話、今知ったんだ!

 いや、知っていたとしても聞かないよそんな情報は!」


 響子の目が据わっている。これは怒っている時の顔だな。

 必死に弁明するが、効果は薄いようだ。

 なぜか、横にいるミィヤから強烈な肘鉄を食らう。いや、マジで痛いんですってば。ちゃうんです、えん罪ですってば。


「はぁ、まぁどうしても知りたいなら、直接聞いてくれるなら教えてもいいですけどね?

 それで、……聞きたい?」


「え、教えてくれるの?!

 ……いやいや、聞きません。そんな失礼なことしないってば。

 あ! そんな話より、スキルの内容を教えてくれタニア!!」


 話を逸らすと、『もう、バカ』と小声で聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。友人から借りたゲームキャラのセリフをなぜかこのタイミングで思い出しただけさ、きっと。うん、どっちにしろ俺ヤバい人じゃん。

 よし、話を戻そう。


「……はい、マスター。もう一つの効果は、一度『統率者』の効果を受けた者の位置を把握出来るのです。

 これによりキョーコは、生徒たちの所在地を把握出来るはずです」


 へぇ、そんなスキル効果があるんだな。

 だとしたら、響子から情報を貰って動きつつ散らばって探せばいいのか。


「なるほど、それじゃあ、一番生徒が多い練習場へは俺と響子ちゃんが行こう。

 それ以外は、タニアの水晶経由で場所を知らせるから、それに従って動いてくれ。

 あと、シャクティ……」


「なんじゃ、主様?」


「お前は、瞳月と明日香の班の護衛だ。死守しろ」


「分かったのじゃ。今、この王都にいる人間程度なら妾に勝てる相手はいないから安心して任せるのじゃ!」


「え、今シャクティって言ってなかった?

 それって、魔王と同じ名前……」


 瞳月が何かに気が付いてしまうが、そこはスルーだ。

 全力でとぼけることにした。


「ソウダッタノカー! タマタマ オナジ ナマエ ツケチャッタヨ。

 で、ミィヤは星香と鈴香のサポートをしてくれ」


「なんで、あからさまな片言なの?!」


「逆に怪しくない?!」


 瞳月だけでなく、明日香にまでツッコまれることになったが気にしない。

 知らないことが幸せな時もあるんだよ。


「ん、分かった。それじゃ私は星香をサポートする」


「えー、わたしも守ってよーっ?」


「鈴香は私よりも強い。それに早いから無理。

 星香は私が護るから、安心して敵を倒すといい」


「ちぇー、わかったよー」


 鈴香は納得いっていない顔をしているが、実際ミィヤより鈴香の方が強いからな。

 星香もミィヤよりも強いのだが、前衛向きな性格をしていないので、突っ走る鈴香以外にサポートしてくれる人がいるのは安心だろう。

 それに道中は連絡係になるので、そちらに集中出来るのでミィヤが同行するメリットは大きい。


「今までは王宮の人たちに逆らうが出来なかったけど、腕輪がなければもう気にする必要はないわ。

 死なない程度なら、やっちゃっていいわ!」


「わーお、響子先生がそんな過激な発言するなんてよっぽど鬱憤が溜まっていたんだね。じゃあ、みんなを解放しに行こう!」


「おー!」


 えーと、結局仕切られてしまったな。こういう所で俺のリーダーシップの無さが出てくるな。まぁ、目立ちたい方じゃないし仕方ないか。

 さあ、全員の腕輪を破壊して解放したらこの戦争をボイコットするぞ!


「よし、俺達も行こう」


「うん。リューマ……(お兄ちゃん)」


 ごふ、恥ずかしそうに小声で言われると余計にクラっとくるな。

 なんか変な方向にハマりそうな気がしてきたわ。

 今さらだけど、友人があの恋愛系ゲームにはまっていた気持ちが分かる気がするのだった。

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