第123話 解呪

「さて、俺の話は終わった。

 喜べ、明日お前の願いが叶う。楽しみにしているがいい。

 さて、帰りは同じ転送門から帰ればいいからな」


 興味は失ったとばかりに、話を終わらそうとする魔王ベルフェゴール。

 魔王は我儘なやつばかりなのかな。

 でも、逆らえる相手が少ないから自然とそうなるのかも。


「分かった。それじゃ、また明後日に来るからな」


「ああ、楽しみだよ」


 こうして、俺たちは魔王ベルフェゴールとの話は終わった。

 王座の間を出て、息をほっと吐く。

 そう言えばミィヤはずっと黙っていたなと隣を見るとミィヤが顔を真っ青にしている。


「だ、大丈夫かミィヤ!?」


「私は大丈夫、大丈夫、大丈夫……」


 いや全然大丈夫じゃないよっ?!

 一体どうしたというんだ?


「どうやら魔王ベルフェゴール様の『神威』にあてられたようですね。

 上位精霊の私でもあの方の前に立つのは疲れますから、ハーフリングのミィヤはかなり辛かったでしょうね」


 なるほど、ステータスの違いってこんな所にも影響があるのか。もしくは『精神力』を使っているからかな?


「とにかく帰って、直ぐに休もうか?」


「うん、リューマ。じゃ、おんぶ」


 いや、なんでそうなるんだ?!

 あ、疲れたんですかそうですか。仕方ないな、可愛い嫁の頼みだ。家に帰るまでおぶっていこう。


「マスターは、ミィヤに甘すぎでは?

 たまには私も……」


「羨ましいのじゃ、妾もおんぶがいいのじゃ!」


 なんか、みんなここぞとばかりに甘えてくる。これはあれか?

 極度の緊張した後にくる吊り橋効果的なやつか?

 しかし、流石に三人おんぶとか無理なのでミィヤ以外の二人は断った。嫌なわけじゃないけど、ミィヤが最優先だからね。


「ん、リューマの匂い落ち着く……」


 そう言って、ミィヤは直ぐに寝てしまったけどね。こうして背中で寝ている姿を見ると、子どもみたいなんだが、背中に当たり柔らかなものがそうでは無いとお知らせしてくる。


「さて、帰ろう」


「はい、マスター」


「妾も、おんぶー!」



 ──とある場所。

 そこでは、またこの世を支配する者たちが密談する。


『今しがた、『怠惰』がゲームに参加すると連絡が来た』


『ほう、彼奴がこんなに早くに参加を表明するとは珍しいな。

 いつもは興味すら示さぬのに』


『そのくせ、いつもしっかり陣地は守りきるから気に食わぬな』


『奴が昔から使っておる手駒は、負けを知らないからな。

 陣地を守るのには適している。ただ、それだと攻め込むことは出来ない。

 しかし、今回は新しい手駒を手に入れたようだぞ』


『ほう、彼奴が気に入るほどとは気になるな』


『大方異世界からやってきた勇者であろうよ。

 以前にも現れた時に、ちょっかいをかけていたようだぞ?』


『なるほど。では、こちらも準備に取り掛からねばな。『厄災の魔王』が復活するまであと半年だ。

 アレを満足させねば、我らの存在も危うくなる』


『まこと、迷惑な話だな』


『全くだ。しかし、我らでは傷つけることすら出来ぬ。真に口惜しいことよ』


 その後も、支配者たちの戯言はつづくのだった。



 ──次の日。


「おはようー」


「おはよう、リューマ。

 遂に、キョーコたちの呪いが解けるね」


「おはよぉなのじゃ主様に、奥方殿。

 昨日は良いものを見せてもらったのじゃ」


「いや、覗いていたのかよっ!」


「覗きとは失礼じゃ! 妾は普通に堂々と見ていただけなのじゃ。お二人が気は付かないほど熱中していたようだがの。羨ましいのじゃ!」


 昨日は帰ってから皆で食事を取り、そして温泉に入ってリフレッシュしなおした。

 それからは、ミィヤがずっと甘えてきて朝方まで大変だった。そう、大変だった!

 若さの違いを見せつけられた気がしたよ。まぁ、そこまで体力落ちてないけど。


 さて、本当に呪いが解かれているのか確認しに行こう。これで解かれていなければ、戦争行かなくて済むんだけどね。

 でも、戦争行くよりも響子ちゃんや鈴香たち生徒が苦しんでいる方が、気分的には辛い。

 ましてや、今度の北への侵攻はある意味で人殺しを強制するものだ。


 兵たちは魔族であるが、姿かたちが人に近い者も多い。そんなところに無理やり行かせて、彼女たちに辛い思いをさせたくない。


「キョーコ達は直ぐに来ます。

 どうやら、鈴香たち四人も来るようです」


 待ち合わせ場所は、ケーキ屋だ。

 かなり繁盛していて、いつもなら開店時間だが今日はオーナー特権で臨時休業にしてもらった。

 ハンスは事情を話すと快く承諾してくれただけでなく、俺たちにケーキを用意してくれている。

 さらに腕を上げているらしく、今から食べるのが楽しみだ。


(マスター、目的がズレています)


「分かっているよっ!

 でも、これをみんなで楽しむために頑張っているみたいなもんだからな」


 そんな話をしていると、五人がやってきた。


「お待たせしましたっ!」


「おっちゃーーんっ!!

 久しぶりっ!!」


「どあっ?!」


 扉が開いた瞬間、鈴香が響子を跳ね除けて俺に飛びついてきた。

 遠慮なく飛び込んできたので、そのまま受け止める。今日も可愛いやつだな。なんか、凄く懐いているワンコを見ているみたいだ。


「鈴香はもう諦めた。それに私はこの程度で目くじらは立てない。なぜなら、私は大人のオンナ」


「その割に、目が怖いんでんすけど……」


「綾堂さん!

 いつまでも、男性に抱きつくのはどうかと思いますよ!」


「えーっ、大丈夫。オッチャンはそういうのじゃないから!

 えへへ、なんか落ち着くんだよねぇ」


 うん、そう見られていないのは分かっているけど、ハッキリ言われるとなぜか悲しいな。


 さて、いつまでもこうしている場合じゃないので鈴香を剥がしてからみんなを中に招き入れる。


「全く、鈴香は少しは節操という言葉を覚えた方がいいですわよ?」


「全くね。いくら鈴香でも大人の男性に抱きつくのは破廉恥な行為なのよ?」


「もー、星香としずくちゃんはお母さんみたいー」


「なんですってっーっ!?」


「どうどう、みんな落ち着こう?」


 四人は相変わらず仲が良いなー。

 こんな風にじゃれ合っている四人を見ると、ただの女子高生にしか見えない。

 こんな子達を戦争に行かせようとしている、この国の大人たちの気持ちが全く分からない。

 断固として阻止してやるぞ!



「それで、大事な話があると聞いて来たんですが、何かあったんですか?」


「ああ、実はな──」


 そこで、魔王ベルフェゴールに会いに行き呪いを解除して貰ったことを話す。

 魔王に会う条件にダンジョンを三つクリアする条件だったのでクリアしてきたことや、遂に昨日に魔王ベルフェゴールに会って話してきた。

 そして、王家により全員に掛かっている呪いは今日解けるはずだということ。


「──マスター、確認取れました。

 『さっき、呪いの元になる装置を壊しておいた。ついでに稼働させていた三下魔導師は始末しておいたぞ』とのことです」


「うわーっ、加担してたとはいえ殺っちゃダメだろ。そんなこと魔王に言っても仕方ないけどさ」


「安心してくださいマスター、その方の魔力は魔王様の糧になっております」


 そんな美味しく頂きましたみたいに言われてもなー。

 そんなことよりも、本当に解除されたのか確認をしないとな。


「じゃ、その腕輪外してみるか。

 タニア、出来るか?」


「お任せ下さい、マスター。

 『物質破壊ディストラクション』!!」

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