第122話 ベルフェゴールからの依頼

「まずは、ダンジョン三つの制覇おめでとう。

 まさかそんなに早く集めてくるとは思ってなかったぜ」


 ベルフェゴールはニヤリと笑い、参ったなというジェスチャーをする。

 その顔はまったく困っている風には見えないけどね。


「一体、何のためにダンジョンコアを集めさせられていたんですか?」


「あー、その取り繕った口調もいらん。

 めんどくせぇ。

 集めさせていた理由はいくつかある。

 まずはお前の力量を測りたかったのさ」


 ベルフェゴールはまず俺を呼んだ理由を説明した。魔王って割に、律儀だな。

 日本の会社の命令だけするような偉ぶっている人々より、余程人格者かもな。

 口調も普段通りでいいと言うし、遠慮なくそうさせてもらおう。


「魔王に力量を測られるって……。

 俺に頼みたいことでもあるのか?」


「まぁ、焦るな。

 話は最後まで聞くもんだぜ?」


(マスター、ベルフェゴール様が饒舌に話すのは機嫌がいい時だけです。

 ここは素直に聞いて下さい)


(そうなのか? 分かった、大人しく聞いておくよ)


「それで次に、お前に魔族を従える素質があるか見ていた」


 従えているというか、助けて貰っているというイメージだけどね。

 ちらりとタニアを見る。一緒にいるのはどの魔族でもいいというわけじゃない。タニアだから一緒にいるという面が大きいな。

 ああ、アビスは……、オマケだな。


「素質?」


「ああ、そうだ。

 あのダンジョンコアっていうのは、誰でも使える物じゃない。それなりに、素質が必要なのさ。

 特に魔力が低いと、手に取った瞬間に魔力を吸い取られて死に至ることもある」


「え、そんな物だったのか」


「ああ。だが、それも最初のコアを手に入れた時点で問題ないと分かってはいた」


「しかし、三つも所持するとなると、かなりの負担なはずだが、お前は平気なのか?」


「所持って言っても、俺が持っているわけじゃないし」


「お前はアホか。そこの三体はコアだろう?

 コアを支配するにはかなりの精神力が必要になる。それこそ、並ならぬ魔力と知力がなければすぐに発狂するレベル……、待てよ?

 お前のステータス、レベルと合っていないな。

 はっはっはっ、お前はやはり面白いな」


 え、怖い、魔王が一人で納得して笑ってるんだけど。俺、何かしでかしたか?いや、しているな。

 ステータスが異常なのは色々聞いて理解しておるけど、魔王にも変だと思われるレベルなのか。


 しかし、コアを扱うのに魔力と知力が必要だとは知らなかった。

 もしかして、必要魔力とかあるんだろうか?


(マスター、普通の人間なら一つのコアだけでかなり体に負担を感じるみたいです。ただ、マスターの場合は魔力と知性が他の勇者の数倍あり、感じてもいなかったようですね)


(なるほど、ステータスが高い影響はそんな所にも現れるのか)


「異世界より現れる勇者っていうのは、やはり面白いな。我らの想像を超えてくる!」


「現れるっていうか、召喚されたみたいだけど?」


 確か、マリウスの召喚によって俺たちはこっちの世界に来たはず。

 それに合わせて、神様が俺たちの体を作り直してこっちに送り込んだ……、あれ?


「何を言っている? お前たちは、あのマリウスの小僧が失敗した魔法に合わせてあの場所に現れただけだぞ?

 確かに見た目は召喚されたように見えるが、あれはお前たちの世界の神が細工したのだろう」


「へぇー! そうだったのか。

 いやだったら、もっとマシな場所に召喚して欲しかったよ」


「敢えてそうしたんだろうな。もし俺が異世界から召喚するならそうするぞ」


「え、なんでだよ?」


「簡単な話だ。そのほうが面白いからだよ」


 なんだと!?

 ようは神から見たら下等な生物があたふたしているのが見たくて、わざと過酷な環境に送り込んでいたのか?


 星香たちの話ではマリウスの魔法のせいで死んで、防ぎきれなかったから転生させたとかだったよな?

 それも、もしかして嘘だということか?


「どこの世界の神も、娯楽を求めている。

 なんせ悠久な時間を過ごしているのだ、飽きてもくるだろうよ。

 まだ数千年しか存在していな俺ですら、この世界に飽きているのだからな」


「なるほど……。納得は出来ないけど、理解はしたよ。

 少なくとも俺らの世界の神は、クソな奴だってのはな。

 それで、王都にいる勇者たちの呪いは解いてくれるのか?」


 もう終ったことはどうでもいい。

 どこかで俺らを見て楽しんでいる神には言いたいことがあるけど、どうやったら会えるか分からないし、どうせ会ってもどうにもならない。


 だったら、今やりたいことをやるんだ。

 その為には、あの呪いは邪魔だ。みんなで楽しく好き勝手に生活するには解除が必須なのだから。


「まぁ、焦るなよ。約束は守るさ。

 それより、リューマよ俺と契約しろ!」


「いきなり何を言っている?

 なんの契約か分からないのに出来るわけないだろ」


「ふん、ノリの悪いヤツめ。

 これから『厄災の魔王』が復活する。それまでに俺たち魔王は、序列を決めるんだよ。

 ただ、俺たちが直接戦うとこの星が無くなる。

 そこで、俺たちは代理人を立ててそいつらを争わせて決めることにしているんだ」


「へぇ、いわゆる代理戦争か」


「そうだ、お前には俺の代理として出てもらう。

 この代理戦争に出るには、辞退が出来ないように契約を交わすのが習わしなのだ。

 まぁ、恐れをなして逃げる輩がいるからな。

 逃げられないようにするのさ」


 響子たちの呪いを解くために、今度は俺が呪われるようなもんか?


「逃げないなら、どこで何しててもいいのか?」


「もちろんだ。勝つためには準備は必要だろう?

 ただ、契約したらこの代理戦争が終わるまでは解除されない。

 また、何処にいても代理戦争が始まれば強制的に戦場に転送される」


「いつ始まるんだ?」


「そうだな、約半年後だ」


「俺以外の戦力は用意しているよな?」


「何言っている?

 お前以外は用意していない。そんなの用意したら面白くないだろ?

 言っておくが俺はお前が負けて死んでも構わない。序列なんかどうでもいいからな。ただ、つまらない死に方したら許さんからな?」


「いやいや、死ぬ気はないけど鬼かよ!

 いや悪魔なのか?」


「仲間が必要なら自分で用意するがいい。

 俺が手助けすることは無いと思え」


 もうやることが決まったみたいに言っているけど、まだ契約するって言ってないからね!

 しかし、断ると呪いは解いてくれない。

 くそ、受けるしか道はないか?


「……、分かった。

 だか、契約を結ぶのは全員の呪いが解けてからだ。流石にそんな過酷な契約結ぶんだ、先に報酬貰ってからじゃないと信用出来ない」


「ふん、仕方ないな。

 では、明日になったらお前と同時に転生してきた人間全員の呪いを解こう。

 お前はそれを確かめて来るといい。

 先に言っておくぞ?

 呪いを解いたのに逃げたら、全員を殺す」


 これってもう断れないやつじゃないか!?

 どうやら、俺が参加する運命はここで確定したようだった。

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