第121話 魔王からの呼び出し

 村に帰ってきてから丸々二日ほど休養にあて、ゆっくりしていた。

 王都の様子ではまだ出兵の準備は出来ていないようで、思ったよりも余裕が有りそうだったからね。


 バザンたち、元騎士団員は以前とは見違えるように生き生きとした顔で働いている。

 ダンジョン外に畑を作っているので、それを耕したり、木を伐採して開墾したりと主に力仕事を任せている。

 狩りなんかもしていて、『シャクティ様への貢ぎ物だ、死ぬ気になって獲るぞ!!』と目を血走らせながら出ていった時はドン引きしたわ。

 魅了されているからって、あんなに変わるものなのか?


 そんなみんながあくせく働く中、俺とミィヤは温泉に浸かってまったりとしていた。

 大体のことはタニアに任せれば問題ないし、何かあればすぐに分かるので心配もしていない。


 そんな時、遂に来てしまった。


「──マスター、魔王ベルフェゴール様よりご伝言を預かりました。

 お伝えします。

 『今から二時間後に転送門を開くので、そこを通ってこちらに来い』とのことです」


 思ったよりは遅かったなぁ。おかげで久々にゆっくり寛げたけど。

 でも、まさか向こうから招待されるとは思わなかったよ。てっきり指定の場所まで行って、そこにいるみたいなパターンだと思ってた。


「分かった。すぐに準備しようか」


「はい、畏まりましたマスター」


 タニアに必要な物を見繕って貰い、準備を進める。一応、何か土産は必要だろうかと聞いて貰ったが要らないとこのと。

 魔王ってなにも食べないのかな?

 シャクティは普通にご飯食べているけど、魔族だから味を楽しんでいるだけらしい。


 俺が留守にしている間に、ダンジョンの拡張も順調に進んでいる。

 外敵から身を守るために、村の人々は殆どの時間をダンジョン内で過ごす。

 だから少しでも快適に過ごせるように色々と用意している。


 地下一階は殆ど何も無い空間にしている。地上から攻撃されても影響がないようにがらんどうだ。

 地下二階は主に食料庫や、武器庫、道具保管庫などがある保管庫フロアと、村の職人が物を作るための工房がある工房フロアに分かれている。

 各地から仕入れた材料や鉱石、素材など各保管庫に保管している。

 工房フロアは溶岩を利用した鍛冶工房や、木炭を作る炭焼き竈などがある。もちろん排気は完璧だ!


 地下三階は居住区になっている。

 地上にいるじゃないかというくらい明るい。天井に光る水晶があるからで、この光で植物も育つので辺りには草木が生い茂る。

 小さな畑とかあって、家庭菜園みたいなのがあちこちにある。

 村人全員の家が建ち並び、各家にトイレや風呂も完備している。

 中心にある広場には精霊樹があり、その根元には大精霊石が守られるように設置されていた。


 少し離れたところに大きな温泉があり、村人も自由に使える。ちなみに、俺が浸かっていた温泉は俺とミィヤ専用だ。村長特権で作ってもらったのだが、これくらいの我儘は許してくれている。


 地下四階は囚人を収監する牢獄が設置されている。草木は生えていないが、明かりも十分だしトイレや風呂もあり、水も飲み放題だ。

 ダンジョン内で病気になられても困るから、衛生面に気をつけてもらっていた。

 おかげで騎士団員たちは健康法そのものであったし、食事も十分に与えていたし、運動もしていたから力が有り余っていたみたいだね。


 地下五階にはダンジョンのコントロールルームがあり、魔王はここに転送門を作るらしい。

 もちろん、タニアが許可しているから可能なのであって、いくら魔王でも他者の支配下にあるダンジョン内に転送門を勝手に作るなんて出来ない。


 予定の時刻になり、ダンジョンの地下五階に大きな転送門が出現した。

 さすがは魔王と言うべきか、単なる転送門と違って見た目も装飾もかなり豪華だ。


 これってどうやって作ったんだろう?あ、転送門って魔法なのか。そう考えるこだわりが強い性格ってことだろう。


「よし、行くか!」


「うん」

「はい、マスター」

「行くのじゃ!」

「行くのですぞ!」


 ──


 門をくぐり抜けると、そこはまるで別世界。

 辺り一面が銀色に輝いている。

 一瞬、雪景色なのかと勘違いしたがそうでは無いらしい。


「これは、銀の水晶?」


「これは魔銀水晶。高密度の魔力が結晶化したものが水晶に含まれているのです。

 これだけあると、普通の魔族なら溢れ出す魔力だけで生きていけますね」


「それだけで、魔王の格が分かるな。

 そして、今俺たちはその魔王の腹の中ってわけか」


 そして何気にシャクティを見る。

 あれ、シャクティのところはこんなもの無かったよな?


「なんじゃ、妾の顔に何かついているのか?」


「いや、何もついてないよ。

 シャクティがいた所と随分と違うなと思って」


「なんじゃ、そんなことか?

 妾は勇者に負けて千年近く休んでおったからな、魔王の中でも最弱勢力だったのじゃ!」


「威張ることか?」


「それにここにいる魔王は、魔王は魔王でも……おっと『禁止事項』みたいじゃ。

 あとは本人から聞くといいのじゃ」


 そう言うと、ニコニコするだけで黙ってしまう。何それ、逆に怖いんですけど。


 しかし、呼ばれた以上さっさと会いに行かねばね。

 最初に入った会社を思い出すな。よく無駄に呼び出されては、やってもいないミスを押し付けられて怒られたな。

 処世術も切り抜ける智識も無かった俺はひたすら我慢するしか無かったんだよな。


 今考えれば馬鹿らしい話だが、新人だった頃はそれが当たり前だと思い込まされていた。

 なんとも理不尽な話だ。まぁ、こっちの世界きてから即行理不尽な目にあっているけどな、ハッハッハ!なんか泣けてきた。


「マスター、私が……私たちがいます。

 心配なさらないで下さい」


「そうなのじゃ、いざとなればみんなで逃げるくらいは造作も無いことなのじゃ!」


「ん。私も一緒。

 だから心配しないで」


  皆の励ましに心が温まる。

 そうだ、やることはやってきたんだ。ここまでくれば腹を括るしかない。


 城への道はすぐだったが、とても長く長く感じた。

 城門には魔族の門番が立っていた。見るからに強そうだ。


「待っていたぞ!主がお前たちを通せと仰せだ!

 入るがいい!!」


 やたらデカい声だな。鼓膜が破れそうだよ。

 しかし、すんなり通してくれて良かった。

 余計な闘いは避けたいのが本音だ。


 中もシックではあるがどれも高級品だと分かるものばかり。

 そもそも城だもんな。

 シャクティは傷を癒すためにダンジョンにいたけど、本来は城にいたのだろうか?


「シャクティは城持っているのか?」


「妾の城は、没収されたのじゃ」


「え?」


「勇者に負けたからと、没収された挙句に地下に追いやられ、今ではこの通りじゃ」


 あっはっはっ!と笑っているがいいのかそれで?


「あ、でも主様の配下になったのは結果的には良かったのじゃ!

 もう勇者に狙われないし、魔王の責務も使命も無くなった。こんな自由を手に入れたのは初めてなのじゃ!」


「そうなのか。それなら良かったよ。

 結構滅多打ちにしたし、恨まれてないかとしんぱいだったんだよな」


「あー、あれは妾もドン引きなのじゃ……。

 もう二度受けたくないオシオキじゃな。

 でも妾は、そんな容赦のなさも含めて主様に惚れたのじゃ!

 一生ついていくから、よろしく頼むのじゃ!」


 いきなりの爆弾発言にミィヤが反応する。目がマジだ。


「リューマは私のもの。シャクティが元魔王でも譲る気は無いから」


「奥方は怖いのう。でも、大丈夫なのじゃ!

 妾は第二夫人でも問題ないのじゃよ。

 まだ魔力が戻らないからこんな姿じゃから子は授かれぬが、戻ったら奥方の次に世継ぎを産んでやるのじゃよ」


「リューマの奥さんは私だけで十分。

 世継ぎも私が頑張るから大丈夫」


「いやいや、強者の世継ぎは多い方が良い。

 ハーフリングも王家の者は一夫多妻制のはずじゃが?」


「なんで、それを……」


「おや、まさか主様に言ってないのか?

 なるほど、奥方にも色々とあるのじゃな。

 まぁ、その話はまた帰ってからじゃな」


 一夫多妻制とか初耳なんだけど。というか奥さんを沢山とかそこまで俺に甲斐性があるとは……。

 あ、王座の間に着いたらしいな。


「魔王ベルフェゴール様、お客様が到着しました」


「ご苦労。

 さて、呑気な話が聞こえてきたが相変わらず面白い人間だなリューマよ」


「お初にお目にかかります、魔王ベルフェゴール様。

 私はリューマです。本日はお招き頂き──」



「堅苦しい挨拶はいらん。

 早速、本題に入ろうか人間リューマよ」


 遂に、魔王ベルフェゴールとの対談が実現した。

 これからどんな話をされるのか、嫌な緊張感を感じる俺であった。

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