第120話 シャクティのお仕事

「タニア殿、こやつらは何者じゃ?」


 ここは、地下四階に作られた村の囚人のみが収容されている牢屋フロア。

 かなりの広さがあり、各自の行動も制限されていないため、各々鍛錬や運動などをして時間を潰している。

 また食事も水も十分に与えられていて、陽の光こそ入らないが光る水晶により灯りは照らされているため、健康状態も良好のようだ。


「この者達は、卑しくもマスターの村を襲い、手心を加えられて生き残った者達です」


「ふむ、つまり跡形もなく消し去れば良いのじゃな?」


「ひっ、ご勘弁を!!」


 不穏な言葉を発する、見たこともない魔族に警戒する騎士団員達。

 それなりに実力があるからこそ、見た目と強さが全く違う少女に恐怖を感じていた。


「違いますよシャクティ。

 貴女の実力なら、一瞬で消し炭にすることも可能でしょうが、マスターはそれを望んでおりません。

 ですから、『色欲』スキルを使って労働力に変えたいのです」


「なるほど。タダ飯食らいからこの村の労働力に変換するということじゃな。

 心得たぞ。では、早速作業を開始しようか。

 一人づつ、確実に、後戻り出来ない人生を与えるのじゃ!」


 そうして、シャクティの目が怪しく輝く。

 それは獲物を見定めた狩猟者の目。決して逃さないと、その視線だけで物語る。


「うひっ、何するつもりだ!止めてくれーっ!!」


 シャクティの魔眼に撃ち抜かれて倒れる隊員達。

 その中で只一人、怯えずにシャクティの目の前に立つ者がいた。


「お前がどんな化け物だろうと、これ以上隊員達をやらせる訳にもいかん!

 俺が相手だ、さぁこい!」


「うーん、まあ、気概だけは受け取ってあげるのじゃ!

 シャクティ・アイッ!」


 パチンッと可愛くウインクするシャクティ。

 それを傍目に見ながら、タニアはため息をつく。


「なんですか、それは」


「今考えたのじゃ!

 可愛いじゃろう?」


「はぁ、そうですね可愛いです」


「むぅ、心が篭っていないのじゃ!」


 ちなみに騎士団長は、先程のウインク一つで倒れてしまったようだ。

 やはりどこか抜けているんだよな。

 阿呆な子供ほど可愛いと言うが、それに近い感覚かもしれない。人類としては強い方なのに、なぜこんなにダサいのか、見てて面白い。


 そんな騎士団長は、むくりと起き上がった。

 その表情は、一言で言うとヤバい。

 何がヤバいかというと、恍惚の表情を浮かべつつシャクティに熱い視線を送っている。


「おお、シャクティ様!

 何故、私は今まで貴女の超絶なる魅力に気が付かなかったのか!

 私、バザンめはこの身を一生貴女に捧げます!」


 なっ、血迷ったのか?

 見た目幼女のシャクティの足元に近づくとその靴に口づけしようとする。

 そして、その頭を容赦なく踏みつけるシャクティ。


「ふん、お前の汚い口づけなどいらんのじゃ。

 おこがましい!

 貴様のようお豚は、地面と接吻しているのが相応しいのじゃ!」


「はっ、仰る通りでございます!!」


 そう言いながら、言われた通りに嬉しそうに地面に口付けしている。

 ダメだコイツ。

 ああ、いや違うな。これは『色欲』スキルで魅了されたのか?


 こわっ!

 俺も無防備に対面していたら、こうなっていたのか……。

 こうなる前に倒せて良かったな。

 リリスが落としたアーティファクトがあって良かったよ。


「リューマ、どうした青い顔をして?」


「いや、ちょっとタニア達の様子を伺ったら気持ち悪いものを見てしまっただけだよ」


「そうなの? そんなものを見るくらいなら、ミィヤを見つめた方がいいよ?」


「そうだな、そうする……」


 その後のことは、タニアから聞いたが騎士団員全員がシャクティにひれ伏し忠誠を誓ったらしい。

 『契約』をして、魂を縛ったので裏切れば死んでしまうらしく、もうこちらに危害を加えることはないとか。


 まるで悪魔の契約だな。

 あれ、ヴァンパイアって悪魔だっけ?違うよね。

 あの二人はそれ以上に怖い存在なのかもしれないな。


(──マスター、私は怖くないです)


 いや、そこで俺の気持ちをそこまで読まないでよ!

 下手なこと考えないようにしておこう。


 数十分後、シャクティが騎士団を連れて戻ってきた。それを見た村人たちは何事かと、ざわめき警戒した面持ちだ。


 つい先日自分たちを襲いにやってきた人間たちが今日来たばかりのシャクティに連れられて居住区に来たのだ。警戒して当然だろう。


「一体これはどういうことですか、シャクティさん」


「うむ、心配するでない。

 この者たちは妾の下僕となったのじゃ!

 これから、ここの村の為に心血を注いで働くからなんでも申し付けるとよいのじゃ!」


「は、はぁ?」


「あー、ごめん。レオル副村長。

 シャクティは『悪人を改心させる』スキルを持っているんだ。

 だから信じてやってくれ」


(マスター、そのようなスキルは……)


(分かってるって! というか、考えは読めているんだろう?)


(──なるほど。失礼しました)


 流石に相手を魅了して操ることが出来るとか言ったら、シャクティが信用されなくなる。

 これから一緒に行動するのに、それはとても都合が悪いからな。今は仲間だし、なるべく悪い印象を与えたくはない。


「ということは、これからはこの人たちも村で働いてもらうことかな?」


「ああ、そのつもりだ。

 村を襲おうとした事実は変えられないが、これからの働きでその償いをしてもらおうと考えている」


「私たちは労働力が増えるからいいけど、その人たちは本当に大丈夫なのかしら?」


 村の人々はやることが沢山ありすぎて困っているほどだ。その中で労働力が増えるのは願ってもいないことだ。

 しかし、相手が王国の人間で、しかも騎士団の団員と団長だ。今頃は王都でも捜索しているに違いない。

 そんな人物が、この村で働くのは本人たちが良くても問題が起きないか?という疑問だった。


「あー、そこは大丈夫だ。

 王国と北の魔王の戦争が始まったら行って貰うし、無事に帰ってこれたらまた希望者は改めて村に迎え入れる。

 勿論、騎士団を辞めてからね」


「そんな! 我々はシャクティ様のお傍から一時でも離れたくありません!」


「そうだ、我々の主人はもはやワルダーユ王ではない! シャクティ様だ!」


「だが、シャクティ様の命令とあらば戦争に行くし、この村の為にも尽力いたすぞ!」


 騎士団員全員がシャクティに跪いて、忠誠をシャクティに示す。

 しかし、当の本人はあっけらかんとして言い放った。


「お前たちの忠誠などいらぬのじゃ!

 しかし、妾の主様であるリューマがお前たちに役に立てと言っている。

 妾の為にも、主様の言うことを聞いてくれるか?」


「「もちろんです!!」」


 こうして、シャクティにより傀儡と化した王国最強の戦力を手に入れた。

 開戦までは力仕事を存分にやってもらうか。

 まだまだ精霊ダンジョンの村には家が足りないからな。


「あとは、まぁ勇者の盾くらいにはなるか」


 と、若干他人事のように呟く俺であった。

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