第119話 村長の名前

 転送門を通り、村に帰るとなんか色々と変わっていた。

 まだここを出発して半月くらいしか経ってないと思うんだけど、随分と緑豊かな場所になっていないか?


「おー、リューマ殿戻られましたか!」


「やぁ、村長。ちょっと見ないうちにダンジョンとは思えない光景になっているな」


「はは、もうここの村長はリューマ殿ですよ?

 これからは、『お義父さん』と呼んでくれていいのだぞ?」


「お父様。ちょっとその言い方は気持ち悪い」


「ミ、ミィヤ?! 帰ってきて早々、気持ち悪いとはどういうことだっ!?」


「あなた。せめて婿殿にそう呼んでもらうのは、式を終わらせてからにしましょう?」


 おや、ミィヤの母親も出迎えてくれたみたいだな。

 タニアは事前にしらせていたらしく、今は村人総出で宴会の準備をしているのだとか。


「みな、リューマ殿の帰りを待ちわびていたのです。

 だから、今日は遠慮せずに寛いでくださいね?

 ……あら、そちらのお嬢様はどちらさま?」


「私は、シャクティ!

 リューマにボコボコにされて僕になったのじゃ!」


 シャクティのその言葉を聞いた瞬間、周りの目がこちらにズイーッと集まった。

 え、間違いではないけど、何かを誤解していませんか?

 確かに今は幼気な雰囲気を醸し出しているけど、この子は元魔王ですよー?

 なんてことは言えないので、ぐっと堪える。


「まぁ! リューマさん、いくら魔族相手だとしても、このような子供に手を出すのはどうかと思いますよ?」


「いやいや、ミィヤのお母さん誤解です。

 こう見えて、かなり上位の魔族なんですよシャクティは。

 きっと、この中で誰もよりも歳がう……え……」


 そう言おうとすると、シャクティの眼光が鋭く光る。

 それ以上言うと、ただでは済ませない。そんな強い意志を感じさせるほど強い意志が感じられた。

 あれ、俺の配下なんだよな? なんで俺に反抗する気満々なんだよっ!


「シャクティ、マスターに敵対行為は禁止です。

 いくらあなたでも、その行動は許されません」


「ふん! 女の歳は絶対的に秘密なのじゃ!

 マナー違反な主様が悪いのじゃ!」


 足をバタバタさせながら抗議する様は、デパートでイヤイヤする子供の姿に重なるな。本当に、こいつ魔王だったのか?

 ダンジョンコアで再構築したせいで、精神が幼くなったのだろうか?


「マスター、これがシャクティの素の性格のようです。

 きっと、生まれてからずっと我儘に育ったのでしょう」


「ふん、お嬢様育ちだと言って欲しいのじゃ!

 そもそも、妾に逆らう者などいなかったというのに、主様の配下になったからとても不思議な感覚ばかりじゃなぁ……」


 どうやら元々の性格と、俺への強制的な忠誠が相反している感じだな。

 しかし、それでもコアによる支配力の方が上回っているという事実がダンジョンコアが『神』が創り出した物だという実証にも繋がる。


 魔王すら支配するアーティファクト。

 その事実をタニアを創った魔王ベルフェゴールが知っていたのも気になるな。

 そして、ダンジョンコアを3つ集めた今、その魔王に会う日が近づいているのを思い出し妙な緊張感が湧いてきた。


「それはそうと、宴をするのじゃろう?

 妾は、久々に人間の作った料理が食べれるのが嬉しいのじゃ。

 ささ、はよう用意すると良いのじゃ!」


「ですが料理が出来上がるまでにまだ時間が掛かります。

 丁度シャクティに手伝って欲しいことがありますので、ついて来てください」


「んん? 分かったのじゃ。

 では、主様いってくるのじゃー!」


「おう、しっかりタニアの助けになってくれなー」


「まかせるのじゃー」


 そう言って、意気揚々とタニアに連れられて行った。

 タニアがわざわざシャクティに頼みたいことなんてあるんだろうか?

 もしかして、気を使って連れて行ったのかな?


「それで、リューマさん。あの子は一体何者なの?」


「ええと、それはですね──」


 そこで元魔王ということだけは伏せて、村の人々に説明をした。

 ダンジョンの支配者だったシャクティを倒してから、仲間にして連れて来たこと。

 彼女は真祖のヴァンパイアで、ドラゴン並みの強さがあること。

 そして、今では『契約魔法』によって俺には逆らえないという嘘も混ぜて伝えた。

 ちなみにこの案は、タニアが出してくれたものだ。これには事実上同じような制約があるので、そう説明したほうが伝わりやすいという配慮も入っている。


「なるほど、そういうことだったんですね。

 てっきり、リューマさんはそういう趣味があるのかと」


「こらこら、ティタ。いくらリューマ殿相手だからって、冗談でもそういうこと言うものではないぞ?」


「あら、あなただって少しは疑っていたでしょう?」


 ん?そういや、ミィヤのお母さんの名前初めて聞いたかも。

 ティタっていう名前なんだね。


「そう言えば、ミィヤのお母さんの名前を知りませんでしたが、ティタさんというんですね」


「あら、言ってなかったかしら?

 私の名前は、ティタ=ニザベル。これでも巫女長なのよ?」


「そう言えば、私も言っていなかったな。

 私はレオル=ニザベル。『精霊の棲む森の村』の村長……だったな。

 今は、村人のまとめ役だな」


「まぁ、お二人の職業は知っていましたが……、村長はそのまま村長でいいんじゃないですか?」


「いいや、ここはリューマは興した村だ。

 まして、ここはダンジョンの中だとういうし、私にはどうにも出来ぬからな」


「はぁ、分かりました。では、これからはレオルさんと呼びますね?」


「お義父さんでいいのだぞ?」


「それはそのうちで。レオルさん」


「早く、式の準備を急がねばな……」


 なんでそんなに『おとうさん』と呼ばれたいんだよ!

 まぁ、呼ぶのが嫌なわけじゃないんだけどさ。


「ごめんなさいね。私たちに男の子が生まれなかったから、息子が出来たみたいで嬉しいのよ。

 こんな大きな息子が出来るは思っていなかったけど……」


 そう言って見上げるティタさん。

 俺の身長は170cmと、日本人としては平均的な身長なんだけど、ハーフリングの人々からすると大男に見えるようだ。

 ちなみにハーフリングの人々は、130~140cmが普通らしい。

 ミィヤもティタさんも140cmくらいだ。二人とも可愛らしい。

 というか、ティタさんは俺よりも歳が上の筈なのにそこまでそう感じないな。これも身長差のせいだろうか?


「ははは、俺もこんな可愛らしいお母さんが出来るだなんて夢にも思いませんでしたよ」


「まぁ!年上の女性をからかうものじゃありませんよ?

 でも、ありがとうと言っておきますね」


 そう言って照れるティタさん、本当に可愛いです。とは言えないので心にしまっておく。そろそろミィヤの目が痛いし。


「お母様に手を出したら、リューマでも許さないよ?」


「いや、流石にそれはしないぞ?」


「絶対だからね?」


「は、はい」


 そんな俺らを見て、『ふふふ、相変わらず仲がいいみたいで良かったわ』とにこやかに笑うティタさんだった。

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