第117話 いいわけ

「ぐすっぐすっ、復活したばかりなのに、こんなに滅多に打ちに会うとは、お前は鬼か?!

 少しは敬いと労りの心をだな……」


「えっ、何か言った?」


 無意識にミスリルの大槌を構えてしまい、それを見たシャクティはビクッと体を震わす。


「魔王って、こんなにか弱いの?」


「再生時に肉体が弱体化するようですね。

 思わぬ弱点が発見出来ました」


 しかし、ここまでやると子供を虐めているようで心が痛む。もちろん、弱体化した今でも生徒たちなら苦戦するだろうステータスなので油断は出来ない。


「く、くう。痛みがないとはいえ潰される感覚はちゃんとするのだぞ?

 ここまでするとは、妾をこんな姿にした勇者でもしなかったのじゃ!」


 涙目になりながら訴える魔王シャクティ。

 しかし、どこか嘘くさい。

 百戦錬磨の魔王が、この程度で音を上げるとは信じ難いな。


「それはいいけど、なんでここにいるんだ?」


「ここは妾が再生するために作られた棺。

 淫魔や夢魔によって我が民たちから欲望を吸い取り、魔力に変えて吸収しておるのじゃ」


「じゃあ、これを作ったのはお前なのか?」


 そう言って、黒いオーブを見せる。

 これはリリスを倒した際に転がったオーブだ。

 ここのダンジョンコアなのは間違いない。


「そ、それは!

 え、えーとそれはとても大事な物なのじゃ、それを妾に返してくれぬか?

 お主の願いは、妾が出来ることならなんでも叶えてやるぞ!」


 その時、タニアが念話で話しかけてきた。


(マスター、魔王ベルフェゴール様よりご伝言を承りました。

 『面白いことになっているな。いいことを教えてやろう。そのダンジョンコアは、宝珠。神の秘宝の一つだ。だから、それを使えば弱体化した魔王すら配下に出来るかもな。じゃ、引き続き俺を楽しませてくれ』

 とのことです)


(なるほどな、じゃあもう一回倒してから使えば魔王を配下に出来るのか?)


(魔王ベルフェゴール様の言う通りなら、可能だと思います、マスター)


(分かった、やってみるか)


「おい、聞いておるのかっ?

 ……隙ありじゃあああああああああぁぁぁ!!」


「そんな手に引っ掛かるかよ!

 『ギカントプレス』!!」


「ごはぁっっっ?!」


「いや、本当に懲りないな?

 この程度MP消費なら、すぐに回復するからいくらでも滅殺出来るんだぞ?」


『す、済まぬ。ちょっと魔が差しただけなのじゃ』


 とぼけて口笛でも吹きそうな雰囲気を感じるので、きっと懲りてないな。

 今のでレベルは30以下にまで下がっている。

 そろそろスキル無しでも一撃で倒せるかも。


 でも、もうその必要はないだろう。

 魔王シャクティは、すぐに再生しようと肉体を再構築している。

 つまり、魂も肉体も今ここに集まっているのだ。


「今だ、タニア!」


「お任せ下さい、再構築を実行します──」


『な、何をしているのだ?

 や、やめろぉぉぉぉっ!!!』


 ダンジョンコアに魔王シャクティの肉体と魂が吸収されていく。いつもよりも眩く光を放ち新たな下僕を生み出した。


「──? まさか、妾が支配権を奪われた?!」


「意識と記憶はそのままなのか?」


「どうやら、そのようです。

 しかし、マスターには逆らうことは出来ないはずです。名前を与えて、命令をしてください」


「分かった」


「や、やめろ。やめるのじゃあー!!」


「お前の名前は『シャクティ』。単なるシャクティだぞ?

 これからはよろしく頼むな」


 ぐああああああああああぁぁぁっと悶え苦しむシャクティ。どうやら、俺の支配に抵抗しようともがいているみたいた。

 だか、数分後には。


「──私はシャクティ。これよりは貴方の下僕となり、手足となりましょう。

 よろしく頼むのじゃ、主様」


 うお、急に口調が柔らかくなって気持ち悪い。悪寒が走ったぞ。

 しかし、先程までの邪悪さが抜けたみたいで、今では単なる可愛らしいゴスロリ服を着た少女だ。

 顔色は悪いけどね。


「主様のおかげで、『色欲』からの支配が解かれたのじゃ。これで妾は、本来の姿を取り戻せるのじゃ」


 そう言うと、俺の手を取りお辞儀をする。

 すると少しばかりMPが吸収されてしまう。


「お前、勝手に……?!」


「これが妾の本来の姿なのじゃ。主様のMPを消費するのじゃが、戦闘で必要になれば参加するので、いつでも言うのじゃぞ?」


 そこに居たのは、妖艶な女のバンパイアだった。

 サキュバスと違い、色気よりも恐怖心を煽られる眼光を放っている。

 溢れ出す魔力は、先程までの魔王への威圧感と同等だ。


「それが本来の姿ってことか。

 しかし、魔王にも種族があるんだな」


「ふふ、それについては『禁止事項』なのじゃ。

 教えられなくて申し訳ないの、主様」


 幼女が陽気に妖艶な笑みを浮かべてそう言った。

 なんだ、『禁止事項』って。


(分かるか、タニア)


(『禁止事項』とは、神の定めた秘密を伝えることを指すようですね。これは、精霊たちに伝わる情報なので詳細は不明です)


 なるほどなぁ。

 そうなると、誰に聞いても分からないということか。何か魔王には秘密があるみたいだな。

 とはいえ、俺が知ったからといって何か得するわけじゃないし、気にしても仕方ないか。


「それじゃ、シャクティ。

 新しいダンジョン管理者として、俺の配下としてよろしく頼むな」


「了解じゃ、主様。

 これから末永くよろしく頼むのじゃ!」


 こうして、新たな仲間が出来た。

 この事が後に波乱を呼ぶとは思いもせずに……。



 ──とある場所。

 そこは人や魔族が存在も知らない秘境。

 その奥から声が聞こえてくる。


『まさか、我の眷属が消滅したのか?!

 カッカッカッ、千年ぶりに驚いたぞ。

 して、誰の入れ知恵だ?』


『同胞を疑うとは、耄碌したか?

 我らを裏切るのは、我らの神を冒涜するに等しい。そんな考えを持つものはおらぬだろう』


『そうか? 一人いつも席に抜け殻だけおいておる奴なら、有り得るのではないか?』


『ちっ、これだから『欲望』に忠実な奴は嫌いなんだよ!』


『何を言うか、我らはその為に存在する。

 なーに、眷属などまた作れば良いのだ。

 弱いまま放置したお主が悪いのだ』


『……それもそうだな。次はもっと強い人形を用意しなくてはな。そろそろ我らの主が顕現する頃だし、早くしなくてはな』


『そうだな。それにしても、お前の眷属は何にやられたんだ?』


『分からぬ、ここ数百年は寝てばかりいたからな。特に見ていなかったのだ。……、少し調べておく必要がありそうだな』


『腐っても魔王を名乗る者。勇者がまた現れたのかもしれぬな』


『勇者とは、また厄介な。

 早めに排除するために動くとしよう』


『同意だ』


 その後も会話は続く。

 その内容は、その場にいるものしか知らない。

 当然、リューマたちは自分たちが未知なる存在に目をつけられたことは知る由もないのだった。


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