第115話 魔王の復活

 リリスに呼び出されたのは、二匹の魔物。

 顔はなく、大きな口と回りに生えている触手のような物がグロテスクに動き回る。

 正直見てるだけで気持ち悪い。

 サクッと倒して、しまおう。


「きゃ、リューマーーーーー!」


「えっ?」


 いつの間にか地面を這って忍び寄ってきた触手が襲いかかってきた。俺はサッと躱して問題なかったが、ミィヤは足元をすくわれて、捕縛され宙吊りにされてしまった。


 妙に艶かしい感じで触手に縛られたミィヤは、身動きが取れないみたいで、脱出は難しそうだ。

 宙吊りにされているし、触手を狙って投石しようと狙いつけるが、わざと動いてミィヤに当たる位置にもってくる。


「くそっ、めんどくさい相手だぞ?!」


「マスター、落ち着いてください。

 まずはもう一体から倒しましょう」


「分かった、そうしよう!」


 イライラをぶつける形で、もう一体の方へ迫っていく。

 ムチのようにしなった無数の触手が、嵐のごとく襲いかかってくる。

 俺はそれを意に返さず、黒斧で切り落としながら前に進み、ついに本体の前に辿り着いた。


 グルぉぉおおおっっ!と獣のような声を上げつつ、大きな口を開けて襲いかかってくる。

 その口には鋭い牙がノコギリのようにびっしりと生えていて、噛み付かれたら痛いでは済まないだろう。


 だから、まずはこの歯から砕いておこうか。

 黒斧を左手に持ち替え、右手にミスリルの大槌を持つ。ん、いつもより重く感じるなと思ったけど、そういや『平均アベレージ』でミィヤにステータスを分配しているんだった。


 まあ、このくらいの相手なら……。


「タニアこいつのレベルいくつ?」


「はい、マスター。ジャイアントスラッグLV42です。『打撃耐性』があるため、打撃によるダメージは半減されます」


「まじか、こんな奴に使いたくないけど仕方ない。

 『ギカントプレス』!!」


 ゴパッ!と粘液を撒き散らし、破裂するジャイアントスラッグ。わざとリリスがいる方向に打ち付けたが、バリアみたいなので守られていて粘液まみれにすることは出来なかった。

 ちっ、少しは嫌がらせになると思ったのに残念だ。


 一体を難なく倒し、すぐにミィヤを捉えているジャイアントスラッグに向かっていく。

 こいつ、見た目より賢いな。すぐにミィヤを盾にして攻撃させないようにしてきた。

 さらに触手をビュンビュンと振り回し、ビシビシとこちらに打ち付けてくる。


 ダメージは無いけど、肌に輪ゴムをベチッと弾かれた時のようなチクッとした痛みが走るのでとても鬱陶しい。


「でも、そんなにウヨウヨさせてたら、切ってくれと言っているようなもんだぞ?」


 左手に持つ黒斧で、襲ってきた触手をブツブツと切り落としていく。そこから溢れ出す粘液が気持ち悪いが構っている場合じゃない。

 そのまま突き進み、ついにミィヤを捕縛している触手を捉えた。


 ガシッと掴み、そのまま素手で引きちぎった!

 ブチブチブチブチッ!と嫌な音が響くが構わず続ける。するりとミィヤが落ちてきたので、そのまま抱き締めた。


「リューマ!」


「よし、これであとは止めだ……」


 何故か抱き締めたミィヤがヌルヌルする。よく見るとジャイアントスラッグの粘液まみれになっていた。抱きしめて密着している状態をさらに粘液が体温と肌の感触をダイレクトに伝えてきた、違う意味でヤバかった。


「ん、今は駄目……」


「ぐふっ、その声色は反則だ!

 って、言って場合じゃなかった!」


 最大の敵はミィヤだな。あれ、前にも言ったか?

 デジャブだな。ふうー、落ち着け俺。

 ……よし、気を取り直して、止めだ!


「おりゃァッ!! 『ギカントプレス』!!」


 ビチャンッと潰れて破裂し、四方八方にジャイアントスラッグは飛び散った。

 おかげで俺たちは粘液でぐちゃぐちゃだ。


「あはははははっ、情けない格好になったわね?

 でも、それがお前たちにはお似合いよ?」


「言ってろよ! 次こうなるのはお前だからな?」


「そんな虚勢、いつまで保てるかしら?

 ジャイアントスラッグなんて、雑魚をなんで呼び出したか分かっているの?

 その答えはこうよ。

 『黒稲妻ブラックサンダー』!」


「マスター!?」


「ぐああああああああああぁぁぁ!!」


「きゃあああああああぁぁっっ!!」


 真っ黒な稲妻が俺たちに向けて放たれた。粘液を浴びたことで、その威力が倍増していみたいだ。

 魔法の耐性がある俺とは違い、ミィヤにはダイレクトにダメージが入ってしまう。

 ステータスが底上げされているとはいえ、これはかなり危険だ!


「タニア、任せれるか?!」


「はい、お任せ下さいマスター!」


「うぐぐぐっ。え、ちょっとリューマ?!」


 タニアを後方に下がらせてから、ミィヤをタニアに向かって投げ飛ばす。

 タニアは魔法を使ってふわりとミィヤキャッチしてから、すぐに魔法障壁を展開した。


「精霊魔法『水晶防壁クリスタルガード』!!

 こちらは任せて、全力でいってくださいマスター!」


「おう、任せろ!

 『平均アベレージ』解除。

 さぁ、とりあえず逝ってこいアビス!」


「なんでですか、旦那様あああぁぁぁ~?!!」


「そんなもの、効くわけがないでしょ?

 がはっっ、なんでこんなので私の障壁を破れるのよ?!」


 ビューンと飛んでリリスの障壁を打ち破り、パリンと割れてリリスに少なくないダメージを与えることに成功したようだ。

 うん、二重にスッキリした。


「まったく、外殻だけしか役に立たないとなればまた投げられるだけですな。

 旦那様にも、新しい私を見てもらわないとですぞ!

 精霊魔法『混沌喰らいカースイーター』!!」


 アビスの本体である、闇の精霊が精霊魔法を放った。邪悪な顔をした精霊が集まり、リリスの肉体に食らいつく。

 しかし、肉が引きちぎられるわけではなく、そこに黒いシミの様なものが出来るだけだ。


「くっ、離れなさい!

 な、なんなのこれは?」


 リリスは慌てて振り払おうとするが、するりとすり抜けるだけで意味が無い。


「ククク。それは、虚無の呪いですぞ。

 それを受けたら最期、蝕まれた肉体は朽ちて塵になるのです」


「なんですって!

 それって、最上位精霊魔法じゃない!?

 なんで、こんなハニワが!!」


 アビスが思ったよりも凄い魔法で相手を翻弄しているみたいだな。

 本体である闇精霊を倒されたら効果が切れるはずだけど、それにも気が付かず焦っているな。

 これはチャンスだ、ナイスだぞアビス!


「苦しむ前に、止めをさしてやるよリリス!」


 黒斧を右手にもち、大きく振りかぶる。

 そしてここにきて三度目の大技を繰り出した。


「終わりだリリス、『ギカントプレス』!!」


「ぎゃああああああああああああぁぁぁっっ!!」


 絶世の美女には似合わない、醜い断末魔を上げながら真っ二つに切り裂かれ、そして一瞬で塵へとなるのだった。


「あ、危ないですぞ旦那様。

 切るなら先に言って頂かないと!」


「まぁ、お前なら躱すと思ってたからな。

 実際大丈夫だっただろ?」


 ギリギリだったですぞとか、文句を言っているがそこはスルーする。そもそも本体はダンジョンにいるのだから、分身が倒れても問題ないのだ。


 さてとコアはどこかなと探そうとすると、突然全身に悪寒が走る。そういえば、タニアはまだ障壁を展開したままだな。

 ということは、敵がまだいるのか?


(警告。マスター、恐ろしい敵がそこにいます!)


 タニアが珍しく、声を荒らげて警告を発した。これはまずいことが起こりそうな予感だな。

 それに、リリスが一瞬で塵になったのも気になる。

 そう思って、前を見ると奥からその悪寒の正体が現れた。


「妾の眠りを妨げるだけでは飽き足らず、妾の可愛いリリスを滅ぼすとは、死にたいらしいな人間」


 そこに現れたのは、赤と黒のゴスロリ風のドレスを纏った少女だ。

 黒髪縦ロールに、青と金色のオッドアイ。

 顔は青白く精気が感じられない。


「な、まさか君がこのダンジョンの主なのかい?」


「ふん、ひれ伏して聞け人間。

 妾こそが七大魔王のひとり、『色欲』の魔王シャクティであるぞ!」


 ま、魔王だとっ?!

 まさか魔王本人に遭遇するなんて、思っていなかったぞ!


「さあ、お仕置を始めようか人間!」


 恐ろしい気配を漂わせる魔王シャクティとの戦いが始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る