第114話 色欲の化身

 サキュバスを倒して手に入れた指輪のおかげで、さらに攻略が楽になった。


 六階以降は、まともなダンジョンになっていて拍子抜けした。

 その代わり、やたらと悪魔系の魔物が現れたせいでミィヤも戦闘で苦戦する。

 レベルの割にはステータスが高く魔法も強い。

 ステータス的には平均的なミィヤでは、格上の悪魔相手ではタニアやアビスのスキルでは防ぎきれない場合も増えてきた。


「流石に大怪我させる訳にはいかない。

 俺のスキル使うよ?」


「ん、分かった。

 リューマの愛に包まれて、強くなる!」


「えーと、そうだな。

 じゃあ、頼んだぞ?『平均アベレージ』発動!」


 対象をミィヤにして、俺とステータスを平均化する。これで各ステータスが2000近くなる。

 よく考えたら、この時点で今の勇者である2-Aの生徒たちを軽く超えるな。


 生徒たちとミィヤは、レベルが同じであればステータスが同じくらいになる。これは、ミィヤのステータスが人類の中ではかなり高いという意味になる。


 何気にすごい子なんだなと分かったのは、女王に色々と常識を教えて貰えたからだ。

 前世ではまるで運がなかった俺だけど、この世界に転生してからは良い縁に恵まれている。

 今なら神に感謝してもいいかもしれない。


 あとは、この世界でゆったりと幸せに暮らすためにミィヤや俺に良くしてくれたハーフリングの村人たち、そして響子や鈴香や星香など仲の良い生徒たちと楽しく暮らせれば言うことは無い。


 その為にも、このダンジョン攻略はなにがなんでも成功させるんだ。


「やっぱり、リューマのスキルは凄い!

 自分が自分じゃないみたいだっ!」


 もの凄い勢いで悪魔たちを屠っていくミィヤ。

 インプなどの夢魔も襲ってきたが、相手が精神攻撃を仕掛ける前に一撃で倒してしまう。


「今の状態なら、鈴香の1.5倍程のステータスあります、マスター。このダンジョンの敵ならミィヤの相手にならないでしょう」


「益々、私の出番がないですぞ、旦那様。

 一応、混乱、誘惑、睡眠、幻惑の状態異常に対して耐性がある防壁を張っていますが、攻撃受ける前に終わってますな……」


 タニアにもお墨付きが貰えたし、このまま突き進もう。この調子なら最下層まで行けそうかな。


 デーモンやナイトメアが出ても、冷静に対処して戦うミィヤ。タニアのアドバイスをよく聞き、確実に急所に攻撃を当てる戦闘センスは俺よりも確実に上だな。

 流石冒険者をやっていただけあり、身のこなしが軽やかで隙が少ない。魔法と短剣での攻撃を織り交ぜて戦う姿は、美しいとすら感じる。

 力任せな俺とは全く違う戦い方は、とても参考になるな。


「ミィヤは凄いなー!

 俺じゃ、ああはならない」


「リューマみたいに、圧倒的な力がないから工夫するしかないだけ。

 これくらい、冒険者なら当たり前」


 そうは言いつつも、嬉しそうな顔をするミィヤ。一瞬抱きしめてしまいたくなるが、ぐっと堪える。

 なんか、このダンジョンに来てからこんなんばっかりだな。早く出たい。


 地下十階に到達する頃には、かなりの数の魔物を倒した。

 そして、そのおかげで…。


【──経験値が一定に達しました。レベルが61にアップしました。各ステータスにボーナスが発生します】


 ついにレベルが61に上がった。

 ミィヤが戦っているから、殆ど何もしていないのだけどパーティー組んでスキルでサポートを行っているので、俺にも経験値が入るようになっているみたいだ。

 うんうん、おかげで俺もレベルを上げることが出来たな。

 もしかして、こうやって一緒にレベル上げした方がいいとかあるのか?


(その可能性はありそうですね。次のレベルまで、少し試しておきましょう)


 前にステータスを掛けて上げていた時は、まだレベルが51に上がる前だったからな。殆どズルしてレベル上げした分に吸収されてしまったから、比べようがない。


 さて、この地下十階に入ってからダンジョン内の雰囲気がガラリと変わった。

 まるでここに王が住んでいるのかというくらい、壁が建物のように内装が施されていた。

 今までなら最奥の部屋だけが立派な感じだったのだけど、このダンジョンは最深部はフロア全体が豪華な作りになっていた。

 そして、最初の部屋以外にはしきりがなく、だだっ広い空間になっていた。


「柱はあるけど、壁がないな」


「マスター気を付けてください。どうやら、奥の方に祭壇と操作盤が見えます。

 そして、そこにこのフロアのボスがいるようです」


 どう考えても、ダンジョンコアを持ったやつだろう。

 流石に三回目にもなれば、自然と分かってくる。……と言いたいが、ここまであからさまに変化があれば誰でも分かるよな。


 奥へ行くと、一人の女の魔族が見える。

 何やら祭壇に向かって祈りを捧げているように見える。

 祭壇の奥には、何かが見えるが薄暗くてよく見えない。

 なんかの像があるように見えるが…。


「──誰かしらこんな所に。

 あら?人間なんて珍しいわね。しかもヒューマンじゃない。

 脆弱な種族なのによくここまで来れたわね…?」


「リューマは弱くない。

 お前はあっというまに倒される」


「うふふ、物騒な事を言うお嬢ちゃんね。

 あー、なるほど。貴女がここまで連れて来たってわけね。

 妙に強いハーフリングだこと。

 いいわ、久々に私が直々に手を下してあげる。

 あの方に捧げる生贄に丁度いいわ」


 そう言いながら振り向いた女性は、息を飲むような絶世の美女であった。

 一瞬、魅了でも受けたのかと思った程、クラっときた。


 艶やかな唇に、金色の目、しなやかにウェーブする髪はしっとりとしていて、存在を主張する胸は、胸元が大きく開いた服から覗いて見える。

 くびれた腰に、形の良いヒップ。どれを取っても文句のいいようなが無い女性であった。


 だからこそ、現実感がない相手。

 それが今、目の前にいる魔族の女性。まさに魔性の女だ。


「……お前は、何者だ?」


「あら、レディーに名前を訊くときは先に名乗るのが礼儀じゃなくて?」


「ああ、そうだな。俺の名はリューマ。ここのダンジョンを制圧しにきた。

 お前はここのコア所有者か?」


「!? 貴方……、コアの存在を知っているのね。

 危険なニンゲンだこと。

 私は、『色欲』を司る主よりここを任されている夢魔リリス。ここに来てしまったからには、その命を捧げて貰うわよ?」


 いつの間にか手に持った鞭を地面に打ち付ける。

 すると、無数のサキュバスが現れた。


「くっそ、一人で相手する気はないってことか!」


「バカね。そんな効率の悪いことを誰がするのかしら?

 ここの経営者でもある私は、美と効率を愛しているのよ。

 だから、さっさと死んで頂戴?

 いけ、サキュバスたち!」


 ウフフ…ウフフ…とあちこちから嫌な笑い声が聞こえたかと思うと、魔法が四方から飛んできた。

 普通に攻撃魔法を選んでいる辺り、完全に殺る気だな。

 そうなったら、こちらも遠慮しない。


「くらえー!」


 いつもの通り、小石をぶんと投げてスキル『50フィフティ』で数を増やす。

 それがバラバラと散らばって、サキュバスたちに降り注ぐ。

 たったそれだけで、殆どのサキュバスが息絶えて地面に落ちた。


「な、何なのそれ?!

 魔法……には見えないし、……石?ただの石ころ?

 なんのスキルなの?」


「バカだな。教えるわけないだろ?

 さあ、本番はこれからだろ?」


「くっ、余裕を見せていられるのも今のうちよ?

 さあ、行きなさい貴方たち!」


 こうして、夜の女王……じゃなかった。

 ダンジョンボスであるリリスが新たな僕を召喚し、本気の戦闘が始まるのだった。

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