第112話 妖艶過ぎる敵
「ここ、本当にダンジョンなのか?」
「倒していいよね?」
地下1階に降りると、そこは淡くピンク色に光る苔がそこら中に生えており、妖しさをより醸し出している。
さらに、魔物が殆どおらず魔族ばかりなのだ。
たまに居ても、何故か体力を回復する羽毛の生えたコウモリみたいなのがやってくるぐらいだ。
「どうやら、このダンジョンは完全にコントロールされているようです。
気をつけてください、設備の内容とは別にこちらの行動を逐次チェックされております、マスター」
「まだ、幻惑などの阻害行動はしてきていないですな。この程度の難易度であれば、旦那様にかかれば楽勝ですな」
慎重なタニア意見と、楽観的なアビスの意見。
当然参考にするのはタニアの意見だけど、それにしても襲ってこない。
【お気に入りの子が見つかったら、その子に声を掛けてください】
という看板が天井にぶら下がっている。
これは倒したらダメな系だろうか?
「お兄さーん、私とどおー?」
「こっちよこっちー! 人間では味わえない体験をさせてあげるよ〜!」
「そこのもの、我を無視するとは相当な奴!
さあ、私で思う存分日頃の鬱憤を──」
う、段々目眩がしてきた。なんだこの光景。
いや、本当にクラクラしてきてちょっと気持ち悪く──。
パチンッ!と指を鳴らす音が鳴り、視界が晴れた。
「危ないところでしたな、旦那様」
なんとアビスが指パッチンで、スキルを発動し解除したようだ。いや、どこに指あるんだよ!
「アビスが解除したのか?
というかいま、どうやって鳴らしたんだ?」
「え? ははは、私の指はこの中にあるのですよ?」
そう言うとハニワの凹凸の無い手から黒いモヤがもわもわっと滲み出てくる。
傍から見たら呪われたハニワだな。それを見たミィヤも顔が引き攣っている。
「いや、ホラーかよ」
「仕方ないじゃないですか、こういう身体にしたのは旦那様なんですぞ」
「その変な言い回しやめろ!
しかし、今のは幻惑か?」
「そのようですな。正確に言うと魅了と混乱ですな。
奴らは旦那様をどうしても虜にしたいようですぞ?」
なんというか、はた迷惑なダンジョンだな。
だけど、みな普通に話しかけてくるし攻撃しずらいのも厄介なところ。
色々と精神的にくるなこりゃ。
「攻撃していいのかな?」
「駄目ではないですが、この階の魔族はダンジョン生まれではなさそうです。
ですから、殺したらダンジョンに取り込まれず死体になりますが宜しいですか?」
タニアにしては珍しい言い方だな。
わざわざ死体になるだなんて。
つまり、そうなると俺が後悔するって意味か。
だったら、無視して通り過ぎるのがいいか。
「いや、殺さない。
ダンジョン攻略したら、従業員として働いてくれるかもしれないからな。
ミィヤ、こっち来てくれ」
「なに、リューマ?」
言われて俺の前に立つミィヤ。
そのミィヤを、何も言わずに抱きしめて長いキスをした。
「ん……」
「俺が惑わされそうになったら、ミィヤの魅力で引き戻してくれよ?」
「もちろん、そのつもり」
お互いにニカッと笑う。そして、ミィヤを抱えたまま俺は走り出した。
「タニア、ナビを頼む!
アビス、精神攻撃を防いでくれ!」
「承知しました、マスター」
「承りましたですぞ、旦那様」
攻略始める前から色々あったが、こうしてやっと探索を始める俺たちだった。
やたらと広い地下一階から地下二階まで振り切るように走り抜けた。
その間、アビスが創った『
これで敵からの精神攻撃は殆ど効かなくなった。
その分、ミィヤからの愛情あるキスでどうにかなりそうだけど。
耐えろ俺、まだ外は明るい!
中は薄暗いけど。
いい加減、その場に押し倒しそうになるが我慢だ、耐えろ俺の理性!
「ふふ、リューマはいつまで我慢出来るかな?」
一番誘惑してきているのはミィヤの気がしてきたけど気のせいか?!
敵対行為じゃないから『精神力』スキルも意味がない。もうどこかにベットないかな。いや、違うそうじゃない。
「マスター、目的を忘れないで下さいね?」
「ぶっ! そういや、俺の気持ちはタニアに筒抜けだった!
いや、忘れてないよ?!」
ここが今までで一番大変なダンジョン攻略かもしれないぞ。早く倒していい魔物でも出てきてくれないかな?
フラストレーションが溜まりまくっている。
「あ、マスター、敵です」
「ぬおりゃあぁぁぁっ!!!」
今までの鬱憤を現れた敵にぶつける。
ドゴオオオアッ!!
もやは姿を確認する前に渾身の一撃を放つ。相手は地面ごと木っ端微塵だ。
「はぁっ、はぁっ!!
あーっ、少しスッキリした」
「我が主人ながら、旦那様の本気の一撃は凄まじい威力ですな」
「まだまだこんなものではありませんよ?
アビス、貴方もマスターの為に尽力するのですよ?
でないと……」
「ブルブル、考えただけでも恐ろしいですぞ」
精霊二人はそんなことを話しつつ、次の獲物を探している。
早くしないと理性が吹っ飛びそうな俺も、ミィヤを抱えたまま足早に先に進んでいくのだった。
地下二階は、ザコ敵しか出現しなかった。
インプやピクシーなどの小型の妖精みたいな魔物がイタズラを試みるが、全て会った瞬間に粉砕してしまったので、魔石すら残らずダンジョンに還元されてしまう。
地下三階に降りる頃には、少し冷静さを取り戻し流石に収穫がないのはまずいので少し手加減をするようにした。
ミィヤも俺が幻惑や魅惑に掛かることが無くなってので、つまらなさそうにしつつも俺にキスすることも無くなった。
ちょっと残念だけど、理性が復活してきたので助かったな。
どうせならこんなダンジョンではなく、ベットがあるところでじゃないとね。いや、なんでもない。
さて、地下三階も大して強い敵は出てこなかった。ナイトメアというあからさまに凶悪そうな顔の悪魔が出てきたが、レベルが低い個体のようで小石一つで撃退出来た。
なんというか、お化け屋敷のお化けのごとく脅かすだけの存在みたいだな。
なんの需要でここにいるんだか分からないな。
門番の役目をするフロアのボスみたいな魔物も出てこないまま地下四階、地下五階と進んでいく。
そして、地下六階へ続く階段のある部屋の前で遂にソイツが現れた。
「あらぁ? こんな所に人間だなんて珍しいわね?
じゃあ、おねーさんがたっぷりと可愛がってから骨までしゃぶりつくしてあげるわ!」
整った顔に、金髪、尖った八重歯、コウモリのような羽の悪魔。妖艶な笑みはあらゆる男を虜にしそうなほど色っぽい。
「なるほど、こいつがサキュバスか」
淫夢をもたらす夢魔サキュバスが、俺らを待ち構えていたのであった。
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