第82話 戦いの後に
「……はぁ、逃げられたか」
「しかし、全員が生き延びましたよマスター」
「そうだな、まずは生き残ったことを喜ぶか」
今回の戦いは、本当にキツかった。
ドラゴン四体と、この国で最強の魔導師であり、元勇者のマリウスとの戦いは激戦の連続だった。
スキルでステータスが高くなっていたせいで、こんなにも戦いで苦労するなんて思っていなかったな。
アークデーモンの時も強かったけど、スキルのおかげであっさりと勝てたし。
ザカールとの戦いは毒のせいで死にかけたけど、戦闘自体はこちらが優勢だった。
しかし、あのマリウスとドラゴン達は本当に強くて、綱渡りを繰り返して戦っていたせいでもう疲労困憊だよ。
しばらく戦いは遠慮願いたいわ。温泉入ってゆっくりしたい。
「疲れたな、タニア。ダンジョンに帰ろう」
「はい、マスター。帰りましょう、私達の家へ」
そう言ったタニアは笑ったように見えた。錯覚かもしれないが、そう感じたのだ。言葉遣いも少し柔らかくなった?
「ああ、そうしよう」
俺とタニアは、光に包まれて次の瞬間にはふっとその場から消えるのだった。
「リューマ!!」
ダンジョンに戻るなり、ミィヤが抱きついてきた。かなりの勢いが飛びついてきてので、危うく昇天しかけたわ。HPだけで見たら俺もタニアも瀕死だよ。
「ははは、ただいま」
「笑いごとじゃない!
でも、生きてて良かった……」
よく見ると、ミィヤの目は赤く腫れていた。どうやらかなり心配かけてしまったようだ。
ごめんと言う代わりに、ぎゅっと抱きしめ頭を撫でた。胸の中に温かな温もりを感じ、改めてその幸せを噛み締める。
「ミィヤを置いて死ぬわけないよ。
だから、もう泣かないでくれ。俺はここにいるから」
そう言って、ミィヤから溢れた涙を拭い、そして長いキスをした。そして、ミィヤははにかんだ笑顔で言うのだ。
「おかえり、リューマ」
マリウスの魔法のせいで、村は完全に消滅してしまった。
瓦礫どころか、全て更地と化してしまったのだ。あの魔法はなんだったんだ?次にやられたら抜け出せる自信はない。
そもそもタニアが、命がけで解除してくれたから抜け出せただけだし。ボロボロになったタニアを見たら、またよろしくとは言えないよ。
「タニアもしばらくは自分の回復を優先してくれ」
「はい分かりました、マスター。
この本体は、奥で休めてまた分身体でサポートしますね」
そう言うと、タニアの本体はスウっと消えて、分身体が現れた。
「本体の魔力と、マスターの魔力が回復するまでかなり時間を要します。
本日はダンジョン内でゆっくり休むのが良いかと思います」
「分かった、そうしようか。実際俺も疲れて今日は何もする気が起きないよ。
それでいいかい、村長?」
「もはや、村長と言えるのか悩ましいところだな。リューマよ、いっそそなたが村長になったらどうだ?」
「いやいや、自分のことで精一杯なのに、村長とか無理だろう?」
今まで人を使ったこともないし、村人達の面倒とか見られる自信が無い。
「とは言っても、村は消滅したし、守るべき大精霊石もここにあるし、このダンジョンの所有者はリューマなのだろう?」
「ああ、そうだな」
「であれば、実質そなたがここの長だろう?」
「ふふ、そうですよリューマ。
ドリアード様もここを気に入ったみたいですし、もうここにむらを拓いてはどうです?」
「ミィヤのお母さんまで……。
でも、あまり大きな期待はしないでくれよ?」
「はは、もちろん村の補佐役として私達も協力するから心配するな。それにミィヤを娶るなら遅かれ早かれ村長になってもらうつもりだったからな」
はっはっはっと笑う元村長。つーか名前知らないな。これは不便だ、とりあえずお義父さんと呼んでおこう。
しかし、お義父さんの言う通り村長のムスメであるミィヤと結婚するなら、いつかはそういう話もあるかもとは思っていたが、まさかこんなすぐとは思わなかったな。
困ったな。しかし、やるしかない。
外は完全に破壊されたし、このままダンジョンに居住区を作るのがいいかもな。
安心安全なダンジョンってなんだって気分だが、実際にそうなんだから仕方ない。
村があった場所は、畑とか家畜の世話に使うといいかもな。材料はいくらでもあるし、広くなったぶん拡張して生産力を上げよう。
ダンジョン内に大精霊石があるおかげで、魔力の補充が通常よりも早いらしい。おかげで、ダンジョンの拡張と、産出物の増産が可能になっているんだって。
『具体的に、どういうこと?』ってタニアに聞いたら、分かりやすく教えてくれた。
『このダンジョンではりんごは産出しないですが、生のりんごを持ち込めばりんごの木を生成し、その実を生産するのが可能になります』
だってさ。なるほど、まだこのダンジョンにないものでも、外から持ち込めば生産可能になるというわけだ。
ただし、木に成長させたり、増殖させたりするには魔力を使う。そのため、無尽蔵に増やすことは出来ないんだ。
だからこそ、あの大精霊石の存在は有難いのだという。
案外、そういう意味でもマリウスは欲しかったのかもな。
ダンジョン内の品揃えが良くなったら、色々と潤うしな。どうせなら、ケーキのデコレーションに使える果物とか育てようかな。
あとは、米だよなー。
日本人として、米と味噌、醤油、みりん、酒は絶対に欲しい。そのためには、糖度の高い米と大豆が必要だな。
大豆はどこにでもありそうだからいいとして、米だな。水田や稲穂をこっちに来てから見たことないし、ライスはなかったな。
しかし、忍者がいたし米もあるだろ!と、お気楽に考えておこう。
あー、温泉入りながら日本酒飲みてー!やった事はないけど、美味いんだろうなぁ。
「先の話はゆっくり考えれば良い。まずはゆっくりと体を休めてくれ」
そう言って、俺とミィヤを温泉まで送ってから『ごゆっくり』と言い残して去っていった。
えっと、ゆっくり出来るといいな。
「ん? ミィヤに見蕩れてどうかしたか?」
「いや、見ているだけで癒されるなと思ってね」
本当は違うことを考えていたが、正直に言っても怒られるだけだ。ここは喜んでくれそうな話にしておこう。
「ふーん、もっと別な事を考えていた気がしてけどなー」
う、勘が鋭いな。
しかも、段々とにじり寄ってきているし。いや、別に嫌なわけじゃないんだよ?嬉しいが、体力が尽きているのでね!
そう、心の中で構えていたら、ミィヤは俺な腕にピッタリと寄り添うだけだった。
「リューマが白い光に包まれて、真っ暗になって消えた時、凄い怖かったの」
そうか、あの瞬間をタニアが中継して見ていたのか。あの時はタニアの分身が消滅されてしまったから、映像も途切れたんだろう。
見てる方からすれば、俺が消えたと思ってしまうだろう。
「心配かけてごめんな……」
肩を引き寄せて、頭を撫でる。
二人寄り添い、静かな時間を過ごすのだった。
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