第80話 決着は……
(警告!マスター、大規模魔法による攻撃です!
この魔法は────)
あたりが眩い光に包まれる。それと同時に全身に激痛が走った。
「うがっあああああっ?!」
全身を襲うその痛みは、尋常ではない。自身のステータスを見る限り、ダメージは50で済んでいる。
更に、数秒に一回はダメージが発生しているみたいだ。これはかなりきついぞ!
だが、俺のステータスは暗黒竜シュバルツのおかげで上がっているのでまだ余裕はある。
そう思っていたのだが……。
【──経験値が一定に達しました。レベルが60にアップしました。各ステータスにボーナスが発生します】
よっしゃー、レベル上がった!
……とか言っている場合じゃない!!
それは、イコール暗黒竜シュバルツが今死んだって話なわけで、そうなってしまうと。
【対象が死亡したため、スキル『
やっぱり、そうなるよな。
これで攻撃力、魔力ともに3000に下がってしまった。
人間としてはかなり強いけど、相手がマリウスだと心許なく感じるな。
ステータスには無い、何か別な強さを感じるんだよな。
それよりも、この永続ダメージをどうにかしないとだな。
「タニア、なんとかこれ防げないか?!」
打開策を提案して貰おうと、タニアに話しかける。しかし、何故か返事はなかった。
あれ?どうしちゃったんだ??
「おいっ、タニア聞こえないのか?!」
すると、胸にあるポケットからキラキラ光る粒のようなものが舞い散る。
まるで粉々に砕けたガラスのようだ。
「?!!」
まさか、タニアが今の魔法でやられたのか?
その事実を突きつけるかのように、『
今まであった万能感のようなものが消え去り、急に恐怖と怒りが俺の心を染めていくのを感じた。
「こんのやろおおおおおおおおおおおっっ!!!」
──その少し前
「やったわ! リューマが勝った!」
「マスターは、お強いですね。
あとは、敵の首魁を倒すのみですよ」
リューマの傍らには暗黒竜シュバルツが倒れて横たわっている。既に虫の息でそう長くは持たないだろう。
その時だった。
タニアが分身を通して写していた映像が真っ白になるほど、眩い光で溢れる。
そして、次の瞬間に映像が途絶えた。
「えっ……、何が起こったの?!」
「ああ……、なんということでしょう。
敵の攻撃により、私の分身体が消滅しました」
「え? そんな……リューマ!!
ねぇタニア、リューマは無事なのっ?!」
「いま、分身体を外に送ります。
大丈夫です、マスターはきっと生きています」
タニアは目を瞑り、外に送り込んだ分身体に意識を集中する。
ダンジョンから外に出ようとするが、出入口は魔法により封鎖されてしまっている。
「これは、侵入阻害系の魔法?
しかしあの規模だと、それだけとは思えない。
──マリウスが元勇者という話は本当のようですね、魔王様」
(──急に連絡寄越したと思ったら、そんなことを聞きたくて連絡したのか?
あの男は、別の魔王と取引しているみたいだぜ?
だから、俺にも良くわからんなぁ)
元主人の魔王は、いつにも増して饒舌に話す。
遥か昔から知っているが、自分のような格下の相手にこんなに言葉を発するお方ではなかった。
それだけ、今のマスターがお気に入りなのだと感じた。
(まー、今そっちに展開されている大規模魔法がその勇者が使える最大の魔法攻撃で、囚われたら最後死ぬまで抜け出せないっていうのは知っているぜ?)
「そんな!!」
死ぬまで抜け出せないというのは、死ぬまでダメージが入り続けると考えていいだろう。
今のマスターに対して、最悪の攻撃方法だ。何とかして、ここから抜け出して助けに行かないと!
それは、初めてタニアがリューマに為に顕(あらわ)にした感情だった。
そして、魔王はそれに興味を示したのだった。
(ほう、魔物の癖に感情を持つとは面白いな!
そんなお前にプレゼントをくれてやろう)
「これは……、新しいスキル?」
(それを使えば、助けに行けるだろう。
さぁ、俺にもっと面白いものを見せてくれよ?)
──
リューマは怒りに任せて、攻撃へと転じる。
空に浮かぶマリウスは、普通では届かない場所でこちらを見ている。
それならばと、まずはスキルを使って空へ投石を行った。
投げた石は全て50個に増えて、物凄い勢いで飛んでいく。
「なるほど、あの『
しかしマリウスが展開する物理攻撃を弾く防壁に阻まれ、全て防がれてしまう。
何度か当たっても、直ぐに防壁を張られてはダメージを与えることが出来ない。
「くそっ! そんな高みの見物なんかしてないで、降りて来い!!」
「はは、何を言っているか分からないなー。
ほっとけば死ぬのに。なんでわざわざ危険を冒すのさ?俺は、そんなマヌケではないよ?」
かなり余裕ぶってそういうマリウスだったが、内心はかなり焦っていた。
普通の人間なら、数秒で塵になるほどの大規模魔法の中にいて、消滅するどころか攻撃してきている。
リューマの精霊は既に消滅しているのは確認済みなので、殆どの精霊魔法が使えない筈なのになぜ耐えていられるのか理解出来なかった。
『鑑定』スキルで確認すれば分かるかもしれないが、これだけ離れていると使えない。かといって、近づけばあの投石の雨がより激しくなる。
「焦ることはない。どんなトリックか分からないけど、ダメージがないわけがないさ」
マリウスはそこから動かないと決めていた。そして、それを変えることはなかった。
リューマは既に手詰まりを感じていた。HPも既に2000を切った。
このままでは、あと数分で自分は死ぬだろうな。そんなことを頭の片隅で考える。
「だからって、黙って死ねるかよ!」
石が駄目なら、あとはこいつしかない。全力で投げれば一発くらいは当たるだろ?
「いっけええええええっ!! 『ギガントプレス』!!」
リューマは、ミスリルの大槌を使い空に向けて『ギガントプレス』を放った。まるですっぽ抜けるように放たれたミスリルの大槌は、目で追えないほどの速さで飛んでいく。
更に……。
「スキル『
手を離した瞬間に、スキルを使うリューマ。
その結果、空をいっぱいにミスリルの大槌が放たれ、その全てがマリウスに向かっていく。
「んなっ!? そんなのありかよっ!!」
マリウスが展開した防壁をあっさり打ち破り、マリウスの下半身を吹き飛ばした。
鮮血を撒き散らしながら、マリウスは地面に墜落したのだった。
──しかし。
「魔法が解除されない?!」
慌てて、マリウスが落ちた方へ走り出す。まだ生きているならマリウスに止めを刺さないといけないだろう。
このまま殺られるなら、殺るしかないんだ。
そう言い聞かせて、マリウスの元へ急いだ。
マリウスは直ぐに見つけた。
下半身は吹き飛んで無くなり、まだ息をしているのが不思議なくらいだ。
「お、お前のそれ、狡いよ。
なんだよ、あの数と威力はさ。
最初からやってれば、ドラゴンも倒せただろ?」
「はぁ、はぁ。切り札は最後まで取っておくもんだよ。これでマリウス、お前の負けだぞ」
そう言う俺に、ニヤリと笑うマリウス。
「いいや、引き分けだね。この魔法は、一度放ったら解除出来ないからな。リューマ、お前も死ぬんだよ」
マリウスは俺に絶望の言葉を浴びせた。解除できないだって?それじゃ、俺もこのまま死ぬのか?
「あははは、残念だったな!
あぁ、でも悔しいなぁ……」
死の影は、俺とマリウスのすぐそこに迫っているのだった。
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