第76話 決戦①

 みんなに見送られて馬車に揺られること二日。

 荷物を沢山運んでいるので、比較的ゆっくりと帰っている。

 ダンジョンの入口に辿り着けば、あとはタニアが移送してくれる。

 それまでは荷物を大切に扱わないとね。


 響子たちは、しばらく店の手伝いをしてくれる。

 ハンスのケーキ屋は、店内で食べることも出来るし、買って帰ることも可能だ。そのため店にはウェイターや、売り子が必要になる。

 見た目が可愛い女性が五人もはたらくのだ、それだけで繁盛しそうだな。

 ただ高級菓子の扱いなので、買える客がどれだけいるのか今のところ不明だ。


 ただ、ハンスが秘策ありとか言ってたし、彼に任せておけば大丈夫だろう。

 取り敢えず、好きな時にケーキ屋が食べれればせれでいいしな。


「リューマ、もうすぐ着くよ」


「まだマリウスは来ていないのか?」


「はい、マスター。本体からの情報でもまだ到着後していないと思われます」


 意外だな。あれほど意気込んでいたからには既に村を焼き払っているんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしていたのに、ちょっと肩透かしだな。


 だけど、向こうも俺が来ると思っているはずだよな。だったら、何か仕掛けてくるに違いない。

 よし、今のうちに荷物を運んでしまおう。 


「タニア、周辺を警戒しつつ荷物を搬入するぞ」


「承知しました、マスター。ダンジョン内は問題ありません」


「急ごう、リューマ」


「ああ」


 馬車を村の中央まで走らせる。

 辿り着くと直ぐに地面に魔法陣が浮かび上がる。タニアの転送魔法陣が発動したようだ。

 次の瞬間には俺たちはダンジョンの中にいた。


「お帰りなさい、リューマさん」


「お、今日はミィヤのお母さんが出迎えてくれたんですね」


「はい、タニア様に言われまして荷物の分別を手伝いに来たんです」


「なるほど。それならミィヤも手伝ってあげてくれ。搬入時に見てたから、何が入っているか分かるだろ?」


「任せて。これでも記憶力には自信がある」


「ああ、頼りにしているよ」


 そういうと、馬を引き奥にある倉庫へと二人で向かっていった。

 分別さえ出来れば、あとはタニアが運ぶので俺の手伝いはないだろう。

 あとは、マリウスがいつ来るのか。それを待つだけだ。


 ──

 そのマリウスは、村の近くで四つの大きな魔法陣を展開していた。

 額に滲む汗が、ぽとりと滴り落ちる。その様子から、マリウスにとってもかなり負担の大きな魔法だと分かる。


「大地を司る古き竜、大地竜グランド!」


 グオオオオオオッ!!

 一つ目の魔法陣から、土色をした大きな竜が現れる。


「火を司る赤き竜、火炎竜バーン!」


 ギュオオオオオッ!!

 二つ目の魔法陣からは、深紅の鱗に覆い尽くされた竜が現れた。


「凍てつく氷の支配者、氷結竜フロスト!」


 ヒュオオオオオオンッ!!

 三つ目の魔法陣からは、氷のように透き通った氷像のような竜が現れる。


「闇に潜む邪悪の化身、暗黒竜シュバルツ!」


 四つ目の魔法陣からは漆黒の竜が音もなく現れた。


「いけ! あの村を焼き尽くせ!!」


 既に、人が住んでいないことは分かっている。そして、大精霊石がそこに無いことも。


「俺が持つ最大の戦力を出したんだ、ちゃんと釣れてくれよリューマ」


 マリウスはそっと胸に埋まる黒いコアに触れる。

 そして、そこに語りかけるように呟く。


「あの大精霊石は、魔王を支配するのには必須だから仕方ないさ。素直に渡してくれれば苦労しなかったのだけどね。

 ああ、そうだね。きっと俺らなら上手くいくさ」


 そうして、マリウスも四体の竜を追いかけるように空を舞うのであった。



 ──


 ゴゴゴゴゴゴ......と、地鳴りのような音がダンジョン内に響く。実際、ダンジョン内も揺れているから一瞬地震かとも思ったが、どうやら違うようだ。


「マスター、敵襲です。

 地上で暴れ回っている者がおります」


「相手は何人だ?」


「それが......、見てもらった方が早いかと。

 『接続コネクト』発動」


 タニアが外の状況を映像にして伝えてくれる。まるで動画を見ているような感覚だ。


「うげっ、なんだこりゃ?

 本当にこんなのが上にいるのか?」


(はい、間違いありません。地上でドラゴンが四頭暴れており、村は壊滅状態です)


 いくら避難していて村人が無事だとはいえ、これは酷いな。

 今、村の人がこれを見たら卒倒するレベルだよ。


 すでに地上には建物と言えるものは灰燼となり、残骸くらいしか残っていない。

 周りの木々もなぎ倒されて、焼けたり、凍ったり、腐ったりしている。もはや、人が住める状態じゃない。


「これは、もう復興できなくないか?」


(はい、マスター。この状態では、生物が住めるとは思えません)


「そうだよな。しかし、なんでこんなところにドラゴンなんか......、って思い当たる節は一つしかないけど、やり過ぎじゃないか?!」


(そうですね、マスター。相手は圧倒的な力の差を見せて投降するのを狙っていると思われます。

 なお、ドラゴンのレベル、ステータスはマスターよりも高いです)


「それは、反則だろ。というか、マリウス自身はどうなんだ?」


(はい、マスター。今現在は......、かなり上空からこちらを見ています。あの位置ですと、『鑑定』の範囲外です)

 

「なるほど、まずは高みの見物ってわけか。

 ちなみになんだが、タニアもドラゴンを創れるか?」


(マスター、ドラゴンを生み出すのは神だけといわれております。私では劣化版といわれるワイバーンまでが限界です)


「そうなのか。だとすると、あれはどこかにいたドラゴンということか?

 そんなのを仲間にするとか、凄いな」


 しかも、ステータスは俺より高いという。そんなのが四体もいたら絶対負けるだろ。

 かといって、このまま放置したら入口が破壊されてしまう。そうしたら、中に侵入される恐れもある。

 どちらにしろ戦うしかないので、何か作戦を立てないといけないな。


「というか、ドラゴンとどう戦うっていうんだ?!

 見る限り、近づく前に終わるぞ?」


(それなら、マスター。近づかないで倒せばいいのでは?)


「それが出来たら、苦労しないんだけど」


(いえ、マスターのスキルがあれば可能と進言します)


「本当か?! それなら、教えてくれタニア!」


(それでは、まず……)

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