第63話 話の裏側

 ──一時間前。

 リューマは、大精霊石についてどうにか出来ないか考えていた。


「タニアの力で、あそこに埋まっている大精霊石をどうにか移動出来ないか?」


「……はい、マスター。

 埋まっている場所が深すぎて、移動するのは難しいです」


「うーん、そっかー。

 あれが移動出来れば、村人を別の場所に移住させてしまってもいいんだけどなぁ」


 大精霊石は代々引き継がれてきた大切なものであり、またドリアードが宿る彼らの守護者でもある。それを奪われるようなことはあってはならないらしい。

 そのため、村を捨てて出ていくという選択肢はないと村長に言われた。


「ですがマスター。

 ダンジョンをそこに作れば、大精霊石をダンジョンの奥深くへ移動することが可能です」


「え、マジか?」


「はい、マスター。その代わり、ドリアードは村を護る結界を張れなります」


 大精霊石を護る為、加護を捨てるって意味だよな?

 それってなんか本末転倒のような気が……。

 結局、ハーフリングの人々は安全にはならないよな。


「それだと村人達みんなを護れないぞ」


「はい、そうなるでしょう。

 その為、安全が確保されるまでダンジョン内で匿うというのはどうでしょうか?」


「あー、なるほどな。

 ドワンゴ村のダンジョンみたいに、中に村をつくる感じか?」


「はい、そうなると思います、マスター。

 但し、最初はそれほど広いダンジョンを創れませんので、あの場所の1/3程度の広さになると思います」


 まぁ、何日もそのまま過ごすわけじゃ無いし、大丈夫だろう。どっちかというと、勝手に大精霊石を動かしてしまう方が問題だろうな。

 あとは、避難している間に攻め込まれたらこちらに被害が出てしまう。それだけは避けたい。ただでさえ村人が半分になってしまったのだ。ミィヤをこれ以上悲しませたくないからな。


「よし、それでいこう。それに相手を制圧して安全を確認するまで数日の辛抱だから、我慢してもらうさ」


「分かりました、マスター。ただ、大精霊石が無くなってしまうと結界が失われます。

 そのため、村人をすぐにダンジョン内に保護するためには一か所に集めないといけません」


「それなら、集まる場所は精霊樹がある場所だな」


「なるほど、あそこなら丁度大精霊石の真上ですね。

 分かりました、マスター。あの真下にダンジョンを創れるように準備します」


「ああ、頼りにしているぜタニア!」


「は、はい…!」


 被害者を出さずに、この危機を乗り越えるには住民の避難をどれだけ素早く出来るかに掛かっている。

 精霊樹の結界がなくなる瞬間にダンジョンに移動出来れば、それが可能な筈だ。


「じゃあ、皆を集めよう」


 早速俺は村長に話をして、精霊樹の前に村人達全員を集めて貰った。

 大精霊石を移動することについて、守るためにも必要だと話して納得してもらった。元に戻せるかは分からないが、それは後で考えてもらう。


 村人達には俺の精霊としてタニアを紹介し、ダンジョンを創れることを話した。

 そこで今回の避難計画を説明した。最初はよく分からなかったみたいだが、ミィヤが『私についてくれば、皆が助かる。信じて付いてきて』と話し、皆が頷いてくれた。

 ミィヤは俺に助けを求めて村を救った。その事実が皆を信じさせる結果につながったようだ。


 早速、村人たちは声を掛け合って広場の中心にある、精霊樹に集まった。

 その際に、食料や生活に必要な物を持ってきてもらう。

 今日全てが解決するとは限らないので、数日間過ごせる準備をするためだ。

 但し、急がないといけないので最低限にとどめて貰った。


 村の様子は監視されているが、ミィヤの母親である村長夫人の精霊魔法で視認が難しくなっている。これがなければ、行動を始めた時に感知されてしまう。

 奇襲されなければ、かなりの防衛能力がある村だったのかと驚いたよ。


「これで全部か?」


「はい、後は移動をするだけです」


「おう、リューマ!

 いま奴らが見える場所まで行って視察してきたが、奴らとうとう痺れを切らしたのか突撃の準備を始めたぞ。準備を急いでくれ」


「分かった。全員を一旦ダンジョンに迎え入れる。

 その後は、様子を見てから反撃する!」


「おう、俺も加勢するぞ!」


「いや、ムゲンは村人を護ってくれ。

 入口は閉めるが、万が一の時のためにダンジョン内に残ってくれ」


「リューマ、ミィヤは?」


「ミィヤ、今回は留守番していてくれ。

 俺一人ならなんとかなるけど、万が一ミィヤが捕えられてしまったら……、多分俺は降参してしまう」


 まだ出会って一か月くらいだが、ミィヤの存在は俺の中でとても大きい。

 もしかしたら自分が死ぬよりも、ミィヤを失う方が怖いと思っているかもしれない程にだ。


「……。分かった、ミィヤはダンジョンで待っている。

 必ず帰ってくると信じているから」


「ああ、約束するよ」


 切ない表情でそう言うミィヤが可愛く、感情が高ぶり抱き寄せてキスをする。

 ミィヤもそれに応えるかのように、俺にぎゅっと抱き着いてきた。


「ウォッホン! お主ら、ワシらがいるのを忘れておらんか?

 そんな事をしておる時間はないぞ」


「うおっと。忘れてないよ? あはははは……」


 シドンの咳払いで我に返り、恥ずかしさを笑って誤魔化しておいた。

 邪魔をされたミィヤはあからさまに不服そうな顔をしていたが、時間がないのは確かなので名残惜しいが準備を進めることにした。


 しかし、自分のことながら随分と大胆になったよな。前の世界にいた時は考えられなかったよ。

 環境が激変したせいもあるだろうけど、やはり強くなったせいで気持ちが大きくなっているのかな?油断をしないように気を付けないとだな。



「では、マスター。準備はいいですか?」


 精霊樹の周りには、全村人が集まった。

 祭りの時はまだ考える余裕がなかったけど、ハーフリングの人々がこれだけ集まると、なんか異世界にいるんだなと実感するな。

 でも、この人たちがいまの俺の居場所をくれた人々だ。

 この人たちの為にも、失敗は出来ない!


「よし、タニアやってくれ……」


 その時だった。

 空が様々な色に染まり、大きく振動した。

 これは、敵襲か?!


「リューマ、遂に仕掛けて来たぞ!急いでくれ!」


「分かった、ムゲン。タニア頼むぞ、『命令実行コマンドエグゼ』『迷宮創造クリエイトダンジョン』!!」


「──命令を受け付けました。

 『迷宮創造クリエイトダンジョン』を発動します」


 すると地面に大きな魔法陣が浮かび上がり村全体に広がっていく。

 村人たちが光に包まれて次々に消えていく。

 そして、俺達もその光に吸い込まれるように消えていった。

 

 最後に地中奥深くから光が溢れ出し、精霊樹がパアアアァっと光の粒子となって消えるのだった。


 ──気が付くと俺達は新しく創造されたダンジョンの中にいた。

 中心には、大きな精霊石が淡い光を放ってそこに鎮座していた。


「おお、これが大精霊石か? なんと神々しい」

「ここはダンジョンなの? 殆ど真っ暗なのね」

「お、おい本当に地下にいるのか俺達。いやー、凄いもんだな」


 村人たちは口々に驚きを表していたが、予め説明していたので混乱して騒ぎたてる人はいなかった。ダンジョンよりも初めて見る大精霊石の方に興味が向かったようだな。さっそく祈りを捧げている人が沢山いた。


「みんなの事はミィヤとお父様に任せて。

 リューマは、あの騎士団をやっつけてきて」


「ああ、任せろ。

 そうだ。ダンジョンをこっちに作ったから元の場所のダンジョンはただの洞窟になったはずだ。鈴香や星香達をこっちに呼べるようにしておくから、彼女たちに説明をしておいてくれ」


「分かった。やっておく」


 よし、あとはあの騎士団員達をボコボコにするだけだな。

 あいつらが欲しいであろうものは村にはない。

 それどころか、村はものけの空。

 さぞ驚いている所だろう。


「タニア、俺をダンジョンの外へ転送してくれ」


「畏まりました、マスター。では、転送いたします」


 再び魔法陣に囲まれて、光に包まれる。

 辺りの景色がクリアになると、遠くで家探しをしている騎士団が見えた。


「さーて、一丁懲らしめてやりますか」


 そう言って、いつもの小石を握り締める。


「……、『再接続リコネクト』完了。

 お待ちください、マスター。それでは殺傷能力が高すぎますがよろしいのですか?」


「あ、そうか……。

 てか、もう分身を作ったんだな」


 ダンジョンを創り直したおかげで、タニアの分身も一旦本体に戻ってしまった。

 俺をサポートするために、急いで分身を作ってくれたみたいだ。


「はい、マスターをサポートするのが私の役目ですから。

 提案ですが、精霊魔法『ウインドシールド』で弾いてはどうでしょうか?」


 タニアによれば、ウインドシールドというのは防御に特化した魔法で本来は殺傷能力が0の精霊魔法らしい。

 ただ俺の魔力があれば、広範囲に出すことが出来て相手をそのまま吹き飛ばせるだろうという事だった。


「なるほど、それなら吹っ飛ばすだけで済みそうだな。

 下っ端はそれで戦線離脱してもらおうか」


 狙いは、騎士団長一人だ。

 司令官がいなくなれば、少なくとも撤退してくれるだろう。

 しかも人質に取れれば、かなり優位な交渉が出来るはずだ。


「さーて、始めるか。『ウインドシールド』!」


 タニアを媒介に、俺の周りに目に見える程分厚い風の壁が出来た。

 そして、俺はそれを出したまま猛スピードで相手に突っ込んでいったのだった。

 

  


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