第61話 帰郷

「よし、村が見えたぞ!」


「本当だ、まだ騎士達は到着していないみたいだ」


 昼前に出発したが、まだ日は高い。

 上空から見た村は平和そのものだ。


「良かった、みんな元気」


「ああ、そうだな。間に合って良かったよ。

 しかし、これどうやって降りるんだ?」


「そのまま降りたら、家が吹き飛んじまう。

 あの泉あたりがいいじゃろう」


 降りる場所は、ミィヤとも思い出がある泉のほとりになった。

 周りに人が居ないことを確認してから、着陸した。盗まれたりしないようにガルーダに草木を乗せてカモフラージュした。


 万が一騎士団に持っていかれると困るからね。

 素材に使っている精霊石だけでも、かなりの金額になるのだから。


 泉から急いで村に向かう。

 シドンの話だと、騎士団が出発して二日経っているらしい。

 その為、そろそろ着いていてもおかしくはないのだ。


 村に着くと、村で1番大きな樹木から緑の光が立ち上っていた。俺が村から出る時にはあんなのなかった気がするけど。


「ミィヤ、あれはなんだ?」


「あれは、精霊樹の光。きっとお母様があそこにいる」


「この村には50年前に来たきりじゃな。あの頃と殆ど変わっておらんな」


 さすがドワーフ。50年前とか俺も生まれてないよ。そもそもこっちの世界にいなかったけど。


 精霊樹の周りには人が大勢集まっていた。

 そこにはミィヤの両親もいる。

 二人は精霊樹の前で祈りを捧げているみたいだ。


「おや? おい、リューマとミィヤが帰ってきたぞ!」


「なんというタイミングだ、やはりリューマは村の救世主だ」


 村に人々が俺を見つけて、歓声を上げる。

 中には涙を浮かべている人すらいた。

 その中から、一人のドワーフが俺たちの前に出てくる。そのドワーフは、戦士らしい兜を被り背中には大きな斧を背負っている。身体中には戦いで負った傷の後があちこちに残っていた。見るからに歴戦の戦士のようだ。


「おおっ、もしやシドン爺さんか?まだ耄碌してないようで何よりだ!

 いやー、久々だなっ!!」


「こら、ムゲン。ワシはまだまだ現役じゃぞ?

 年寄り扱いするでないわ!!

 お前からの連絡を受けて、ワシらも来たぞ」


 口上では喧嘩腰に感じるが、ドワーフの挨拶はこんな感じなのか二人とも笑いながら熱い握手している。


「で、そっちは?」


「こいつがリューマ。ダンジョン攻略者じゃよ」


「マジかよ? こんなヒョロそうな奴がなぁ」


 まじまじと俺を見て、怪訝そうに片眉を上げる。

 しかし、ムゲンの言葉に反応したのはミィヤだ。


「リューマは私の旦那。とても強い男」


「はっは、こんな可愛い嬢ちゃんに好かれるとは、羨ましいもんだ」


 ムゲンがシドンの言ってた冒険者なのだろう。

 たった一人で村を守りに来るとは、中々に剛毅な人なんだな。

 俺らが話をしていると、祈りを捧げていた中断して村長が俺らの側までやってきた。


「よく帰ってきてくれた、リューマよ。

 ミィヤも無事なようで一安心したよ」


「村長こそ、お元気そうで良かったです。

 しかし、また大変なことになっているみたいですね」


「ああ、ある程度予想をしていたが思った以上に規模が大きい。まさか正面から攻めて来るとは思っていなかったよ」


「え、もう騎士達が来たんですか?」


「ああ、昨夜に襲撃をしてきたよ。

 ムゲン殿が助太刀に来ていなかったら、またあの日の再来になる所だった。

 ここではなんだ、私の家で話そう」


「はい、分かりました。行きましょう」


 そこで話の場を村長の家に移した。

 村長の奥さんは、精霊樹へ祈りを捧げないとならず、そこにそのまま残っている。

 村の人何人かも、そので祈りを捧げないといけないみたいだ。


「奥さんは、あそこで何をしているんですか?」


「あれは、精霊樹への祈りだ。精霊樹へ祈りを捧げてこの村に結界を張っている」


「前は無かったですよね?」


 そうだ、俺が来た時は何も無かった。

 それこそあの精霊樹とか言うのも、無かったはずだ。


「そうだな。あの時は奇襲を受けて精霊樹を呼び出す暇すら無かったのだ。

 精霊樹とは、我らの守護者であるドリアードが顕現した姿。巫女が祈りを捧げて呼び出さないと、現れない高位精霊なのだよ」


 ん、ドリアード?

 どっかで聞いた覚えがあるな。


(マスター、ミィヤが所持しているトレントのナイフで呼び出せるのがドリアードです。しかし、あのナイフで呼び出せるは幼体ですね)


 なるほど。あれが成体になるとあそこまで大きな樹になるんだな。


「そうだったのか。そういや、俺たちはすんなり村に入れたけど?」


「ミィヤがいれば、すり抜けれる。

 この子も精霊の巫女だからな」


「おお、ミィヤって巫女さんだったのか」


「なんか、意味が違って聞こえたけど気のせい?

 そう、私も巫女よ。だから精霊魔法もいくつか使える。あの時は媒体が無かったから何もできなかったけど」


 おお、そうだったのか。今ならミスリルの短剣もあるし、色々と使えるようになりそうだな。


「今はその短剣があるし、これからは頼むな?」


「うん、任せて!」


 久々にニカッと笑うミィヤ。やる気が満ちているミィヤも可愛いな。

 さて、肝心の騎士団達は何処にいるのかな?


「それで、襲撃者たちはどこに?」


「昨夜攻めてきてから、二度ほど襲撃して来たが少人数でしか攻めてこない。結界に阻まれて入り込めないが、何か探っている感じもする」


 そもそも、ここの村になんの用があるというのか。木ばかりで、特別な素材が産出されるわけでもない。

 あるとすれば、精霊がいることくらい。でも、それだけで村を襲うだろうか?


「一体、何を狙っているんだ?」


「わからぬ。我らを奴隷にした所で力仕事しか役に立たぬからな」


「精霊樹が欲しいとかは?」


「それは……。この村の外で精霊樹は使えない」


「え、なんでだ?」


 トレントのナイフで呼び出すドリアードは、どこでも出せる。なのに、精霊樹として呼び出すドリアードはなんで村の外ではダメなんだろ?


「……あの精霊樹は、この土地にしか出現しない。なぜなら、この村の地下に埋まっている大精霊石に封印されているからだ」


「大精霊石? てか、狙いそれなんじゃないか?」


 シドンの話だと、小さいものでも精霊石はかなり高価なのだ。大きくなればその分だけ貴重で価値も跳ね上がるに違いない。

 それだけでも、この村を狙う理由にはなるかもしれないな。


「なんだと?! あれは先祖代々引き継がれてきたこの村の宝だ。何も縁もない人間に渡せるものかっ!」


 怒りを露わにする村長。

 しかし、相手は王宮から派遣された騎士達だ。

 オークとは比べものにならないほどレベルが高いらしい。

 まともに戦えば負けるのは目に見えている。


 そう、俺以外はね。

 シドン経由で、ムゲンから聞いた情報によれば一番強い騎士団長のレベルは58だ。

 戦闘職専用のスキルもあるだろうし、油断は出来ないがステータスだけなら俺の方が上のはず。


 だからこそ、負ける気はしない。

 しかし、心配なことは他にあった。


「いくら敵でも、人間を殺すのはなぁ……」


 勢い余って、人を殺めてしまわないか。それだけが気がかりだった。





 

 


 

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