第60話 空を翔けるガルーダ

「はっはっは。こいつに乗る日がまた来るとはなぁ!!」


 豪快に笑いながら、羽のある何をポンポンと叩くシドン。


「ええーっと、それは何だ?」


「おう? こいつはな、『ガルーダ』だ。

 精霊の力と、魔力で空を飛ぶ飛行魔導船じゃよ!」


 見た目は、三人乗れるカヌーに前後に車輪と上に屋根を付けて左右に羽を付けた飛行機モドキ。

 しかし、ボディーには色んな紋様が描かれていて神秘的な力を感じる。

 羽の下には光る石みたいなのが付いていて、ずっと明滅している。

 そこから、魔力を感じるのでこれが動力ってことか?


「まさか、これで空を飛んでいくとか言わないよな?」


「それ以外に、これを何に使えると言うんじゃ?」


 なんだろう、見た目が少し貧相なので信頼感が全くない。

 本当に飛べるんだろうか?

 もし飛べなかったら、村に付く前に天国に行ってしまう。

 あ、今度こそ神様に会えるかな?いや、その為に死にたくはないぞ?!


「こ、これが噂に聞く飛行魔導船ガルーダ!

 噂には聞いていたけど、こんなに美しいだなんて!」


 あれ、ミィヤさん?

 なんか、ウットリした顔でこのガルーダを見ているんだけど。

 『この曲線が……』とか、『この紋様が!!』とか俺には分からない世界に入っているな。

 もはや乗る前提でいるようで、興奮気味にシドンと話をしている。


「前の戦争で殆どは焼けちまったが、こいつは傷一つない綺麗な奴じゃ。

 底が抜けたりしないから安心するといい」


 安心ポイントそこかよ!

 しかし、こうなったら腹を括るしかない。

 いざとなったら、ミィヤを抱えて飛び降りよう。

 なんとか彼女だけは無傷で守って見せる!



 シドンが合図を送ると、石が眩く光る。

 この石は、精霊石といって中に精霊が宿っているんだとか。

 そこに魔力を送る事で、活性化して浮遊することが可能になるらしい。


 ただし、精霊石自体が貴重なので高価であり、量産するには至らない。

 そのため、最低限の重量しか乗せれない設計なのだ。だから操縦主含めて三人が限界らしい。


「さーて、ゆくぞリューマ!」


「初めて名前呼ぶのがこのタイミングかよ!

 あーもー、たのむぞおおおぉー!!」


 ガルーダの下に強烈な風が舞い、声が掻き消えそうになる。

 そのため自然と大声で話すことになってしまう。

 風が一箇所に収束し、機体を浮かび上がらせる。そこから吹く方向が変わっていき前へと進んだ。

 なんか、想像していた飛び方と違うな。まるでジェット機に乗っている感覚だ。


 そこからは凄かった。

 まるで前に引っ張られるような感覚で進むガルーダ。あまりの速さに景色が置いてけぼりになる。


「ぐうっおお、引っ張られるううっ!!

 しかし、凄いな!これならあっという間に着きそうだ!」


「リューマ! ミィヤは今空を飛んでいるよ!」


 ミィヤも興奮しすぎてテンションがマックスだ。

 風の抵抗とか半端なくて、悠長に話をするのは難しいけど、言わずにはいられないって感じだな。


 しばらく上昇し、雲の真下まで上がると速度が少し緩やかになった。

 さらに風の抵抗も下がって少し話が出来るようになっていた。


「なぁ、シドン! あとどれくらいで村に着く?」


「あと三時間くらいじゃろうな。

 この調子なら騎士団よりも先には着くぞ!」


 馬車三日かかる距離だと、大体300kmくらいだ。それを三時間とか、純粋に凄いな。


 話をする時に少し振り向くシドン。

 よく見たら、その顔にはゴーグルが付けられていた。


「おおいっ! なんで一人だけゴーグルしているんだよ! 俺らの分はないのかっ?!」


「ああーん? これは普段からワシが愛用しているもんじゃぞ? 人のためになんか、用意するわけないじゃろう」


 そっか、普段から火の粉が飛ぶ鍛冶場にいるんだ。ゴーグルを付けているのも当たり前か。でも、今も付けているなら風が目に入るって分かっているんだよな?


「それにだ、ワシがしっかり前が見えないと墜落してしまうからな! 風に耐えられないなら、目でも瞑っておけ!!」


 そう言うと、再び前を向く。

 しかし、離陸の時はジェット機かと思ったが、巡航している今はハングライダー並の速度で飛んでいる。それでもかなり早いんだけどね。何とか景色を楽しめる感じだ。


 前を見とシドンの操縦席が見えた。思ったよりもメカチックで、この魔法の世界には合ってない気がする。

 まぁ、原動力が魔力な時点でやはりファンタジー世界だけどね。

 あ、ミスリル武器を手に入れたし精霊と契約したいな。

 ん、そういやタニアは精霊族って言ってたよな?

という事は、タニアを媒介して魔法が使えるのか?


「タニア、俺とお前って契約していることになるのか?」


「はい、マスター。契約の中でも一番繋がりが強い主従契約となっています」


「じゃ、俺って精霊魔法使えるの?」


「そうですね、マスター。既にもう使っていますよ」


「え?」


「私と意識を共有する『接続コネクト』も、精霊魔法の一つです」

 

 え、そうなのか?

 そういや、ステータスのスキル欄に無かったから俺のスキルでは無いと思ってたが、魔法だっのか。

 いや、そうじゃない。使いたいのは炎とか氷とか出ちゃうやつだ。ああいうの使わないと魔法って感じがしないよな。


「攻撃する精霊魔法はないのか?」


「はい、ありますよマスター。私の属性に依存しますので、ストーンバレットなどの大地系や、スパークなどの雷系、ライトアローなどの光系が使えます」


 まだタニアと出会ったばかりで使える精霊魔法は少ないみたいだ。 

 これから増えるのかな?


「精霊魔法の使い方は、どうすればいい?」


「この分身体に触れて、魔法をイメージして頂ければ該当する魔法を私が放ちます」


「それって、タニアが魔法使ってるだけじゃないか?」


「使う魔力はマスターのものです。私が会話出来るので違和感があるのかもしれないですが、どの精霊魔法士も媒体や精霊を使ってるのですよ」


 なるほど、そういうものなのか。

 どれ、試しに風避けになりそうな魔法を使ってみるか。


 そう思って、タニアの分身体を握りしめて魔法をイメージしようとする。


「あっ……」


「えっ?」


「もっと、優しく扱ってくださいマスター……」


 タニアから艶めかしい声で抗議された。声だけなのに、妙に色っぽい。これが噂のチャームボイスかっ?!


「リューマ?」


「んっん、何も無いよ?」


「怪しい」


「それよりも、見てくれ!

『ウインドガード』!」


 俺の掛け声に合わせて、タニアが魔法を発動すると、風によるべール状の薄い膜が機体を包み込んだ。

 すると、全くと言っていいほど風で煽られなくなった。


「おー、リューマもついに精霊魔法を使えるようになったのね」


「ああ、これで俺も魔法使いだな!」


「うーん、それはちょっと違う気がする」


 むむ、精霊魔法だけでは魔法使いとは言えないのか!やはり、いつかは魔導書を手に入れるか。


「ほう、早速精霊魔法を覚えたか?

 こりゃ、操縦しやすくていいな!」


 俺が精霊魔法を使えるようになって、一番喜んでいたのはシドンだったかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る