第50話 勇者の帰還
さて、色んな事があったけど無事にダンジョンをクリアしたので村に帰ろう。
タニアに言ったら、ダンジョンの外に出る魔法陣を作ってくれた。タニアの分身を連れている俺は自由に使えるらしく、いつでもこの地下七階に戻ってこれるらしい。
なお、他の人はこの魔法陣を呼び出せない。
だから俺(と一緒にいる仲間)だけが、ダンジョンに出入り出来るのだ。
新しい拠点を作れば、そこと自由に行き来出来るので移動がとても楽になる。
それを考えると、ハーフリングの村に作るのがいいかもしれないな。うん、早く帰りたい。
ふと思い出したが、外にいる魔物はレベルが20までしか上がらないってミィヤが言っていたよな。それなのにダンジョンでは20レベル以上の魔物がうようよ出てくる。
それを考えると、高レベルを目指すならダンジョン以外ではかなり大変なわけだ。だから普通の冒険者は、各地にあるといわれるダンジョンに潜るわけ。
王族が管理している専用のダンジョンに籠れる勇者は、そういう面では他の冒険者より恵まれた環境にいるんだよね。
もちろん危険がその分増すんだけど、最初は騎士達も同行していたらしいので、ゲームでいえばパワーレベリングしている状態だから死にそうになるほど大変な思いはしてなかったらしい。そりゃあレベルあがるのも早いわな。
まぁ俺はスキル『
ともかく、専用のダンジョンを持てるというのは、この先強くなるためにはかなりのアドバンテージとなるだろう。
一緒に連れていくミィヤも、もう少しレベル上げておきたいからな。
「さーて、無事に帰還したぞっと。
うん、誰にも見られていないようだし宿屋に戻ろうか」
「はーい、オッチャンにさんせーい! お腹空いたし、体がベトベトするし早く帰りた~い」
「あの、坂本達はどうしますか?」
須崎が背負った坂本を見つつ、このあとも一緒にいるのかと瞳月が聞いてきた。
救助はしてあげたが、流石に邪な目的で誘って来た相手と一緒には行動したくないみたいだな。
まあそりゃあ、そうだよね。
「あー、そうだったな。須崎、宿は取ってるのか?」
「はい、一応は取っています。オルターナって宿屋です」
流石に坂本がデコピンで吹き飛んでからは、須崎は俺に強く出ることはなくなった。
まぁ、これだけステータスの差があったら反抗する気も起きないよな。
「それなら同じ宿屋だな。だったら宿屋まで一緒に行くか。
そうだ、先に言っておくけど俺の事は他の生徒には内緒にしておけよ?
ダンジョンの攻略も、星香達がクリアしたことにしてくれ」
「……理由はなんですか?
追い出されたとはいえ、今の実力があれば王宮からも優遇されるんじゃ?」
「それが嫌なんだよ。俺は自由に暮らしたい。
星香達の手伝いはしても、この世界を救いたいわけじゃないし、その義理もないと思っているからな」
「そうですか……。分かりました、秘密にしておきます」
「もし、約束を破ったら……」
そういいながら、デコピンを構える。
暴力に訴えるのは好きじゃないけど、背に腹はかえられぬからな。
ミィヤと一緒に暮らすのに、マリウスの監視は邪魔以外なにものでもない。
「わ、分かってますって!
絶対言いません!!」
後ろで話を聞いていた藤村と武藤も、コクコクと首を縦に振って頷いている。
多分、しばらくは黙っていてくれるだろう。
あとは、坂本か……。
「坂本はどうしたらいいでしょうか?」
「お前たちが止めておけよ。
俺にまた迷惑かけるようなら、次はないし、お前たちも連帯責任だからな?」
「うげっ、マジですか!
俺達の中では強い方だから、止めるの大変なんだよな」
「あのデコピンくらうよりは、マシなんじゃね?
いざとなったら、三人で黙らせるしかないぜ」
藤村も武藤も、もはや坂本を自由にさせる気はなくなったみたいだ。
二人も巻き込まれたようなもんだし、これ以上は勘弁してくれといわんばかりだ。
「よし、宿着いたら風呂だな。星香達は先に入るといい。俺とミィヤは、その後に入る。
風呂入った後はみんなで飯食べよう。女将さんには言っておくよ」
「やったー!」
「ふ、風呂」
風呂という単語に反応する武藤。
ははーん、女の子の裸でも想像したか?
まぁ男子として健全ではあるけど、今はイカンよ君達。
「懲りないなぁお前たち。ただ、残念ながら部屋の風呂だから覗けないよ?」
「いや、そういうわけじゃ……。
てか、部屋に風呂ついてんの?!
いいなぁ、あの銭湯みたいのところ、ムサイオッサンしかいないんだよな」
「ばーか、こっちで風呂に入れるだけマシだろ。
宿着いたら、坂本叩き起していこーぜ。
ついでに、説教しよう」
「さんせーい。乗せられた俺達が悪いけど、本当のバカはこいつだかんな」
そんな感じで、男子高校生らしいノリで宿屋に戻っていく三人と背負われた一人。
俺達とは受付で別れたが、去り際にしっかりと頭を下げて『どうも、すみまんせんしたー!』と謝っていった。
瞳月は、誠意がこもってないとか言ってたけど、須崎以外は体育会系だし、そんなもんだろと宥めておいた。
その後、一日の疲れと汚れを風呂で落とし食堂へ向かう。かなり遅い時間にもか関わらず、かなり盛況のようだ。めちゃ人が多い。先に言ってなかったら席がなかったかもしれないな。
でも、なんでよりによってど真ん中のテーブルなんだ??
「ふっふっふー! ほーら、みんな主賓が到着だぞ!」
「ん???」
「ダンジョンを見事クリアした、勇者達にカンパーイ!!!」
うおおおおぉっっ!!と俺達を置いてけぼりにして周りが盛り上がる。カツンカツンと木のジョッキが打ち合う音があちこちに響く。
なんだなんだ??
「(マスター、どうやら外に放り出した冒険者の報告により、ダンジョンクリアが分かったみたいです)」
うわ、それは想定してなかったわ。
そうか、ランクが低いとはいえダンジョンクリアに立ち会った冒険者はいるのか。
「ウルナさん、これはなんの騒ぎなんだ?」
「はいはい。私が何年生きてると思ってんだい?
あんたらがダンジョン制覇したんだろ。言わなくても、それくらい分かるのさ」
「ええーと、この子らが頑張ったんだよ。
俺はサポートしただけさ」
よし、ここはとぼけよう。
せめて俺は違うと。
「何言っているんだい、同じパーティなんだろ?
誰が一番活躍したとかどうでもいいじゃないか。
みんなで頑張ってくれた、それでいいのさ」
豪快でいて、優しい笑い顔を向けていうウルナさんは格好良かった。流石は女将さんだ。
「おや、あの子たちも仲間かい?
ほら、ぼーっとしてないでこっちに来な!」
ウルナが向いた先には、バツが悪そうにしている坂本と須崎達の四人だった。
坂本が少しボロボロになっているのは、……うん、気のせいだろう。
急かされるままに、席に着く四人。
テーブルは大きいので、窮屈ではなかったがそれでも十人座れば満席にもなる。
さて、どうしようかと悩んでいたら、再びウルナさんが声を上げた。
「さあっ、今日の主役はこの十人だよ!
村を救った英雄に免じて、今日の酒は奢りだよ!
みんな、この子らに感謝するんだよっ!!」
うおおおおぉおおおおっっ!!!
と大歓声が上がる。そして再び乾杯の嵐。
俺達は村を救った英雄として、村の人々にもみくちゃにされるのだった。
そして、その中には坂本もいた。
最初はばつ悪そうにしていたけど、「地下七階までは四人で行けたんだろ?」と言ってあげたら、さらに冒険者達に囲まれて根掘り葉掘り聞かれていた。
そのおかげか、その顔からは険がすっかり抜けていたので、少し安心したのだった。
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