第49話 転生の理由

「私達が死んだ理由は、この世界の召喚魔術が不完全なもので、失敗したからです。

 本来なら、私達の世界に干渉される前に神様が無効化するらしいのですが、見逃してしまったらしいのです」


 神様といえど万能ではないというわけか。

 俺は今までの人生で上手くいった試しがないから、少し親近感が沸くな。

 つか、あの青ローブ。偉そうにしてた割に召喚失敗してんじゃねーか!


「だから『防げなかった代わりに、新しい肉体と呼ばれた世界で役立つスキルを与えるね。要望には応えてあげるから、欲しいスキルを思い浮かべて』と言われました。

 そこで意識を取り戻したクラスメイトは、欲しいスキルを自分で選択したんです。

 ただ…」


「ただ?」


「意識がない人は、その時に選べなかったので、神様がこう話しておりました。

『魂が傷ついてしまった人は、今は意識を取り戻せないみたいだね。向こうの世界に送る時には修復しておくけど、これでは自分で選択できないね。では、魂に結び付いた最適なスキルを付与してあげよう』と」


「……だから、俺はこんなスキルなのか」


 というか、俺が平均しか取れないのも、偏差値がずっと50だったのも、魂レベルで決められていた特性だったのかよ。どうにも出来なかった筈だわ。

 ちなにみ、その場で選択出来なかった子も同じように付与されたみたい。

 もしかしたら、それで苦労している子もいるかもしれないな。


「じゃあ、魔王討伐とかいうのは?」


 そこで瞳月が話に割って入って、衝撃的な発言をする。


「それは、あの王様と筆頭王宮魔導士のマリウスが言っているに過ぎません」


「なんだってっ?!」


 瞳月に思い違いしている事を指摘された星香は、自分の勘違いに困惑するのだった。

 元々、勇者から外された俺は関係無かった話だけど、星香達にも約束守る理由がないじゃないか。生活の為だとしたって、命賭ける使命を背負わされるほどの話じゃない。


「じゃあ、もう従う理由もなくないか?」


「いいえ、それでも従うしかないんです。

 私達には、これがあるので……」


 星香には珍しく、顰めた顔をしながら左手を差し出した。

 それに合わせるように、他の生徒達も自らの左手を見せてきた。

 左手首には全員が同じ腕輪が嵌っている。一見綺麗な装飾がされている高価な腕輪に見えるが……。


「これは、『誓約の腕輪』というマリウスが私達に付けた呪いの魔導具。

 彼との誓約を破る行為をした場合、装着者に耐えがたい苦痛を与えるアイテムなんです」


「もしや生徒全員付けているのか?」


「はい、そうです。もちろん響子先生もこれを付けられていますわ。

 だから、全員魔王退治の準備をしないといけないのです」


 まるで奴隷のような扱いだな。

 いや、実際最初は牢屋にいれられていたし、そう思っているんだろうな。

 思えば、あれこれ言う割には自由に外に出たりしているなとは思ったけど、こういうカラクリがあったわけだ。

 かなりえげつないな。


「ちなみに誓約の内容は?」


「マリウスの命令に従うこと。マリウスに逆らわないこと。魔王との戦いから逃げないことの3つです」


「案外アバウトなんだな。じゃあ、命令くる前に離れてしまえばいいんじゃないか?」


「そうですね。ただそれも難しいのです。

 この腕輪は、通信機の役割もありまして、これを通して命令がくるんですよ」


「うわ、最悪だな。ちなみに逆らった人はいたのか?」


 耐えがたい苦痛とか、聞いただけではピンとこない。

 特に平和な国で過ごす日本人には想像が出来ないと思う。

 俺もそのうちの一人だ。


「坂本が真っ先にマリウスに逆らい、彼に剣先を向けました。

 結果、血を吐きもがき苦しむ姿を全員がみる結果に……」


 なるほど、坂本のせいで全員に恐怖を植え込むことに成功しちゃったんだな。

 そんなのを見たら、もう誰も逆らう気が起きないだろう。


「ちなみに、無理に外そうとしたり壊そうとしてもダメだったよ。

 すっごい電気がビリビリビリ!!ってなったんだよ」


「鈴香、お前試したのか?」


「うん! すっごい痛くて久々に泣いちゃった!」


 そこ、元気に言う事か?

 しかし、鈴香が我慢出来ないレベルだと壊そうとするのも危険だな。

 根本的に、解除する方法を探す方がいいかもしれない。

 とりあえず、頭をよしよししておく。ミィヤも鈴香には慣れたのか何も言わなくなった。


「俺らを元の世界で死なせて、無理やり呼んだ挙句、自分達の為に働けってどんだけなんだよ。

 タニア、魔王にメッセージを送るのは出来るのか?」


「はい、マスター。もちろん可能です。

 どんなメッセージを送りますか?」


「じゃー、『誓約の腕輪』の解呪方法知っているか?

 と、聞いてくれ」


「りゅ、リューマ流石にそれは……」


「そ、そうですよ。

 倒そうとしている人間に教えてくれるわけが……」


 俺が魔王に質問したせいで、あわあわする二人。

 他の子達は、固唾を飲んで待っている。

 きっと、藁をも縋りたい気持ちなんだろう。


「…………回答がきました。お伝えします。『その解呪方法なら知っている。

 ダンジョンのコアを3つ集めれば、我が存在する城へ転送可能になる。

 我の元に辿り着いたら、教えてやろう』と仰せです」


「分かった、必ず行くから待っていてくれと伝えてくれ」


「畏まりました、マスター。お送りします。

 ……返答がきました。

 『暇だから、早く来い。飲み物くらいは出してやるぞ。俺は厄災の魔王の一人、魔王アスタだ、早く俺の元へ来るがいい』

 と仰せです」


 なんか今大事なことをさらとっと言った気がしたな。

 しかし、思ったよりもフレンドリーな魔王で良かった。

 てかフレンドリーな魔王ってなんだ。

 しかし、マリウスとかいう奴よりは対応がいいな。暇なだけなんだろうけどね。


「よし、なんにせよ魔王に会うって目的は変わらないな。

 あのマリウスって男も、俺が魔王と連絡取れるだなんて分からんだろうし、こっそりと会いに行こうか」


「リューマなら、ダンジョン3つくらい制覇出来る。

 私の旦那様は、とても強い男だ」


「マリウスにはダンジョンコアを集めろとは言われていません。

 なので、このまま一緒に行動していても問題ないかもしれないですね。

 勿論、川西さんのことは伏せてですけど」


 こうして彼女らとこのまましばらく一緒に行動することが決まった。

 ミィヤも特に反対せず、むしろ助けてあげたいと思っているみたいだな。

 本当に良い人を嫁に貰えたもんだわ。

 元の世界に未練がないわけじゃないけど、俺はこの世界に転生出来て良かったと改めて思うのだった。


「よし、全員の自由の為に頑張るか!」


「はい!」

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