第48話 ダンジョンの管理者
「それでタニア、君が復活する時に黒いオーブを取り込んだけど、あれって復活する為のアイテムだったのかい?」
名前を付けたのだから、答えてくれるはず。
そもそも、この世界についても知らないことが多いからな。
「いえ、違います。私の中にあるオーブはダンジョンコアといい、このダンジョンを生み出し管理するために存在します。
そして、私はクリスタニアの残骸とダンジョンコアにより新しく創られたタニアです。何者かの投石で破壊されたクリスタニアではありません」
あ、ガシャンってガラスが割れたような音は、クリスタニアを破壊した音だったんだな。見えなかったとはいえ、ごめんよ。
ええとつまりは、ダンジョンの管理者として新しく生まれた魔物ってことかな。
だとすると、あの黒いオーブ…もといダンジョンコアは管理者を創るチカラがあるってことか。
なんかすごい物だったんだな。
つまりは、あのアークデーモンも何者かによって創られたわけだ。
…魔王がどうとか言ってたな。
もしかしなくても、魔王が創ったダンジョンだったはずだよな。
それを不可抗力とはいえ、奪ってしまったわけか。
「勝手にダンジョンを創ったら、魔王が怒るんだろうな……」
「いいえ、魔王様から『面白いニンゲンがいたもんだ。ひさびさに驚かせてもらったぞ。大変興味深いから、今度会いに行く。ダンジョンのひとつくらいはくれてやるから、好きにしろ』とのメッセージを承っております」
「おー、怒ってないんか。……って、え?え?
なんで魔王からメッセージ来んの?
というか、なんでメッセージ受け取っちゃってるんだ!?
会いに行くって、なんだ!どういうこと!?」
突然すぎて頭が追いつかない。
そもそもタニアについてだってまだ頭の整理がついてないのに、今度は魔王だと!?
メッセージが来るとか、速攻バレてんじゃん。嫌な予感しかしないぞ。
「ダンジョンコアは、魔王様が創り出した破壊不能のアーティファクト。
すべてのダンジョンコアは、魔王様と繋がっております。
なので、どこにいても魔王様と通信可能です」
「ちなみに、通信拒否することは?」
「そのような機能はありません」
「メッセージを拒否することは?」
「そのような機能はありません」
くそー!
「じゃあ、ダンジョンを放棄することは」
「?! …そのような機能は利用出来ません。拒否します」
「お、おおいっ!?」
マスターとかいいながら拒否出来るんかい!
そもそも魔王に様付けな時点で、魔王の命令を優先しそうだよな。
いつ寝首をかかれてもおかしくないな。何それ怖いんだけど。
「但し、この場所を放棄することは可能です」
「ん?それはどういう意味だ?」
ダンジョンを放棄するのは出来なくて、場所の放棄は出来るとか意味がわからん。
あ、引っ越しは可能ですという意味か?
「現在のダンジョンのコアは、タニアとなってます。
よって、私が別の場所に移ることで別な場所にダンジョンを構築することが可能です」
うん、概ねあっていたな。
その場合、気になるのはここがどうなるかだな。
「別の場所にダンジョンを構築した場合、元あったこのダンジョンはどうなるんだ?」
「ダンジョンではなくなったこの場所は、そのままの姿で残りますが新たに魔物が発生することはありません。但し、既に発生している魔物の住処となるでしょう」
つまり、そのあと駆除しないと魔物の巣窟と化すわけか。
無限に湧き続けるダンジョンよりはマシかもしれないけど、ここのダンジョンの魔物は結構強いからな。
外に出てきてしまったら、村の損害は計り知れない。
ただ、このままダンジョンを放置しておいた場合はそれ以上に被害が出るし、採掘作業が再開出来ない。
取り敢えずは、ダンジョンの機能を止めるのが先だな。
「じゃあ、一旦魔物の出現を止めるのは可能かい?」
「はい、それは可能です。既に出現している魔物をダンジョンに吸収し、マナに変換する事も可能です。実行しますか?」
「んん? それが出来るなら、それで問題解決じゃないか?
よし、すぐに実行してくれ」
「畏まりました。では、ダンジョン内の魔物をすべて吸収し、マナに変換します。
現在ここにいるマスター以外に、ダンジョン内に入り込んでいる人間が27名います。すべて外へ排出しますか?」
「それって、死んだりしないよな?」
どこの冒険者か知らないが、見知らぬ人とはいえ死なれるのは目覚めが悪い。ある意味俺が手を下す事になるわけだし、流石にそれは避けたい。
「はい、若干魔力を奪う事になりますが生命に影響はありません。
尤もその程度で死ぬのなら、生きてダンジョンから抜け出せないでしょう。
では、排除を開始します」
「分かった、それならよろし頼むよ」
よし、これで無事にダンジョンを無効化出来るな。
魔物もいなくなるなら、そのまま一目の付かない場所へ移動してもいいだろう。
「では、マスター。実行するのにマスターからの承認が必要になります。
この台座に手を添えてください」
部屋の中心にある、不思議な台座に小さな魔法陣が浮かび上がる。
言われた通りにそこに手を添えると、魔法陣が一際強い光を放った。
【あなたは、ダンジョンマスターとなりました。ダンジョンコア:タニアの変更命令を実行しますか?】
「YESだ」
【ダンジョン内の変更を実行しました。これによりダンジョンは非活性になります】
「これで、終わりか?」
「はい、無事すべての魔物のマナへの変換、人間の排除が完了しました。
また、ダンジョンが非活性になりましたので入口を閉鎖しました」
なんか色々とやってくれたみたいだな。
とりあえず一旦はこれで大丈夫だろう。
しばらくすれば鉱山も元通りになりそうだ。
さて、それはそうとダンジョンコアとなったタニアをどうするかだな。
見た目は水晶で作られた女性の像だが、どういう仕組みなのか人間と同じように動くから、誰がどうみても魔物と分かってしまう。
そもそも魔王の配下であるのは、変わらないからな。
「それでこれからタニアはどうする?」
「私はダンジョンのコア。ダンジョンがある場所に存在します」
「それなんだけど、ここにダンジョンがあるのは都合が悪い。
だから引っ越ししたいのだけど、どうすればいい?」
封鎖した今、ここはこのまま放置してここから出てしまえばいいだろう。
しかし、その場合はここにタニアを放置してしまう事になる。
それ自体はいいのだけど、魔王がここをまた復活させてしまう可能性がある。
そうならないため、出来るだけ人の目に付かない場所に移動したい。
それに、考えようによっては俺専用のダンジョンを作りそこで経験値稼ぎやアイテム入手が出来るってことだ。
何が出来るかはまだ分からない事が多い。
しかし、今は安全な場所へ移すのが最優先だろう。
「それであれば、私の分身を連れて行ってください。
私はここから出れませんが、分身ならご一緒するのが可能です」
そういうと、タニアの手の平がひかり、そこかで一体の魔物が出現した。
可愛らしい顔の小さな少女の姿した、小人?
ただ、全身がガラスのように真っ青だ。
「この体は本体の精神と記憶が繋がっています。
だから、マスターのポケットなりに潜みますので、新しく拠点にしたい場所に辿り着くまでこの体でご一緒します」
「へぇ、便利だな。新しい拠点についたら、どうすればいいんだ?」
「それはその時に説明します。
ちなみに、『ここと新しい拠点を繋ぐワープポータルが作れるので、出来るだけ拠点を増やすといい』と、魔王様からメッセージをいただきました」
「魔王っていい奴なのか?」
「リューマ、魔王は全ての魔族の頂点。
いい奴では頂点にはなれない」
「それもそうか。
でも、今のところ敵意を感じないんだよな」
「あのう……」
「どうした星香?」
「一応、私達ってその魔王を倒すためにこの世界に転生させられたのでは?」
「王様とあの青ローブはそう言ってたけど、神様がそう言ったのか?」
そう、俺だけ転生前に神様に会ってないのだ。
勝手にスキル与えられて、転生させられた俺はなんの説明も受けてない。
「あ……」
「え?」
「そういえば、神様はこう言ってました──」
ここで俺は初めて神様が俺達を転生させた本当の理由を知るのだった。
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