第39話 ダンジョン攻略①

 坂本達がダンジョンへ潜ってから一時間程遅れてリューマ達は中に入った。

 中は思ったよりも広くて、六人が並んでも窮屈じゃないくらいだ。

 魔物はすぐには現れる様子が無かったが、それが他の冒険者が狩ったあとだと気が付いたのは数十分後だった。


「誰か先に入っているみたいだな」


「噂のダンジョンですし、腕試しや名声欲しい冒険者がかなり潜ってるみたいですよ」


 星香は入口の兵士に話を聞いたらしく、今日だけでも既に五組は中に入っているとか。

 ちなみに俺に突っかかってきた冒険者の話は、やはりウソが混ざっていたみたいで、ちゃんと生還者は他にもいるらしい。

 その冒険者達のおかげで、地図も徐々にだが出来上がっているとか。

 まだ最高で、地下5階層くらいがそこまでならBランク、つまりはレベル30程度の冒険者でも問題なくいけるらしい。


「問題はその先ってことだな」


「リューマなら平気」


「そうだな。でも、俺が手こずる相手が出てきたら速攻逃げるからな?」


「オッチャンが逃げるレベルだと、私達は死んじゃうから賛成かな。

 だってオッチャン、レベル40の魔獣を小石投げるだけでやっつけちゃうし」


 あ。あの双頭の狼はレベル40なのか。

 俺のレベルは50だけど、多分他の人のステータスで計算すると70相当くらいなんじゃないかな。

 その俺が苦戦する相手となると、レベル80~90という計算になるな。これがゲームならラスボス通り越して、裏世界の最終ボスくらいだ。

 そんな無茶な相手がいない事を祈りたいな。


 地下二階層から魔物がちらほら現れた。

 俺が戦うまでもなく、女の子達がレベルあげも兼ねて率先して戦ってくれる。

 その中には、ミィヤも入っていた。


「私もレベルを上げないとね?」


 そう言って魔物に突っ込んでいく。

 ミィヤの戦闘スタイルは、低位の属性魔法と短剣での攻撃だ。

 今までは俺だけが戦っていたけど、ステータスがものをいう世界だしレベルを上げておきたかった。

 俺が離れている間に襲われるとか、あったら困るからね。


 素のステータスでは、この階層でも苦戦してしまうので、俺のスキル『平均アベレージ』を使って強化してある。

 今のミィヤは、全てのステータスが1000越えである。おかげで、全て一撃で倒している。

 実質、瞳月や鈴香よりも強くなっているので、最初はびっくりしていたけど、俺のスキルの効果だとミィヤが白状してしまった。

 ただ、この子達には隠すつもりは無かったので責めるつもりもない。


「そのスキルって、みんな同時に掛ける事可能なの?」


「ああ、可能だよ。ただし、その分弱くなってしまうから、五人全員だとあまり意味がないかも」


「ふーん、キョーコちゃんのとは違うんだねぇ」


「そうだなぁ。響子ちゃんのは全員のステータスを底上げするんだろう? 俺のは、俺のステータスを含めて全員のステータスを平均化するだけさ」


 それを聞いて、星香がギョッとした顔になる。

 そして恐る恐る聞いてきた。


「つまりは、二人なら二人の合計割る二ですよね? あの、川西さんのステータスの平均っていくつですか?」


「えーとね、平均というか全部が2500だ」


「?!!?!」


「まー、ビックリするよなぁ。でも、嘘じゃないよほら」


 そう言って俺のステータスを表示して見せたあげた。

 こうやって提示した時だけ、相手はステータスが見ることが可能だ。そういや、教えてくれたのも星香だったな。


「うそ……、こんなステータス有り得ないですわ」


「でも、これが今の俺のステータスだ」


 どれどれと、他の女の子達も覗き見る。

 この子達には隠す気は無いから、そのまま見せた。


「うひゃー、やっぱオッチャン凄い強いね! このステータス見て納得したよ!」


「なるほど、リューマのステータスはこんなに高かったのね。さすが私の旦那様」


 いや、ミィヤには教えていた筈だけど?!

 あ、でも見せたのは初めてか。

 瞳月と明日香に至っては凝視して固まっている。


「やはり、どう計算してもこのステータスは有り得ませんわ。私の魔法値と知性はクラスの中でもトップなんです。それなのに、たったレベル5の差で倍近くあるなんて……」


「お、あれから結構レベル上がってたんだな、おめでとう」


「はい、有難うございます。って、そんな事はどうでも良いのです! 一体何をしたらそこまで上がるんですか?」


 納得いかない顔をして抗議する星香。

 普段は見せない必死な顔をしつつ、グイッと顔を寄せてきた。

 おー、近くで見るとより美人だと分かるな。

 目鼻立ちが整っていて、かつ二重の瞳がキリッとつり上がっていて凛々しさもある。

 こりゃ、坂本が惚れるのも仕方ないね。

 ただ力押しで迫るのはダメだけど。


「聞いてますかっ?!」


「あー、ごめんごめん。いや、やっぱり美人さんだなと思って見蕩れてしまったよ」


「!!? い、今さらお世辞を言われても、誤魔化されませんからね」


 そう言いつつ、顔を真っ赤にする星香。

 あれ、意外と照れ屋なんだな。

 言われ慣れてそうなんだけどね。


「いやー、お世辞ではないんだけどね。

 それはそうと、お客様だぞ?」


「うあ、でっかいワンコ?」


 俺らの前には、いつの間にか炎を纏った犬型の大きな魔獣が現れていた。

 ギョロっとした瞳はこちらを覗くように見て、ニヤリと口を歪めた。

 なんか気色悪い犬だな。


「この魔獣はガルムですわ。属性は炎、弱点は氷です」


「それなら私に任せて! 『氷の矢』!」


 星香が弱点を教えると、瞳月が弓に属性を付与して放つ。

 ギュアッッ!!と悲鳴をあげて仰け反ったガルムに鈴香が飛びかかる。その拳は青く光り、まるで闘気でも纏っているかのようだ。

 ボゴンッと鉄板が無理やり凹まされたような音がして、ガルムの顔がグシャリと潰れる。


 たった数分で、巨大なガルムを打ち倒すのだった。


「うわー、鬼強だな。

 でも、三人ともやっぱり強いなぁ」


「でしょ! オッチャンには負けないからね!」


 にこやかな笑顔とピースサインで勝利をアピールする鈴香。相変わらず元気な娘だ。


 その後も、魔物や魔獣に遭遇と撃退を繰り返し、さらに俺達は下に潜っていくのだった。

 

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