第40話 ダンジョン攻略②

 村で噂になっている地下五階層までやってきた。

 ここはとても気温が低くてひんやりしていている。息を吐くと白くなり、地面にはうっすらと氷が張っているみたいだ。


 油断していると滑りそうになるので自然と歩みが遅くなる。

 焦れったい気持ちになるが、転んでしまったら怪我するくらいじゃ済まないだろう。


 慎重に歩いていると、どうやら魔物達がやってきたようだ。

 今までとは明らかに雰囲気が違う、なんと氷の槍を持っているぞ?


「あれはなんだ?」


「リューマ、あれはブリザードマン。極寒の地域に居るという、魔族だぞ」


「なんでそんなのがダンジョンから出てくるんだ?」


 見た目はトカゲ人間でお馴染みのリザードマンの青いバージョンだ。

 外は温泉が出るような火山地区なのに、ダンジョンだからってなんでそんなの出てくるんだよ。

 そもそも魔族ってなんだ?


「魔族は魔物とは違うのか?」


 俺の疑問に、星香が答えてくれた。


「魔族とは、魔王が生み出す知性を備えた魔物を指します。彼らは魔法やスキルを扱い、とても手強いですわ」


「星香達は戦った事があるのか?」


「ええ、私達が行っていた『試練のダンジョン』にも出没します。でも、あの魔族は初めて見ますね」


 知性があるから会話できるみたいで、何やらリーダー格が指示を出してこちらを警戒しつつジリジリと迫ってくる。

 会話できるなら交渉可能か?と話し掛けようとしたら、いきなり襲ってきた。

 くそ、問答無用かよ!


「グギャギャギャッ、ギャギャーー!!」

「グギャギャギャー!」


 うん、さっぱり何言っているかわからん。

 大方、お前たちやってしまえ的な事を言っているんだろうな。

 数は、ひーふーみーよー……、十体か?

 みな同じ格好で、同じ装備。

 ただ、リーダー格だけ一回り大きいな。


 余裕をかましてたら、そのうちの一体が氷の槍で俺を突いてきた。

 うお、あぶね!


 良く考えたら俺って武器無いんだよな。

 仕方ない、いつも通り小石でも投げるか。

 ビュンッ……ドシャッ!パパパパンッ!!


 おー、貫通して数体が昇天されたぞ。

 うーん、思ったよりは弱いか?


「凄っ!」


「え、何そのスキル!」


 スキル?いや、小石を投げただけだよ?

 えいっ。

 ビュンッ……ドシャッ!パパパパンッ!!

 うん、こいつらの血も赤いのね。


「隊形が崩れたわ!今のうちよ!」


「任せて!」


 瞳月が弓で応戦し、鈴香がナックルで相手を打ち抜く。しかし、ブリザードマンはその攻撃に耐えていた。

 なるほど、なかなかに強いな。


「リューマ、私もやる」


「分かった、無茶はするなよ?」


 再びスキル『平均アベレージ』でステータスを分けて、ミィヤを送り出す。

 手に持った短剣で的確に急所を切り裂く。


「ギーグギャギャッ!?」


「うるさいから、黙って」


 獲物だと思い込んでいた相手が想像した以上に強く、困惑しているみたいだな。

 さて、残りは二体。

 リーダー格と取り巻き一体。


「こっちは貰いっ!」


「では、こちらは私が行きます!」


 鈴香と星香が二体の間に割り込み、それぞれ1体1に持ち込む。

 リーダー格は鈴香で、残りの取り巻きは星香が相手する。


「これでも、くらええええええっ!!」


 突然、鈴香の拳が真っ赤に燃える。

 その炎を纏ったまま、ブリザードマンのリーダー格の頭を貫いた。

 ドンッと大きな音を立てて、相手の頭は吹き飛んだ。

 そして、そのまま後ろに倒れて息絶えたのだった。


 星香の方は、取り出した薙刀を舞うように扱い、四肢を切り裂いていた。

 ブリザードマンは、その攻撃に耐えきれず、手に持った槍をポトリと落とした。


「! トドメですわ!」


 ひらりと一回転したかと思うと、その遠心力を使い得物を横に凪いだ。

 次の瞬間、相手の頭がごとりと転がりそのまま息絶えたのだった。


「おー、みんな強いじゃないか」


「えへへ、やる時はやるよ!」


「少しはお役に立てて良かったです」


 その言葉に、素直に喜ぶ鈴香と星香。

 それとは対照的に、ミィヤだけは不服そうな顔だ。


「リューマと比べたらまだまだね。私ももっと強くなる!」


「うーん。やる気があるのはいいけど、怪我とかしないでくれよ? まだ、力に体がついていってないだろ?」


 そう言ってミィヤを撫でてつつ、窘める。

 しかし、その言葉は耳に入ってないのか気持ちよさそうにしている。

 なんか猫を撫でている気分だな。


「……なんかズルい! オッチャン、私も撫でて!!」


「いや、なんでだよっ!?」


「ご褒美、ご褒美!」


 そう言って、頭を突き出してくるので仕方なく撫でておく。うん、猫増えた。

 って、どういう状況だこれ。


 ミィヤは鈴香の事は諦めているのか、放置して止める気配はない。

 その代わりに、瞳月と明日香に胡乱な目で見られていますわー。

 星香は、大きなため息をついていた。

 うん、誰か止めよう?ね?


 しばらくして、満足した二人は何事もなかったように魔族から戦利品を集める。

 魔法袋にポイポイ放り込んで、再びさらなる奥へ出発するのだった。



「くそっ! こいつら、魔法が効かないぞ!」


「こっちのデカブツは、剣が通らない!!」


 ここは、地下七階層。

 黒い霧のようなものが充満する中で四人の若者が戦っていた。

 彼らはここまでは、全く苦戦もせずにやって来ていた。

 

 彼達の中には、『自動製図オートマッピング』のスキルを持っている者がいる。

 そのおかげで、道を確認せずにただひたすら突き進むことが出来た。

 一度通った道だけでなく、その周りも記録されるので、帰り道の心配がないだけでなく隠し部屋とかが分かってしまう便利なスキルだ。


 ここまでは駆け足にやってきたのだ。

 他に冒険者がいるわけも無い。

 だから一番に出会ってしまった。


「あれは、なんだ?」


 蠢く壁。

 作られていく天井と床。

 そしてそれを真っ黒なナニカが生み出している。


「これは、ダンジョンが作られている!?」


 思わず大きな声を上げる男。

 その声にその、黒いナニカが反応した。


「ジャマスルナ、キエロ」


 ナニカが手のようなものを突き出し、そこから何かを産み落とした。

 そう、産まれたのだ。

 それは直ぐに大きくなり、一つ目だけの二体の巨人となったのだ。


「くそっ!くそっ!! こんなの聞いてねぇよ!?」


「泣く暇あったら、手を動かせ! 気を抜いたら死ぬぞ?!」


 坂本と須崎、そして一緒に来た藤村と武藤は絶望的な状況の中、諦める訳にはいかない。

 諦めるイコール死だ。

 自分たちは今ダンジョンが出来る所を見ているのだ、自分たちよりも先に来ている者はいない。


 ──だから、目の前にいる敵を倒せるのは自分達だけなのだと知っていたから。


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