第38話 シドンの依頼
「何を驚いておる。ダンジョン制圧は勇者の仕事だと相場が決まっておる。
それにだ、どうせこの鉱石を製鉄するには数日かかる。
これ以上持ってきても、ワシの工房だけでは捌き切れんからな?」
確かに、これ以上掘っても溶かせる量が決まっているなら意味がない。
滞在予定も長くて一週間を考えているので、これ以上は無意味になる。
鉱石だけ持ち帰っても、町にもハーフリングの村にも溶かせる場所がないから意味がないんだ。
「えーと、星香どうする?」
「え、なぜ私に聞くのですか?!」
「こういう決め事は得意だろう」
副委員長こと星香は、いつも的を得た意見をしてくれるからな。
大人の俺よりもしっかりしているなと思うくらいだし。
ここは彼女に委ねよう!
「それを言うなら、一番の年長者である川西さんが決めてください」
「おまっ、こういう時だけ歳の事を出すのは卑怯だぞ!」
まさかのリターン!?
いやいや、俺は諦めないよ。
「リューマが決めるなら、私は文句ない」
あれ、ミィヤも。
「私もオッチャンに任せるー!」
鈴香も。
「ええと、星香がいいなら私もいいわ」
瞳月まで?!
「私も異論ないです」
明日香、お前もか!
いや、そうじゃない。取り敢えず落ち着こう。
正直、ダンジョン攻略とかメンドクサイ。
攻略したらしたで、色々と噂になって面倒に巻き込まれるだろうし。
ここで星香の手柄にした場合、より難易度が高い依頼が来た場合に彼女達が危険な目に遭う。
逆に攻略に失敗した場合はどうだ?
無傷で失敗しましたは、流石に話が通らないので怪我を演出しないといけないかも?
でも、それって何の得が……。
ただここで断ってシドンにヘソを曲げられても困るし。
取り敢えず行くだけ行ってみるか。
「分かったよ。ただあまり大きな期待をしないでくれよ?
正直言うと、俺はダンジョンの攻略とかやったことないからさ」
「ほう、勇者なのにか?」
「いや、俺は勇者じゃないさ。
勇者は若者だけなんだろ? だから、俺は違うのさ」
「確かに、見た感じそこの五人よりは年上だろうが……。
ドワーフのワシから見たら、ニンゲンはどれも一緒に見えるからな。
まぁ、分かった。
取り敢えず、調査をしてくれ。
まだまともな調査がされなくてな、村の連中が仕事にいけないのじゃよ」
そういやそうだったな。
ダンジョンのせいで、鉱石を掘れない人が沢山いるんだった。
そのせいで町にも金属類が足りなくて、俺がわざわざ掘りに来たんだったな。
「わかった。調査でいいなら受けるよ。
行けるところまでは行ってくるけど、命の危険を感じたら帰ってくるから」
「ああ、鉄の為に死ねとは言わんよ。
その代わり、タダで溶鉱してやるから頑張ってな」
そう言って見送られる形で外に出された。
まだ昼前か。
それならこれから潜るのも可能だな。
「結局行くんですか?」
「そうだなぁ。まずはどんなダンジョンか調べてみよう。
放っておいても、結局被害が出たら後々困るからな」
向かう途中、鍛冶屋が困っているという話を聞かせる。
そして、このまま悪化すると調理器具の調達が難しくなり、ケーキ屋にも影響するかもと話をすると目の色を変えてやる気を見せてくれた。
やっぱ、スイーツは最強だな。
「ねぇ、星香。ケーキってなんの話ですか?」
「え、星香と鈴香。ケーキ食べたの!?
ずるい、うらやましー!!」
瞳月と明日香が、ものすごい勢いで食らいついた。
隠しても仕方ないので、俺がケーキ屋をやる話をする。
「なんと、そんな大事なミッションだったのですね」
「これは、やらないとですね! そして、帰ったらケーキ……!」
うん、もうケーキで頭一杯だね。
お菓子やタルトなどはあるとはいえ、高級品扱いだ。
それでもお金を出したら食べれるわけだ。
しかし、ケーキは違う。
どうやら王宮でも見たことが無いらしく、レシピ自体がないのかもしれない。
カスタードらしきものはあるけど、生クリームが出てこないとか。
「じゃあ、発想は悪く無かったかもな」
「さすがリューマは天才」
「うんミィヤ、流石にそれは褒め過ぎだ」
いつも俺を肯定するミィヤの存在は嬉しいが、目の前に本物の秀才たちがいるから素直に受け取れない。
「でも、こんな世界でケーキを作ろうとか考えれるのは川西さんくらいですわ」
「確かにー。私達なんか毎日戦う事しか考えてなかったもんね~。うん、オッチャン天才!」
「鈴香まで…、そんなにおだてるなよ!
仕方ない分かったよ、ちゃんと帰ったら全員ケーキ食べさせてやるから」
「やったー!!」
ったく、現金な子だな。
何気に瞳月達も喜んでいるし、まぁいいか。
楽しみはあった方が頑張れるってもんだ。
──しかし、ダンジョンへ俺達が向かう事で予期せぬ事件に巻き込まれるとはこの時は誰も思ってもいなかったのだった。
「おい、川西らしきヤツがこの村に来ているって本当だろうな」
「ああ、間違いないぜ。しかも女を五人も連れているって話だ」
「くそ、いい気になりやがって! こうなったら、俺らが先にダンジョンを攻略して、アイツらにどっちと一緒にいるのがいいのか見せてやろうぜ!」
「いいねぇ。これで星香も瞳月も俺のもんだ! あはははっ!!」
子供じみた発想と、邪な気持ちでダンジョンへ向かう一行。
それはリューマを追いかけて鉱山へ来た坂本達である。
彼らは瞳月達を手籠めにしようと画策したものの失敗した。
しかし目的地は変わらない筈なので、予定通り鉱山へ来たのだった。
ついて早々ダンジョンが出来た事を知り、何度か潜っていたのだ。
運がいいのか悪いのか、リューマ達とは遭遇する事がなかったが、休憩しに酒場に来たところでリューマ達の話を聞くことが出来たのだ。
「Bランク冒険者を圧倒したとか、どこまで本当なんだか」
「どうせ鈴香や瞳月がやったんだろう? あのおっさんがそこまでやれる筈がないさ」
未だにリューマの実力を知らない坂本達は、その話を眉唾物だと思っていた。
だからこそ、彼を警戒などしていない。
それに星香や鈴香も、あのおっさんが何か変なスキルで騙しているんじゃないかと思い込んでいた。
「目の前で叩きのめせばきっと目が覚めるさ。まずは、俺らがカッコよくダンジョン制覇するのを見せてやろうぜ!」
「おー!」
坂本と須崎、そして一緒に来た藤村と武藤がまやかしの正義を胸にダンジョンへ再び入っていくのだった。
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