第36話 初めての採掘

 英気を養い、しっかりと休息をとった翌日。

 朝はみんなで食堂で出されたご飯を食べて、着替えが済んでから鉱山へ向かうことになった。


 目的は当然鉱石を手に入れることだが、今では奥にダンジョンができてしまった為、冒険者がかなりやって来ているらしい。


 それにダンジョンから魔物が出てくるので、鉱夫たちも安心して掘ることが出来ないみたいで、採掘している人はあまりいないみたいだ。


「なるほど、だから鉱石が少ないのか……」


「悪いが、入坑料は変えられない。まぁ、今じゃダンジョン目当ての冒険者から払われるこれだけが収入源みたいなもんさ」


 と、坑道の入口を管理している兵士が愚痴ってきた。ダンジョンから持ち帰った物は徴収出来ないらしく、純粋に収益が減っているのだとか。


「せめて、ダンジョンが攻略されちまえば安心出来るんだが」


「それはなんでだ?」


「知らないのか? ダンジョンは奥にいるダンジョンの主を倒せば、次の主が現れるまで魔物が生まれなくなるんだ。そうしたら、また鉱夫たちが働けるだろ?」


「なるほど、そういうことなのか。それは早く攻略されるといいな」


「ああ、本当だよ」


 疲れたように呟く兵士に、人数分の入坑料を一人銀貨一枚払い、中に入った。

 入る前にその兵士から、坑内のマップを渡された。

 鉱石がまだ多量に採掘できている場所や、ダンジョンの入口がある場所。さらにはもう採掘が見込めない場所など細かく描いてある。


 入坑料はあくまで管理のために貰っているが、ちゃんと採掘して鉱石を納めてくれた方が利益になるので、しっかり掘ってこいだってさ。



「中はひんやりしていますね」


「中暗いねー。コウモリとか出てきそうだよ!」


「もう、鈴香。やめてよそういうの! 本当に出てきそうじゃん」


「もう、皆さんもう少し静かに。魔物が出るかもしれないんですからね」


 こうやって見ると、普通の女子学生達だよな。

 こんな、シチュエーションじゃなきゃまるで修学旅行できたようにも見える。

 違うのは、各自ツルハシを持っているくらいか?


 本当ならヘルメットが欲しいところなんだけど、そんなものは無いと言われてしまった。

 鉄で作ったヘルメットならありそうだけど、当然高価なので普通の鉱夫には買えない。

 まぁ、ステータスが守ってくれると信じることにしよう。


 地図に描かれた採掘場所までは、時間こそかかったがスムーズだった。

 ダンジョンから魔物が出てきていると聞いたのに、一匹も会わなかったよ。

 唯一出会ったのは……。


 キィキィッ!!


「にゃーっ!! やっぱ出たーー!?!」

「ちょっと、瞳月! キャラ変わってない??」

「あははははっ! なんか、日本のコウモリよりも大っきいねー!」

「あれはスズメ程度の大きさみたいですからね。これは……、ニワトリより大きいかも」

「鈴香が変なこと言うから、出てきちゃうんだよ!」

「えー、そんなぁ。でも、この大きさはちょっと可愛くないねー」


 キィキィ、ギィギィ騒いでいる大きなコウモリ、……うんオオコウモリと名付けよう。オオコウモリが天井にワサワサいるわけだが、その下でわ〜きゃー騒いでいる女子四人。

 ミィヤですら、呆れた顔で眺めているくらい緊張感がないな。


「あー、言い忘れていた。そのコウモリは吸血性で血を吸われたら病気になる。気をつけてね」


 そして、サラッと恐ろしい事実を伝えてきた。


「「えっ?!」」


 それを聞いて、すすーっと後ろに下がる四人はそのまま俺の後ろに隠れて、グイグイっと俺を前へ押す。

 おいおい、自分達が嫌だからって俺を盾にするとか酷くないか!?

 しかし、いつもは味方をしてくれるミィヤが止め入ってくれない。

 まさか……。


「リューマ、私もあれはダメなの。お願い、ね?」


 ここ一番の可愛さでウインクを飛ばす。

 可愛いな!

 いや、そうじゃない。

 つまりは、俺が退治しないといけないんだね。


「川西さん、血を吸われて病気になっても私のダンスで治してあげるから!」


 いつの間にかさらに下がった明日香達は、遠くから応援してくれるようだ。

 治せるなら、一緒に退治してくれても良くない?


「はぁ、言っても仕方ないか。

 まー、一応対応策はあるんだけどここでは使えないなぁ


「じゃあ、どうするの?」


「本当は薬を燻煙するのがいいけど、ここで使ったら俺らが窒息するし、薬が薄くなったら逃げてくるだろう? だから、みんなかなり後ろに下がって耳を塞いでくれ」


「え、まさか? そんなので追い払えるの?」


「俺のステータスは、常識から外れているみたいだからな。まー、ものは試しさ」


 俺に言われて、五人とも後ろに下がっていく。

 見えなくなるくらいまで下がると、松明の火でOKの合図を送ってきた。


「さーて、お前たちは俺の敵。

 恨みはないが、駆除させて貰うぞ!」


 まずは、小石を拾ってかなり力を緩めて投げる。

 すると一匹が破裂するように弾け飛んで死んだ。

 それを見た周りのオオコウモリは、ギィィッ!!と警戒音を鳴らしてこちらに襲いかかってきた。


 よし、これで敵と認定されたな。

 じゃあ、いきますか。

 せーの。


「わあああああああああああああああああああっっっっ!!!」


 坑道がビリビリと振動するほど、大きな声を上げる。あまりにも揺れて、坑道が崩落するんじゃないかと心配したくらいだ。しかし、そうにはならずに

オオコウモリ達がボトボトと落ちてきた。

 うん、思ったよりも効果があったな。


「おーい、終わったぞー!」



 遠くで控えていたミィヤ達を呼び、気絶しているオオコウモリ達にみんなでトドメを刺して、鈴香達の魔法袋に放り込んでいった。


「うーん、なんか気分的に嫌かも」


「スズカ、これも売れる素材。我慢して」


 ミィヤが言うには、オオコウモリは魔物ではないが羽や牙が装備につかえるのだとか。

 肉もそのままでは美味しくはないが、珍味として取引されるんだってさ。


「へー、なんでも売れるんだな」


「ここらは動物が少ないから、毒が無い限りは貴重な食材になるの」


「出来れば食べたくはないですわね」


 流石の星香も、少し嫌そうな顔をしていたが、今食べるわけじゃないし我慢して処理してもらう。


 ついでに、辺りがオオコウモリに汚染されているかもしれないので明日香のダンスで清めて貰い、本日の目的である採掘に取り掛かった。


 それから夜が来るまで六人で採掘するのだった。

 

「ふぅ、流石に疲れましたわね」


「あつーい、いっぱい汗かいたー!!」


「レベルが上がって力が高くなっているとはいえ、これはしんどいね」


「だねー、普通の人達はこれを毎日やってるんだよね? なんか、尊敬しちゃうかも」


 明日香がそう言うのもわかる気がする。

 この中でダントツステータスが高い俺でもかなり疲れたからな。

 ミィヤなんかは、もうフラフラになっている。


「リューマ、私はもうダメだ……」


「何、致命傷を負った冒険者みたいな事言ってるんだよ。それに、俺のスキルのおかげでそこまでじゃないだろ?」


 そう、今回はミィヤだけに『平均アベレージ』を使って作業したのだ。

 余りのステータスアップに最初は戸惑っていたが、サクサク掘れるのでかなりのペースで掘っていた。でもその結果、体力が尽きてへばってしまったのだけどね。


「さーて、そろそろ帰ろうか」


「はい、もう魔法袋も一杯ですし丁度いいかと」


「私のもいっぱーい」


 鈴香と星香の魔法袋が満杯になるほど掘ったので、かなりの採掘量の筈だ。

 これなら色んな金属が手に入るだろう。


「明日は製鉄してくれる所へ行こうか」


「分かりました。では戻りましょうか」


 星香と明日の予定とかを打ち合わせながら帰路に着く。さすが、副委員長なだけあって色々と為になる意見を出してくれるので助かるな。


「おう、無事だったか! 少しは掘れたか?」


「ええ、かなり掘れましたよ。納付はどうしますか?」


「ああ、それならあそこの荷台に積んでおいてくれればいい。そこからこちらで選別して、納付分を取り除くからな」


「えーと、載せきらない場合はどうしたら?」


「はぁっ?! そんなに持ってないだろ……って、魔法袋持ってんのか? いいねぇ、冒険者はそういうの持てて。まぁ、あれを超えるだけ採ってくる奴はそうそう居ないから、その分は対象外ってのが暗黙のルールだ。気にしなくていいぞ」


「分かりました、では一杯になるまで積んでおきますね」


 そう言って、魔法袋から次々に取り出して載せる。あっという間に小さな山が出来て、荷台が潰れるからと途中で止められた。


 納付は明日の朝に検査するらしく、それが終わったら引取りに来てくれと言われた。


「うーん、腹減ったな」


「うんうん、早くご飯に行こ!」


「さんせーい! 行きましょう!」


 こうして採掘一日目が無事に終わる。

 その後は、食堂で美味しい食事と酒で癒されるのであった。


 そしてその後は……。


「うーん、やっぱり温泉は気持ちのいい」


「ああ、最高だよな」


「でも、最高の癒しはリューマの肌」


「うお、どこ触ってる?! おおう!?ま、まて!」


 やはり、その日も温泉は熱かった。

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