第35話 鉱山の村ドワンゴ②

「!!?」


「はぁ? もっとマシな嘘を付けよ。

 そんなやつ、勇者でもいないぜ?

 どうやらレベルだけじゃなく、知能も低いらしいな」


 ガハハと笑いつつ、呆れる冒険者達とは対照的に、瞳月と明日香は驚愕していた。

 あ、そういや二人には教えてなかったか。


「嘘ではないんだけどな。というか、そろそろ飯が来るから帰ってくれ。正直鬱陶しい」


「おいてめー。大人しくしていれば怪我しないで済んだものを、まずはてめーをぶちのめして、オンナは貰っていくぞ」


「はぁ……。せっかく美味しいご飯が食べれると聞いて来たのに、せっかくの夕食時間が台無しだ。

 悪いことは言わない、このまま大人しく帰ってくれないか、筋肉ゴリラ野郎?」


 俺の安い挑発に、あっさりと乗せられる冒険者リーダー。

 俺の首根っこ掴んで、グイッと引き上げる。

 ふむ、どうやらこれは攻撃にカウントされないんだな。

 抵抗する間もなく持ち上げられて、椅子から引きずり出され、顔を近づけてきた。


「おめー。今なんつった?」


 男がシャランと剣を抜き、俺に突きつけてきた。

 後ろで、あいつ死んだなとか、今夜はオンナが選り取りみどりとか勝手を言ってくれてる。


「なんだ、見た目の事言われて怒っているのか?」


 こっちは楽しい食事の時間を邪魔されて、けっこう頭にきているんだ。

 少し痛い目に合わせても文句はあるまい。


「なんだと、女の前だからってカッコつけんなよ? ビビってないで、お前も武器を構えな!」


「いやいや、お前なんてこの人差し指一本で倒せるよ」


「リューマダメっ!」


 そこで予想もしない人物が止めに入った。

 そう、ミィヤだ。

 まさか、俺ではコイツに勝てない何があるのか?!


「人差し指なんてダメ! 人差し指で戦ったら……」


「ほらっ、お前の彼女は立場を分かっているみたいだぞ?」


「この男が爆散して、店が汚れる!

 せめて、小指にして!」


「はああぁっ!? 舐めんのもいい加減にしろよ?

 オッサン共々死に晒せ!!」


「なるほど分かったよミィヤ。

 それでいく! せーの、ていっ!」


 男が剣を振りかぶるより先に動き、小指でピンとデコを弾いてやった。

 相手は完全に殺意をもって攻撃していた。という事は、ステータスさんは反応してくれる。だから、それに反撃した俺の攻撃は……。


「ブベラァッ!?!」


 ドン、ガラガラガラ、ガッシャーン!!!


 後ろにあった、彼達が使っていたであろうテーブルごと盛大に吹き飛び、すべて粉々にしてしまった。

 吹き飛ばされた男に巻き添いをくらい、取り巻きたちも同じく吹き飛んだ。


 その結果……。


「あ、全員泡吹いて気絶してるね」


「なーむー」


「自業自得ね」


「死ねばいいのに!」


「うん、リューマよく我慢したね、えらいえらい」


 と、彼らを心配する者など誰もいなかった。

 そして次の瞬間。

 わーーーっ!!と歓声と拍手が巻き起こる。

 中には彼らにざまーみろとか、怨嗟の言葉をかけているものも。

 どうやら嫌われ者だったみたいだね、ご愁傷さま。


「ちょっとー、いくら絡まれたからって店を壊すのは困るなー」


「あ、ウルナさん」


 すると、まわりの客達が『あいつらが先に手を出したんだよ女将さん』とか言って弁護してくれている。

 ん、女将さん?


「はぁー、それならしゃーないか。生きてるみたいだし、あいつらに弁償させるよ」


「てか、女将さんって?」


「ああ、食堂兼酒場は私の旦那がオーナーなんだ。だから、こっちでは私は女将さんって呼ばれているんだ。折角だから、いっぱい食べていってよね?」


「なるほどな、じゃあ遠慮なくそうさせてもらうよ」


 その後はまさにどんちゃん騒ぎだった。

 聞けば、あの冒険者たちは自分がレベルが高いのをいいことにかなりの横暴を働いていたらしい。

 被害にあった他の冒険者や、地元の鉱夫たちも手を焼いていたみたいだ。


 また女癖が悪く、気に入った女を付け回しては暴行を働いたらしいが、敵うものがおらずに泣き寝入り状態だったのだそうだ。


 そこに急に現れたオッサンが完全にのしたので、みんなお祭りかってくらいに盛り上がった。

 ちなみにさっきの冒険者四人は手錠と足枷を嵌められて、衛兵に連れていかれて牢屋にぶちこまれたってさ。


 流石に手足を縛られれば、レベルが高くても反抗は出来ないみたいだし、しばらくは安心だろう。



 美味しいご飯と酒を飲んだので、気分よく部屋に戻った。

 鈴香達四人は先に風呂に入るというので、俺は後からゆっくり入る予定だ。

 絶対に覗かないでくださいねとか言われたけど、体は大人に近いとはいえまだ高校生である子供の裸を覗く趣味はない。

 決して、ミィヤが怖いからとかそういうんじゃないからね?


 ちなみに、そのミィヤがなぜ彼女達と一緒に風呂へ入らなかったのかというと。


「夫婦なら一緒が当たり前」


 ということらしい。

 いや、まだ婚約したばっかりだけどね。

 んー、細かいことはいいか。

 ミィヤと入れるのは嬉しいからね。

 ほら、なんせミィヤは大人だからね?


「リューマ、何をニヤけてる?

 まさか、四人の裸を想像してる?!」


「おいおい、何言ってるんだ? 目の前にこんな可愛い嫁さんがいるのに、他に目がいくわけないだろ。

 これから一緒に入るのが楽しみでニヤケてただけさ」


「もう、スケベ。でも、そういうリューマも嫌いじゃないよ」


 四人がいないのをいいことに、イチャイチャしながらキスをする。

 酒が入っているせいでブレーキが外れているかも。

 ただ流石にいつ戻ってくるか分からないので、それ以上はしなかったが、お互いの温もりを楽しみつつゆっくりとするのだった。



「わぁ、オッチャンも男の人なんだね」


「コラ、覗きはダメですわよ?」


「そういう星香ちゃんも、覗いてるじゃん」


「なんかドキドキするね!」


「ねぇねぇ、早く部屋に戻らないと湯冷めしちゃうよ~」


 

 ん、あ。

 もう戻ってきていたか。


「……、さて風呂に入ろうか?」


「ん。戻ってきたなら声を掛ければ良いのに。

 じゃあ、リューマ行こう?」


 思いっきり、目線があって四人とも赤面して俯いているうちに、俺とミィヤは風呂に向かうのだった。


 風呂はどうだったかって?

 温泉は最高でしたね!とても気持ち良かった。

 そして、もちろんミィヤも最高でした!


 こうして、鉱山の村での慌ただしい夜が終わるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る