第33話 鉱山へ④

 突然誘拐疑惑を突きつけられて、混乱する俺達。

 というか、攫われたという本人すら困惑している。


「瞳月、何を言っているの?」


「坂本達が教えてくれたわ。貴方達を攫って鉱山へ向かったらしいと。

 一緒に助けに行こうと言われたけど、いても立ってもいられなくて先に飛び出して来たのよ!

 でも、こんなに強いだなんて……」


「お、お願い川西さん! 星香と鈴香を返してください!」


「えっと……。そんなこと言われてもなぁ……」


 そもそも、その坂本から逃げるために俺らに付いてきたんだけどね。

 なるほど、今度は星香と鈴香をダシにして、瞳月を引き込もうとしたのか。

 でも、あっさりと作戦は失敗したわけか。俺から見てもダサい奴らだな。


「落ち着いてシズク。私達は攫われていないわ。むしろ、川西さんに保護してもらっているの」


「そーだよ、シズクちゃん! オッチャンは優しいから私達を守ってくれているんだよ」


「え、どういう事なの?」


 当の鈴香と星香に諭され、俺が誘拐犯じゃないと理解してくれたようだ。

 そうなると、誰が元凶か。


「もしかして、私達は坂本に嵌められた?」


「え、なんのメリットがあってそんな事を……」


 何が何だか分からないという顔をしながらも、必死に頭を回転させる二人。

 頭が良い奴ほど、こういう時に頭が回らなかったりする。いや、認めたくないだけかもしれない。

 なぜなら、それはクラスメイトを疑う事になるからだ。


「落ち着いて聞いて、私達がなぜ川西さんに保護してもらっているか……」


 そこで星香が、瞳月に対して町での出来事を話し始めた。

 最近、ダンジョンに行かなくなった響子ちゃん抜きでダンジョン攻略を誘われて断ったこと。

 その時に邪な考えをしていると見抜き、逃げてきた先が俺だったというところまで。


「うそっ! じゃあ、用務員さんは誘拐犯じゃなくて星香と鈴香を守ってるいい人?」


「そうよ、明日香。むしろ、注意すべきなのは坂本達だわ。しばらく彼等には注意した方がよいわよ」


「分かったよ。星香がそう言うなら、本当なんだね。騙されていたなんて、悔しいっ! あ、用務員さんごめんなさい!」


 どうやら、誤解は解けたようだな。

 危うく二人に危害を加えそうになったが、大事にならなくて良かった。


「手加減したけど、背中大丈夫か?」


「はい、正直に言うと結構痛かったですけど、これくらいなら平気です。こちらから仕掛けたし、気にしないで下さい」


 そういいつつ、少し顔をしかめる瞳月。

 受け身取れてなかったし、そりゃぁ痛いよね……。


「そうか。回復魔法でも使えれば治してあげるんだけどな」


「あ、それなら私がやります! いきますよー!」


 すると、急に明日香がバトンのようなものを手にして踊りだす。

 何をするつもりかと見守っていると、彼女の周りに光が集めり始める。


「これは一体……」


「リューマ、彼女の周りに光の精霊が集まっている」


「光の精霊?」


「うん。光の精霊は治癒の力もあるから、これだけ集まれば……」


「『妖精の舞踏フェアリーステップ 』!!」


 明日香の舞に合わせて、光の妖精が瞳月の周りを踊りだし、眩く光り輝いた。

 するとさっきまで顔を顰めていた瞳月の表情が和らいだ。


「明日香、ありがとう。すっかり痛みが消えたわ」


「本当? ちゃんと効果が出て良かったー!」


「それってどのくらい効果があるんだ?」


 踊って精霊呼び寄せて、そこから回復とか戦闘中には使えなさそうだ。

 だから、それなりに効果がないと割に合わなそう。


「うーん、あんまり試したこと無いけど大抵の傷なら治るって言ってた」


「言ってたって、誰が?」


「え? この妖精さん達だよ!」


 妖精さんって、ああ光の精霊のことか? 俺には光の玉にしか見えないけど明日香には妖精に見えるか。

 てことは、精霊と会話が出来るのか?

 いいな、まさにファンタジーっぽい能力じゃないか。

 俺なんか、呪いのような特性がそのままスキルになったようなもんだからな。

 方向音痴までスキルになってなくてよかったよ。


「いいな、その妖精と会話が出来るのか。ちなみに他にはどんな効果あるんだ?」


「ええと……、毒とか病気とかも治せるって言ってる。私のレベルが上がれば呪いとかも解除出来るみたいだよ」


「それは凄いな。踊りで発動するのを考えるとシャーマンみたいだな」


「うんうん、まさに今のジョブはシャーマンだよ」


 え、ジョブってことは職業だよな?

 俺は相変わらず用務員のままなんだけど……。

 なにかの条件で変わるんだろうか?


「それはそうと川西さん……」


 そこで何故か悲しそうな顔で俺の方を見る瞳月。

 なんだ、俺がなにかしたか?


 そう思って見つめ返すと、少し恥ずかしそうにこう言うのだった。


「もう、ご飯ないですか?」


「あ……」


 鍋の中は既に空っぽ。

 それを見て、悲しそうな顔をしてしていたのか。


「何も食べてないのか?」


「うん、二人のことを聞いてそのまま飛び出して来ちゃって、実は今日何も食べてないのよぅ」


 さっきまで緊張状態で忘れていた空腹感を、ほっとしたことで思い出してしまったんだろう。

 いくらレベル上げてもこればっかりはどうしようもないものな。


「川西さん、二人になにか食べさせて上げれませんか?」


「うーん、作ればあるよ。でも鍋を洗わんとな……」


 その時、ガサガサッと茂みで音がした。

 一瞬また襲撃者が来たのかと身構えたが、そこに現れたのは小さなイノシシだった。


 ちょうどいいや、コイツにしよう。

 思い立ったが吉日。直ぐに小石を拾ってその脳天目掛けて軽く投げた。


 ピギャッ!

 ドサッ。


 よし、相変わらず命中補正がいい働きをしている。

 ステータス様様だな。


「凄い、今のなんですか。魔法?」


「え?石を投げたんだけど」


「は?」


「え?」


「リューマはいい加減、自分がおかしい程強いことを自覚した方がいい」


「同感ですわ。やっぱりダンジョンでやたら魔獣がバタバタ死んでいたのは、川西さんが倒してたからなんですね」


「うそー?!」


 クールビューティな瞳月が思わず叫びたくなるほど、俺の能力は異常みたいだな。

 星香は一緒に戦ってたから見ていたので知ってたみたいだけど、二人は見てないからな。


 何にせよ、食材は確保したし、手っ取り早く焼肉にして食べようか。


「いただきまーす!!」


 その後二回目の食事にも関わらず、みんなで焼いた肉をお腹がはち切れそうになるまで食べたのだった。


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