第32話 鉱山へ③
ひとまず、二人も馬車に乗せて鉱山へ向けて出発した。
門番には、方向が一緒なので途中まで送るんだよと適当に誤魔化してすり抜ける。
何気に俺の顔を覚えていたらしく、『しっかり勇者様たちを送り届けるんだぞ、頼んだ!』と言われたよ。
しかし、いくら勇者扱いとはいえ生徒たち全員の顔を覚えているんだろうか?
しかし、俺の疑問はあっさり解決された。
「この制服着ていると、あっさりバレちゃうねー」
「そうね。他の服を着たいけど魔法抵抗がかなり下がっちゃうから、なかなか脱げないのよね」
ため息つきながらも、仕方ないとあきらめ顔の星香。
「なんだ、学生の制服ってそんな効果があったのか?!」
「え? ああ、そういえば川西さんはいつものツナギじゃないですよね? 無くしたんですか?」
「いや、超汚れたから洗ってから預かって貰っているよ」
「なるほど、そうだったんですね。しかし、それなら仕方ないですね……。実は、あちらの世界から持ってきたものには魔法が掛かっているんですよ?」
な、なんだと!?
そんなの初耳なんですが?
いや、それもそうか。
俺はずっと一人だったし、すぐに王都を追い出されたし。いや投げ捨てられたとも言うが。
そんな事はどうでもいい。
それよりも、あっちから持ってきたものは魔法が掛かっているだと?
うーん、ツナギ以外に何も無かったから全く分からんな。
「そうすると、着替えとかはどうしているんだ?」
「冒険に出ない日は、こちらの世界の服を着ていますよ? 流石に下着とかだけ替えても、洗わないと気持ちが悪いですから」
「そうだよねー! ダンジョンに篭った後とか汗くさくて最悪だよねぇ」
女子にはキツい現実だよな。
男子なら慣れてしまえばいいけど、女子はそういう訳にはいけない。
トイレとかどうしてたんだろ?マジで死活問題だと思うのだが。
「リューマ、真剣に考え込んでどうした?」
「え、いやー。言いにくい事を聞いちゃうけど、女子はトイレとかダンジョン内ではどうしていたんだ?」
「えーとね……。それは魔法薬使えば一週間はトイレいかなくても平気になるんだよ!」
「えええっ!? 体に悪くないか?」
「魔法薬なので、そこは大丈夫みたいです。ただ、どうしてもしたい人がいる時は、女子でバリケード作ってました」
「なるほど…。そりゃお互いに大変だったな」
いくら仲がいい友達でも、近くてトイレするとかなんの罰ゲームだってはなしだよね。
「それで、その魔法薬はまだあるのか?」
「いえ……。それなりに貴重な薬らしく、毎回出発時にしか買えないんですよ」
「うーん、そうなのか。どっちにしろミィヤがいるから、トイレ休憩とかちゃんと取るからちゃんと言うんだぞ? あ、俺に言いづらかったらミィヤに言ってくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
「はーい!」
さてと、気になってた事は聞いたし後は目的地に進むだけだな。
こういう話は遠慮すると、ややこしくなるからささっと済ませるに限る。
町を出てから数時間もすると、日が落ちてあたりが暗くなってきた。
もう少し行けば、馬車が停めれる広場があったはず。
ここらはまだ魔物が強くないので、夜にキャンプするならそこがいい。
「道沿いにもう少し行けば、野営出来る場所がある。そこで今晩は休むからなー」
「はーい!」
「分かりましたわ」
野営所に到着し、早速準備に取り掛かる。
まずはテントの設営だな。
馬車を背にテントを張って、風の影響を抑える。
馬たちは少し離した所に杭をうち、そこに手網を括りつけた。
そこに水がたっぷり入った桶と飼葉を用意しておく。
次は自分たちの飯だな。
焚き火を起こし、そこに木を組んで鍋を乗せてお湯を沸かす。
適当に切った野菜と肉とオートミールをぶち込んで塩で味を整える。
味見をしてみる。うん、こんなもんか。
「取り敢えず、適当に作ったけど食べてくれ」
元の世界ではずっと一人暮しだったせいで、ある程度の料理は出来る。
しかし人に食べさせることなんてなかったから、ちょっと不安だったが……。
「!! おいしーい!」
「まぁ! 素朴な味ですけど、ちょうどよい塩味で食べやすいですね」
「リューマの料理は、いつも美味しい。さすが私の旦那様」
うん、なかなか好評なようで良かった。
さて、俺も食べてしまおうか。
あっという間に平らげてしまい、鍋はすっからかんになった。
まだまだ成長期なのか、鈴香は三杯もおかわりして満足そうにお腹をさすっている。
女の子としてその仕草はどえかと思うが、俺に気を許してくれていると思っておくか。
一息ついて、温めた白湯を飲で体を温めていると、何かが迫ってくる気配を感じた。
別にそういうスキルとかあるわけじゃないけど、ステータスが高いからか感知する能力もあがっているのかも?
一人中腰になり、身構えていると茂みから何かが飛び出してきた。
「危ない!」
咄嗟にみんなを庇う形で前に出て、拳を前に繰り出す。
しかし、焚き火の明かりに照らされた顔を見てすんでのところでそれを止めた。
「セイカをかえせーっ!!」
「えっ!? まさかシズク?!」
俺が寸止めした事で相手はその手に持ったナイフを俺に切りつけてきた。
慌ててナイフを握った手首を掴み、軽く放り投げた。
「きゃあっ?!」
「シズク!」
そこでシズクを追いかけてきたのか、もう一人が茂みから現れて尻もち着く形で倒れているシズクに駆け寄る人物が姿を見せる。
この子は確か、天堂 明日香(アスカ)だったかな。
倒れているシズクこと、加藤 瞳月の友人だったか?
「うぐぅっ……」
倒れて呻くシズクを抱えながら、キッと俺を睨む明日香。
そんな顔をされる覚えはないので頭にハテナを浮かべていると、さらに覚えの無いことを言われるのだった。
「川西さん、なんでセイカ達を攫ったんですかっ!? 貴方はそんな人じゃないと思ってたのにっ!!」
「へ? はあああっ?!」
一体なんの話だ?!
夜の森に俺の絶叫が木霊するのだった。
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