第31話 鉱山へ②

 ミィヤと一緒に馬車を取りに宿屋へ向かって歩いていると、駆けてきた鈴香と星香に遭遇した。

 息を切らして走ってきたけど、何事だ?


「あ、オッチャン!」


「こ、こんにちわ、川西さん…、はあっ、はあっ…」


「お、おう。まずは落ち着いて息を整えてからにしようか」


 落ち着いてもらうために、持ってきていた水筒を差し出す。

 星香が先に一口飲み、そのあと鈴香が残りを一気に飲み干した。

 それを見て星香が少し悲しそうにしていたので、予備の水筒を渡すとはにかんで『ありがとう』と感謝され、ドキッとしたがミィヤが隣にいたので顔を崩さないように必死だった。


「で、どうしたんだそんなに慌てて」


「えっとね、坂本に絡まれて、お前たちがいないからダンジョンに行けないとかイチャモンつけてきたから、自分たちで勝手に行ってろって言って逃げてきた」


「なんのこっちゃ?!」


「あ、えーとですね」


 鈴香の大雑把な説明で混乱していると、星香が慌てて詳しく説明してくれた。

 概ねはあっていたが、色々と端折りすぎていた分からなかったところも細かく説明してくれた。


「なるほどな……。響子ちゃんが俺らの手伝いしているから、ダンジョンに行けないと言っているのか。しかも、お前たちも俺らの手伝いでいないから、戦力が足りなくて動けないってところか」


 星香はサポートが上手だし、鈴香は戦闘力と機動力が抜群に高い。

 その二人がいないと戦力ダウンだけど、だからって他のメンバーいれば事は足りるだろう?

 なんで、この二人に拘るんだ??


「リューマは相変わらず鈍い。その男二人は、この二人が女だから逃したくないだけ」


「ええっ?! そんな理由でか?」


 いや確かに二人とも可愛いけどね。

 鈴香は元気いっぱいで誰にでも分け隔てなく接するのでとても人気がある。

 バスケ特待生だけあり、インターハイなどにも出ており、もちろんレギュラーでエースだ。

 女子からは絶大な人気を誇り、バレンタインにはチョコを沢山抱えていた。

 なぜか俺の用務員室に来て、こっそり半分こにして分けてくれていた。

 あの時は本当にありがとう。

 俺はそれでしかバレンタインチョコ食べたこと無かったよ。


 もちろん容姿も整っていて、この歳にしては胸もあるので男子にもかなり人気があるそうだ。


 片や星香はマジのお嬢様。

 武器もって戦う姿は普段の星香なら想像もつかない。

 容姿端麗、才色兼備。

 さらには、薙刀部と弓道部に所属しているほど武道にも精通している。

 同じ弓道部の部長の加藤 瞳月(シズク)とも仲が良く二人で大会出場している。

 一時は令和撫子現るとかで、連日取材が来ていたよ。カメラに群がる生徒たちを抑えるのは大変だったよ。


 今考えたら警備員がいるのに、用務員の俺がなぜそんな事しないといけなかったのか謎だが。

 まさか、俺に押し付けたのかあいつら!!


 ふー、そんな過去の事はどうでも良いか。


 そんな訳で鈴香と星香は、クラス内だけでなく学校中の生徒から憧れの対象として注目の的であった。


 そんな二人を誰の監視も届かないダンジョンに連れていくとか、恋愛経験が薄弱な俺でもわかるな。

 確かに危険かぁ。


「んー、でも男だから危険っていうのなら、自分で言うのもなんだけど俺も危険だと思わないのか?

 二人はおっさんの俺から見ても、素敵な女性だと思うぞ?」


 少女趣味はないけど、高校生ともなるとほぼ大人と体格は変わらない。

 昔は15歳で大人と言われていたくらいだし。このくらいの歳なら、大人の男も寄ってくるだろう。


「えへへ、ありがとうオッチャン!」


「うん、褒めてはいるけど反応するところはそこじゃないぞ」


「うへ? ん、あー大丈夫!

 オッチャンは信用しているよ!

 唯一あの学校の大人で、私を私として見てくれた人だし」


「んん? どういう意味だ?」


「相変わらず鈴香は説明が下手ですわね……。

 つまりあの学校の大人は特待生として、もしくは好色の目でしか私たちを見てないんです。

 だから、純粋に個人として対等に接してくれる人は少なかったんですよ」


「あー、なるほどな。

 まぁ、俺は先生じゃないしなぁ。

 でも、響子ちゃんだって分け隔てなく接しているんじゃないか?」


「んー、キョーコちゃんは先生だからね!」


「そうですわね。響子先生は、生徒と先生の関係を崩しませんから。それは決して悪いことではないと思います。

 でも、そのせいでこちらに来てからは苦しそうな顔ばかりしていますね」


 そうだったのか。

 結構苦労を背負うタイプっぽいものなぁ。

 ダンジョン内は生徒たちが命令に逆らえないというスキルのおかげで助かっている所もあるだろうな。


 そうじゃなきゃ、今ごろ内部分裂どころか対立して生徒同士で戦うとかありそうだ。


「それで、これからどうするんだ?」


「そうですわね……。

 しばらく匿ってくれませんか?」


「んー、どうするミィヤ」


「キョーコに預けるでは駄目なのか?」


 本来ならそうすべきだが、これ以上負担を掛けるのもなぁ。しょうがない、取り敢えず一旦は連れていくか。


「今、響子ちゃんに預けても問題が大きくなるだけだし、保留しておこう。

 取り敢えず、俺らは鉱山に向かう予定だけどついてくるか?」


「いいの?! やったー、ついて行く!」


 鈴香がフライング気味に返答してきたので、星香の方を見るとコクリと頷く。


「はい、是非ご一緒させてください。

 川西さんの実力はご存知ですし、私達も戦えますから」


 すると、腰の巾着みたいのからするりと薙刀を取り出した。


「え、えぇっ?! 今どっから出した??」


「……なるほど川西さん、持ってないんですね。これはアイテムボックスの魔法が付与された袋です。

 このサイズで100種類のアイテムを入れる事が出来るみたいです」


「マジか!? そんなのどこで手に入れたんだ?」


 そんなのあったら、荷物とか簡単に運べるじゃないか!

 仕入れとか考えたら、是非とも手に入れたいな。


「主にダンジョンで手に入るみたいですが、私たちは王宮から支給されたんですよ」


「くー、ダンジョンかぁ! てか、王宮もそんな貴重なもの良くくれたなぁ」


「ダンジョンから手に入るアイテムを持ち帰るのに必要だからと、勇者の私たち全員にくれたみたいです」


「なるほど……。原理は分からんけど、宝箱とか普通に置いてあったものな。魔物の素材も貴重なんだろうしな」


 俺が救助に行った時も、宝箱出てたからな。

 俺は取らなかったけど、生徒たちが中身を手に入れていた。

 罠とかもあるみたいだから、俺なんかが手を出すと普通に引っかかりそうだ。

 生徒には解除出来る子もいるみたいなので、そういう意味では全員で行くのにも意味があるんだろう。


「たまに魔道具屋に売ってるみたいですが……」


「おおっ! いくらで売ってる?!」


「アイテム50種類分入るくらいで、金貨50枚らしいです……」


 ぐはっ、手持ち足りないぞ!

 しかも、劣化版でだと?!

 これはダンジョンに潜らないといけないな。

 それも運が良くないと手に入らないというし、かなり無理ゲーだな。


「どちらにしろ、今は無理そうだなぁ」


「差し上げたいところですけど、借り物なので差し上げれないのが残念です」


「ああ、いいよいいよ! 気にしないでくれ。大人だし自分で手に入れるから」


 子供に気を使わせる訳にはいかんな。

 なんとか自力で手に入れる事を考えよう。


 頭の中の欲しいものリストに入れておき、出発に向けて準備を始めるのだった。



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