第30話 鉱山へ①
思い立ったが吉日。
響子ちゃんと別れて、鍛冶屋に向かった。
料理長には響子ちゃんから言伝てもらうように頼んだ。
「らっしゃい…、てアンタ達か。どうだい、少しは掘れたか?」
「やぁ店主。それが途中でトラブルに巻き囲まれて辿り着く前に帰ってきたんだ。だから、これからもう一回向かう予定だ」
「そうか…」
「店主、元気ない。どうかした?」
見た目ゴリマッチョな店主が明らかに元気がない。
こいういタイプはいつでも暑苦しく元気でいて欲しいところだ。
しょげているゴリマッチョとか、ちょっと気色悪いし原因を聞いておこう。
「何かあったのか?」
「おおー、聞いてくれるか兄弟!」
「いつから兄弟になった?」
「まー、聞けよ。最近金属の地金の入荷が無くてよ困っているんだ」
「地金っていうと、精錬済みの金属か?」
「そうさ。あれが無いと何も作れんのよ。
……なのに、ここ一ヶ月殆ど入荷しないんだよ」
そういや、前来た時も少しでもいいから採れたら売ってくれと言ってたな。
「前の入荷の時は、いつもより少なかったがそれでもなんとかなったんだ。それが昨日商人がやって来てしばらく入荷出来そうにないと言ってきたんだ」
「一体何があったんだ?」
「それが詳しくは教えてくれなくてな。ただ、鉱山でなにやらトラブルがあったらしいとだけ言ってたんだよ」
「なるほどなぁ……」
他言を憚る内容だと考えると、商会の誰かが鉱山で何かしでかしたか?
まさか犯罪?
流石にそんなわけないか。
「そいじゃあ、掘るついでに聞いてきてやるよ」
「本当か?! 助かるよ。出来れば地金も出来るだけ沢山持ってきてくれ。そうしたら、タダで何か作ってやるぞ!」
おお、マジか。
流石に俺じゃ鍛治は出来ないから助かるな。
よし、そうと決まれば善は急げだ。
「そうだ、ツルハシ持てるだけ持ってけ!」
「え、いいのか?」
「背に腹は変えられん。それだけこっちも切羽詰まってるんだよ」
「分かったよ。じゃあ沢山持ってきてやるよ!」
そこで俺と鍛冶屋の店主は、熱い握手を交わし別れたのだった。
「リューマは運がいい。ツルハシがタダで貰えた」
「そうだな。まー、向こうで何があるか分からない。
だからあんまり気楽なことも言ってられないかもだけどなー」
「リューマがいればなんとかなる」
「えー、それって何かあってもなんとかしろって事だぞ?
まー、モンスターとかが相手なら問題ないかぁ……」
俺の顔を見てうんうん頷くミィヤ。
これだけ信頼されているんだ、頑張らないとだな!
それに早く道具も揃えたいし、すぐに出発しよう。
「それじゃあ、いくか!
「うん!」
そのまま馬車が止めてある宿屋へ向かい、出発の準備をするのだった。
──その頃。
「お前ら、最近こそこそとどこに行っているんだよ?」
「そうだそうだ。キョーコちゃんもいないし、ダンジョンに稼げに行けないだろ!」
男子生徒が二人、女子生徒を捕まえて問い詰めている。
四人は町の人とは違う服装をしていて、明らかに周りから浮いている。
なぜなら、異世界の服を着ているからだ。
「ちょっと、やめてよ坂本!
私たちが何をしようと勝手でしょ?」
「勝手じゃ困るんだよ綾堂。お前たちが勝手をすると、俺らが稼げねーんだよ」
「何を言っているんですか坂本君。そんなに稼ぎたいなら、自分たちだけでダンジョンに行けばよいではないですか? 王宮からはチーム単位でもダンジョン攻略をしても良いと言われている筈です」
「あー、分かった! 先生がいないと怖くて行けないんだ?」
「そ、そんなわけないだろっ! なぁ、トウヤ?」
「そ、そうだぞ! いくらステータスの恩恵が大きいとはいっても、俺が元々強いから戦えるんだ。俺とトシヤがいればモンスターなんか怖くないぞ!」
顔には図星と書いているのに、見苦しくも言い訳をする坂本 俊哉(トシヤ)と須崎 冬弥(トウヤ)。
そんな二人を見て、あからさまな態度で綾堂 鈴香(スズカ)はため息をついた。
隣にいる親友の児玉 星香(セイカ)も、呆れたという顔をしている。
副委員長でもあり、人の気持ちを尊重する彼女にしては珍しいことだ。
「であれば、まずはお二人でクエストを受けてダンジョンに行ったらどうなんですか? 私たちはやることがあるんです。ほっといていただけませんか?」
「なんだとっ!? くそ、俺らが沢山稼いで豪華な暮らしをしても、恵んでやらねーからな!」
「どうぞ、ご勝手に。自分の事は自分でしますので」
「そういうことだから! ばいばいっ!」
「あ、おいっ!」
いうか早いか、鈴香は星香の手を引いて颯爽と走り去っていった。
取り残された俊哉と冬弥は唖然とその場に立ち尽くす。
すぐに我に返ると、こみ上げる怒りを露わに地団太を踏んだ。
「くそっ!くそっ!」
「おい、トシヤ! 周りの人がみてるからやめろよ」
「うるさいうるさい! あれからだ。あのおっさんが現れてから全部狂ったんだ!
あいつさえいなければ……!」
「おいおい、あの用務員は関係ねーだろ。……そういや、役立たずだから追い出されたのに、あいつはなんであそこにいたんだ?」
冬弥はそこでふとリューマがなぜあそこにいたのかを考えた。
戦えないリューマがダンジョンを目指していたとは考えづらい。
助けに来た時も、リューマが戦っているのを見ることが出来なかった。
そういや、聞いたこともない変なスキルを持っているとあの王宮魔導士が言っていたのを思い出した。
「もしかして、支援に特化したスキルだったのか? あの青ローブが知らなかっただけで、実はキョーコちゃん並みの効果があったのか?」
「何ぶつくさ言っているんだよ冬弥。これからどうするんだ?」
サッカーで特待生クラスに入っている俊哉と違い、冬弥は成績のみで特待生クラスに入っている生徒だ。
頭のデキが俊哉とは違う。
だから、おもに作戦を考えたりするのは冬弥の役割になっていた。
何かを思いついたのか、地図を取り出して眺める。
指先でこの町から、ダンジョンのまでの道のりを確認。
そして、近くに何かないかを探していく。
すると……。
「そうか、あの用務員。ここに向かっていたんだな」
冬弥が指をさしている場所。
そこは鉱山がある村、ドワンゴ村であった。
「用務員は、ここを目指していたんだ」
「じゃあ、あいつはここにいるのか?」
帰って来たときには、すでに川西を見かけなくなっていた。
もしかしたら町にいるのかもしれないが、この鉱山に向かっている可能性も高い。
「よし、鉱山のクエストを受けよう。そうすればあいつを見つけれる」
「なんだよ、関係ないって言ってた割には狙う気満々じゃねーか。いいね、お前のそういうと所が好きなんだよ」
「ふん、男のお前に言われてもうれしくないんだよ。女たちを落とすのにあの用務員は邪魔だ。だからやるだけさ」
二人はその顔に邪な思念を浮かべながら、クエストを受けるために冒険者ギルドへ向かうのだった。
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