第29話 開店準備
二日後には契約が終わり、早速開店準備の手伝を始めた。
借りた店舗は老朽化が進み、あちこちが傷んでいる。その修繕作業は自分で手配して直さないといけない。
キッチンなどの設備の入れ替えは専門業者に任せるとして、俺はまず痛みの激しい外装の修繕作業をやることにする。
まぁ、この手の作業って用務員の仕事でもやってたから、お手の物ってわけ。
それプラス、ステータス補正で怪力かってくらい力が強くなったから、ベリベリと外壁の板を剥がすのもあっという間だったよ。
買ってきた新しい板を釘で打ち付けて、その上から塗装する。
防水防腐のためのニスはないので、代わりになる植物性の液をコーティングした。
多分触ったら痒くなったので漆の1種じゃないかな?
漆っていうのは、日本では昔から使われていたが今では高級なお椀くらいにしか使わない。
だから俺も直接触ったことがないので、多分ってだけだよ?
取り敢えず乾かしておいて、その間に内装も済ましておこう。
ケーキ屋だし、内壁の色は白がいいんだけど選べる色が少ないんだよ。
用意したのは、赤と緑と青だ。
どれもモンスターから取れる素材から色を作っているらしいけど、詳しい事は聞くのをやめた。
なんか怖いし。
壁紙とかあればいいけど、そもそもこの世界にはそんな文化がない。
なので直接塗装か、木の色そのままかのどちらかだ。
日本なら、木の色そのままでもオシャレとか言えるけど、殆どの家がそのままな世界だと意味がない。だからこそ、高級店は決まって塗装をする。
「こんなもんか?」
まだ昼前だというのに、作業が終わってしまった。
急に暇なったな。
ミィヤは買い出しに行っててまだ帰ってこないし、どうしたもんか。
そうだ、飯でも作るか。
新しいキッチンは明日に搬入されるので、今は簡単なものしか作れない。
せいぜい、肉の串焼きとかかな?
うーん肝心の肉が・・・・・・。あ、飛んでるな。
あれは食べれると言ってたはず。
大きさが小指の先くらいの小石を拾って、ヒュんッて投げる。
ジュパンッて頭が弾けて、大きな鳥が落ちてきた。
うん、頭を落として絞める手間が省けたな。
どれ、あと二・三羽仕留めておくか。
「あら、リューマさんだけですか?」
「あ、響子ちゃんおかえり。買い出しありがとう」
「いえいえ、とても気晴らしになりました。ミィヤもいないんですか?じゃあ、二人っきりですね」
「ああ、店員の制服を受け取りに行ってるよ。料理長はまだレストランにいるし、鈴香達も買い物から帰ってきてない。……俺と二人だと、困るか?」
こんなオジサンと二人っきりとか、微妙だよな。
早く他の女の子達が帰ってきてくれるといいけど。
そんな事を考えていたら、予想外の言葉が返ってきた。
「いえ、その逆ですよ。普段はミィヤがベッタリくっついているので、中々二人っきりで話す事出来ないですから……」
「そうか、嫌じゃないなら良かった。なんか俺にだけ話したい事でもあるのか?」
「……特別ある訳じゃないです。あ!でも伝えたい事があったんです」
そっか、嫌じゃないなら良かった。
しかし、改めて伝えたい事ってなんだろ?
まさか愛の告白とか?!
「私、昔から仲良かった従兄弟のお兄ちゃんがいたんです。その人とリューマさんの雰囲気がとても似ているんです」
「ほ、ほう。そうなんだね」
はい、違いました!すいません、モテない男の妄想でした!
「だから、リューマさんが助けに来てくれた時、お兄ちゃんが助けに来てくれたんじゃないかと思って……、すごく嬉しかったんですよ」
「そうか。じゃあ、期待を裏切っちゃったかな?」
「いいえ!こっちにいるはずのない人ですから、私が勝手にそう思っただけですし。でも、リューマさんが来てくれたと分かって、やっぱり安心したんですよ」
頼れる人がいないこの世界で、自分の味方になってくれる人がいるのといないことでは、全然違うだろう。
俺もミィヤの存在にどれだけ助けられているか。
だから、その気持ちはすごくわかる。
「じゃあ、これからは俺の事をお兄ちゃんだと思って接してくれていいぞ?」
「あはは!ありがとうございます、リューマお兄ちゃん? ふふふっ!」
「ははは、なんか照れくさいな」
最後には二人で声を出して笑った。
しかし、背後から急に不穏な空気が漂う。
嫌な予感をし、後ろを振り返ると仁王のような顔で立つミィヤがいた。
「浮気は駄目って、言ったよね?」
「ま、まて誤解だ! へぶはっ?!」
ミィヤの平手打ちがクリーンヒット。
宙を舞う俺。
そうか、敵対している相手との戦闘以外ではステータスは発揮しないんだな。
そんな現実逃避をしつつ、地に伏す。
「大丈夫!?リューマおにいちゃん!?」
「キョーコ、私のいないときに誘惑するの禁止。リューマは私の…ん、お兄ちゃん?」
「あ…」
盛大な勘違いをしていたミィヤに、先ほどまでの話を聞かせる響子ちゃん。
そこでやっと誤解が解かれる。
それを聞いた彼女はぺろっと舌をだしつつ。
「あはっ。リューマ、ごめんね? でも、私のいない所で二人っきりになるリューマが悪い」
「うう…。殴られた挙句に説教されるとは…」
過ぎた事は仕方ない。
それに一瞬とはいえ、響子から告白されるかもとか期待した罰が当たったんだと思っておこう。
その後は、響子とミィヤと楽しく食事の時間となった。
昼食はミィヤが買ってきたパンと焼いた肉をスライスして、挟んだものだ。
まだ頬っぺたがピリピリするけど、お腹が減ってたいたのですぐに平らげた。
スパイスが効いていて、少し口の中で染みたけど美味しかった。
しかし、思わぬところでこの世界のステータスの効果を知った事になったのは幸いだな。
力仕事には効果があって、痴話げんかには効果がないと。
なんとも中途半端だな。
うーん、ポイントは意識しているかどうかなのかな?
今度少し試してみよう。
もちろん、痴話げんか以外でだ。
「思ったより早く終わったね」
「ああ、ま細かい所はまだだけど、大体は終わったよ。
あとは調理器具とか揃えたいところだけど…、銅が無いんだったな」
「次の入荷迄待つ?」
「それだと遅いかな。うーん、まだ滞在期間は残っているし堀りに行くか」
「それも良いかも。予定より数日遅くなったけど、よくある事」
元日本に住んでいた人間としては、数日後れとかかなりやばいけど、こっちの世界では珍しくないみたいだな。
町から町へ移動するだけで一週間かかる事もざらだし、感覚が違うみたいだな。
「よし、それじゃあ採掘しにいこう!」
「え、出掛けるんですか?」
「響子ちゃんは一旦生徒たちの所へ戻ってくれ。俺らは、鉱石を掘りに鉱山へ行ってくる」
「ええええっ!??」
さあ、次の冒険に向おう。
調理器具の元が俺らを呼んでいる。
「なんか、リューマ楽しそう」
「ああ、ミィヤに会ってから楽しい事だらけさ」
そう言って準備を始めた俺達を見て、羨ましそうにしている響子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます