第28話 甘いひと時

 良い香りを漂わせて出て来たのは、もちろんケーキだ。

 今回は、高級なフルーツも乗っておりより一層豪華になっていた。


「え、えっ!? まさかそれって!」


「ふっふっふ、そのまさかだよ」


「なんで川西さんがドヤ顔しているんですか?」


 ケーキのレシピを考えたのが俺だと知らない副委員長が、俺にツッコミを入れてきた。

 相変わらず指摘が的確だよ。

 しかし、俺が頼んだケーキなんだからドヤっていいんだよ。


「はは、そう言わないであげてください。この生クリームが乗ったケーキのレシピを考えたのはリューマ殿ですからね」


「えっ、オッチャンはケーキなんて作れるの?」


 予期しなかったのか、料理長の話に驚く鈴香。

 普通に考えたら、冴えない用務員のオジサンがケーキを作るだなんて予想出来ないよな。というか、傍から見たら気色悪いと言われそうだ。


「おうよ、昔だけどなケーキ屋で働いていたんだ。それでレシピを覚えていたんだよ」


「へーー!! すごいねっ!」


「そう、リューマは出来る男だと、私は良く知っている」


 なぜかミィヤまでドヤ顔しているが、褒めてくれているみたいなので素直に喜んでおく。

 しかし、こんな短時間でケーキが出来るとか魔法がある世界ってそれだけでチートだよな。

 普通はスポンジを冷ますだけでかなりの時間がかかるし、クリームも冷やしながらじゃないと出来ない。

 それが冷蔵庫がない世界で、元の世界よりも早いとかあり得ないよなぁ。


「折角出来上がったので、皆さんで試食しましょう。あ、俺も食べますからね」


 料理長がそう言うと、手に持ったナイフで均等に切り分けていく。

 流石手慣れているだけあって、綺麗に6等分してくれる。

 というか、崩れないどころか本当に均等だぞ。すごいな。


「いくらプロだとはいえ、こんなに均等に切れるのか?」


「え? ああ、俺は『料理』スキルを持っていますからね。これくらいは当然ですよ」


「なるほど、そんな所にも補正がかかるのか。凄い世界だなぁ」


「? 良く分かりませんが、かなり常識な部類ですよ。知らなかったんですか?」


「ああ、俺はちょっとそういうのがない世界で育ったもんでね」


 『そういう所もあるんですね』と呟きながらも、それぞれの皿に盛りつける料理長。

 その姿が出来る男って感じに見えて、ちょっと羨ましくなる。

 それぞれの前に皿に乗ったケーキを置くと、タイミング良く紅茶のおかわりが出された。

 ケーキの甘い香りと紅茶の良い香りが程よく混ざって口の中で唾液が洪水状態だ。


「よし、悩み事は後にしよう。一旦忘れて、うまいもん食おーぜ!」


「「賛成!」」


 久々に味わう極上の甘味に、頬を緩ませてしまう俺達。

 特に女子達の蕩けるような顔は、何よりのご馳走である。

 本当にありがとうございます!


 不埒な思考を見抜いたのか、ミィヤが見えないのをいい事に俺の脛をつま先で攻撃してきた。

 うん、すごい痛い。

 なんでこの子はこの手の勘が鋭いんだろう。


 ものの数分で全員ケーキを平らげて、至福の余韻に浸る。

 まだあればおかわりと言いたいところだろうが、流石に作ってないようだった。

 まぁ、かなり原価が高いものだからね。いきなり人が増えちゃったし。


「出来栄えはどうでしたか?」


「「最高です!」」


 俺に意見を聞いたのに、女子高生二人が返答してしまう。

 それに苦笑いしつつ、料理長が俺の方に目線を送ってきた。


「ははは。いや、本当に美味しかったよ。 俺の国で出している物と遜色ない出来栄えだよ。さすが料理長だな」


「そうですか、良かったです。これならお店を開くのも問題なさそうですね」


「もう決めたのか?」


「もちろんですよ。既に出店場所の目星はつけてあります。あとは契約金を払えばすぐにでも使えますよ」


「おおー、流石だな。仕事が出来るやつは準備が早い」


「ははは、光栄です。もちろん、内装や道具を揃えたりするのは契約してからなのでしばらくはかかりますけどね」


 ゲームじゃないから、流石に店舗を契約したらすぐ使えるというわけにもいかない。掃除や設備の搬入や内装を整えたり道具を買って搬入しないといけない。

 どこか破損しているのであれば、自分で修理を手配とかもしないといけないらしいので、どんなに早くても一週間はかかるみたいだ。


「そうなのか。じゃあ、町にいる間は手伝ってやるよ。 鉱山へはそれが終わってからでも問題無いからな」


「そうですか!そう言って貰えると助かりますよオーナー!」


「ばっか、まだオーナー言うのは、早いって!」


「オッチャン、オーナーになるの!?」


「川西さん、もうこっちで事業をするんですか!?」


「あー、もう。他の奴には内緒だぞ?実はな──」


 事の経緯を副委員長と鈴香にもすることにした。

 この世界にはスポンジケーキは一般人では食べられないので、レシピを伝授する代わりにいつでも料理長に作って貰えるようにしたこと。

 ついでに、儲けられそうだというのでお店を開く話になり、資金を出す代わりに儲けを分配してもらうのとケーキをいつでも食べさせてくれる約束をしたと説明した。


「凄いですね、ケーキを食べたいからお金を出すとか」


「お金を出せば買えるんだったならそれでも良かったけど、無いわけだし。それに一気にお金が入るよりも毎月お金が貰える方が安心なんだよ」


「さすが日本のサラリーマンですね」


「リューマさんって、いつも堅実ですよね」


「いやぁ、不器用なだけだよ。それに、娯楽はお金に変えられないものがあるからね」


 俺の最後の言葉にみなが頷いた。

 どれだけお金があっても、使い道がなければ意味がないと思う。


 それに甘い物って、女の子が自然と笑顔になるからね。

 ミィヤや、響子の満面の笑みが見れるなら安いもんだ。

 …まぁ、元々自分の金でもないしね。


 俺の話を一通り聞くと、鈴香と副委員長も手伝うと言ってきた。

 しばらくは戦い以外の事をしたいらしい。

 俺には断る理由もないし、料理長も是非にと言ってきたのでその場でOKするのであった。

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