第26話 告白
生徒全員を引き連れて、王都に帰ってきた。
もちろん俺は少し間を開けてから町に入った。
一緒だと目立つし、あのローブ男に見つかりかねないからね。
町に入る前に、響子と例の店で待ち合わせる約束をした。
疲れを癒すには、やっぱり甘いものだよね。
今回の遠征で銅を手に入れたかったが、また後日でも構わない。
急いでいるわけじゃないからな。
宿に戻って
先に店に来たら、料理長が出迎えてくれた。
ソワソワしているので、何事かと聞いてみたら新作のケーキを作ったらしい。
まだ一日しか経ってないのに新作考えるとか、流石は本職なだけはある。
「このあと響子も来るから、その時に一緒に食べよう」
「分かった。じゃあ、俺は用意しておくからそれまでは二人でお茶を飲んでゆっくりしていてくれ」
そう言うと、店員に俺らをもてなすように指示をしてから、厨房に戻っていった。
いやー、VIP待遇を受けているみたいだ。
前の世界じゃ考えられないよな。
クラスごと召喚された事件に巻き込まれてこの世界に来たけど、案外良かったかもな。
なんせ美人な奥さん貰えたし、こんないい思いもさせて貰えてるし。
いきなり使えない奴とか言われて追い出されたときにはどうしたもんかと思ったけどね。
その時、カランカランと来店を知らせるベルが鳴った。
そこから、一人の女性が入ってくる。
「あっ、響子ちゃんこっちだよー」
「リューマさん、お待たせしましたー」
響子が店に入ってくると、後ろからひょこっと顔が出てきた。
「あれ、鈴香?」
「やっほー、オッチャン! 副委員長もいるよー」
「どうも、昨日はありがとうございます」
予想をしていなかった二人の登場に少し驚いたが、二人とも頑張っていたし、丁度ご褒美になるケーキが出てくるんだし、いいかと思う。
「いやいや、二人とも頑張ってたからな。役に立てたなら良かったよ」
「役に立てたというか、川西さん来てなかったら私達は死んでましたわ。余裕がなくて考えてなかったですけど、宿に着いてから冷静になったらすっごく怖くなって……。せめて、お礼を言いたいと思って来たんです」
「副委員長は真面目だからねー! 響子ちゃんがこっそりと何処か行こうとしてたから、どこ行くか聞いて二人で着いてきちゃったんだ。ダメだった?」
「ダメな事ないさ。というか、ちょうどいい時に来たな! 今から美味しいものが出てくるから期待しておけ!」
「本当に!? やったー、オッチャン大好き!」
そう言って抱きつこうとして、ミィヤに止められてしまう。
「ありゃ?」
「リューマは私のもの。気安く触るのダメ」
「ええー、……ケチ」
「ほらほら、川西さんも困っているわ。鈴香もふざけすぎよ」
「はーい」
そんなやり取りを微笑ましく眺めている響子だったが、皆が落ち着くと話し始めた。
「ええと、今日お呼びしたのは私のスキルについて話をしたいからです」
「響子ちゃんのスキル?」
「はい。私はあの時の願いにより、強力なスキルを授けられました。そして、それのせいでみんなが今回危険な目に遭ってしまい、これからどうしたら良いかリューマさんに聞きたくて……」
なるほど、やっぱり相談したい事があったんだな。ミィヤは気がついていたみたいだけど、俺はそういう人の心の機微には疎いからな。
それよりも、今の話に気になる点があるな。
「えっと、あの時のっていつの時だい?」
「えっ? ……もしや、リューマさん覚えていないんですか?」
「うん? だから何の話だ?」
「なるほど、まずはそこからですね」
響子の話は、この世界に飛ばされる直前まで遡った。その内容は衝撃的であった。
「あの日、私達は全員謎の爆発で全員死亡しました」
「はあっ!?」
「やはり、リューマさんは知らなかったのですね」
「全然知らん。教室が光ったと思ったら、次に気がついた時はあの牢屋だったからなぁ。そうか、俺は死んでいたのか…」
「爆発した時、私は少しだけ意識があったんです。
最期の光景はとても凄惨なものでした。それを見て、とても悔しかった。
生徒を守るどころか、何も出来ずに死んでいく自分を許せなかった」
惨状を見てしまったとか、かなりショッキングだよな。しかも自分の可愛がっている生徒達のだし。
「すぐに意識が途切れ、次に目を覚ました時には不思議な場所にいました。そこで、神を名乗る存在に会いました」
「神様にあったの?!」
何それ、俺も会ってみたかったなぁ。
二度と会える気もしないし、勿体ないことをしたな。まぁ、意識なかったから仕方ないのだけど。
「そして私達は、選択に迫られたのです。このまま死に、次の人生を生きるか。それとも、記憶を持ったまま違う世界で生きるかどちらかをです」
「うわー、それってこのまま死ぬか、生きたいかの選択肢しかないじゃん」
「はい、だからみんな後者を選びました。そして、私達はこの世界に転生したのです」
「転生?」
「はい。この世界に来る時に新しい体と能力を授かりました。殆どの生徒は自分で欲しいと思った能力を貰ったようですが、選べなかった子達は性格にあった能力を与えられたようです」
それって、俺もそうなるのか?
この呪いじゃないかって思うほど、俺の人生を表すスキルの名称とか、神様の嫌がらせに違いない。
いや、いまはそのおかげで生きていけてるんだけどね。
「そして私は、あの時に願ってしまいました。
『皆が困らない様に導けるチカラが欲しい』と」
「流石先生だな」
「もう、茶化さないでください。でも、その授かったスキルが原因で悩んでいるんです!」
「お、おう。すまん」
珍しくすごい剣幕で怒られたので、大人しくしておこう。普段真面目な人ほど、怒るとこわいからな。
「で、なんでそのスキルで悩んでいるんだ?」
「はい、私の持つスキル『統率者』の効果が生徒達の精神に及ぼしているんです」
「それって具体的にどういうことなんだい?」
「はい。『統率者』は自分が認識出来る距離にいる味方に対して、司令を出すことでステータスを向上させる効果があるのです」
なるほど、だから気を失った時に生徒の支援効果が失われて弱くなったのか?
「凄いスキルだな。それがなんの問題があるんだ?」
「はい、このスキルを発動すると相手はその司令を拒否する事が出来ないのです。つまり、司令を受けた人はその司令通りにしか行動出来ないのです」
「それって、その対象を操ることと一緒って事か?」
「はい、その通りです。だからみんな司令を出すと、嘘のように大人しくなって言う通りにしてくれます。まるで洗脳されたかのように……」
なるほど、悩みの原因はそれか。
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