第25話 ダンジョン脱出

「新たなる刺客!?」


「ミィヤ何言ってるの?!」


 なんか頬っぺに、ちゅーしただけなのに騒いでいる人がいるけどここは、スルーだ。


「へへ、お礼出来るものないから。

 でも、お父さんにも特別感謝したときにしかしないんだから、特別だよ?」


 にひひと笑いつつ、ピースサインの鈴香。

 なんというか、荒んだ心が雪がれていくようだ。

 この笑顔に勝てる男子はなかなかいないだろうなぁ。


「てめー、鈴香に何やらせてるんだよ!」

「そうだそうだ!役立たずのオッサンが出しゃばって、何偉そうにしてるんだ、ああっ?!」


 どこの暴走族だよと言いたくなるメンチを切りながら絡んできたのは坂本と須崎だ。

 須崎はサッカー特待生ではないが、サッカー部には所属している。

 なので、同じサッカー部の坂本と良くつるんでいる。


 ちなみに、ガラが悪いが腐っても特待生なので勉強が出来るという、インテリ不良だ。

 うん、タチが悪い。


「きみ達、川西さんは善意で俺らを助けてくれたんだぞ! お礼を言うならまだしも、文句を言うのは筋が違うんじゃないのか?」


 ここで委員長が、止めに入ってくれた。

 流石、正義の人。熱い心持ってるなー。

 お陰で助かるが。


「ちっ、邪魔しやがって」

「委員長相手は分が悪いぜ。ここは引こう」


 ペッと唾を地に吐き捨て、去っていく二人は絵に書いたような不良だな。これで特待生なんだから謎だ。

 出来れば二度と関わりたくない。是非お帰りください。


「すみません、彼らはずっとあのような感じなんです。思い通りにならないのが気に食わないんでしょうね」


「あぁ、あのくらい気にしないから大丈夫だよ。

 ありがとうな」


「そんな、お礼を言いたいのはこちらの方です。

 本当にありがとうございました」


 そう言って、礼儀正しくお辞儀してお礼をする委員長。

 育ちの良さって、こういう何気ない時に出てくるよね。


「鈴香が助けを求めなかったら、来るつもりは無かったからな。

 アイツと敦にも礼を言っておけよ?」


「ええ分かっています。必ず後できちんと感謝を伝えます」


「ああ、そうしてくれ」


 よく考えたら高校生2人が他人の命を救う為に、命懸けで戦いながら助けを呼びに行くって凄いな。

 俺なら逃げそうだよ。

 今回のことだって、ステータスが高いから来たけど、前のままなら震え上がって動けなかっただろうな。

 その前に戦力にすらならなかっただろうけど。


 本当にスキルのお陰だよ。

 自分のスキルに感謝する日が来るとは思わかなった。


 しかし、なんだろうなこの世界。

 前の世界には無いこのゲームみたいなスキルとか、魔法とかあってモンスターとかがいるとか。


 それにこのダンジョンが謎だ。

 外とは違い、あからさまに敵が強い。

 こんなのが外を彷徨いていたら人類滅亡すんぞ?


「リューマ、ここはおかしい」


「ミィヤもそう思うか?」


「慌てて来たから気にしていなかったけど、あんなモンスターを今まで見たことがない。

 まるで伝説の魔王軍の僕達のようだよ」


 確か魔王が復活したとか言ってたか?

 しかし、このダンジョンにいる訳じゃあるまい。


 それにさっきの変な装置とか、人為的なものを感じる。


「う、うーん」


「お、目が覚めたか?」


 あれだけ疲労困憊していたのにもう起きるとか、響子もタフだな。

 これもステータスの影響だろうか?


「あ、リューマ兄ちゃん……。

 えっ、えっ!?

 なしなし、今の無しでお願いしますっ!!」


「うん、いつもの響子だ。

 おかえり」


「ミィヤちゃん!?

 私をどんな目でみているのかしら……!?

 あ、それよりも皆は?モンスターは?」


 慌てて辺りを確認する響子。

 気を失う前と違い生徒たちは談話し、モンスターから戦利品を調達している。

 そして、あれだけモンスターは一匹もいなくなっていた。


「うそ、一匹もいない?

 これは生徒たちが?」


「うん、そうだよ」


「違う、リューマがやったの」


「ばかっ、余計なこと言うんじゃない」


「やっぱり!ありがとうございますっ!!」


 そう言うと抱きついてくる響子。

 そこまでは予想していなかったのか、ミィヤはしまったという顔になっていた。

 いや、判断基準それかよ!


「キョーコちゃん?!

 流石に生徒の前でそれは…」


「えっ、ああっ!! すみません、すみません!」


 顔を真っ赤にして、あたふたしている響子。

 その様子が可愛らしく、また可笑しくなり噴き出してしまう。


「くくっ、あっはっは。

 慌てすぎだよ、キョーコちゃん」


「もう、そんなに笑わなくても」


 そんな様子をじっと見ていた生徒たちも笑っていた。

 みんなさっきまでは泣きそうな顔していたので、落ち着いたみたいだな。

 まずは一安心。


「取り敢えず、みんな無事で良かったよ。

 鈴香と敦が死ぬ気で助けを呼びに来たから間に合ったんだ。

 後でアイツらを褒めてあげてくれ」


「分かりました。 ……もう、リューマさんはいつも人の事ばかりですね」


「ん、なんの事だ?」


「ふふ、いいです。

 そういう所がリューマさんらしいのですから」


 そう言ってから立ち上がる響子。

 全員のステータスを確認出来るらしく、俺には見えない画面を一通り確認する。


「これ以上は危険ですね。

 皆さん、一度帰還します!

 脱出の準備お願いしますね?」


「はいっ!」


 生徒たちは返事をすると、直ぐに準備に取り掛かる。

 響子の言うことには従順らしく、先程突っかかってきた二人も素直に用意を始めた。


「おー、流石教師。

 素直に言うこと聞くんだな」


「そうですね.........」


「なんだ? 嫌なのか?」


「その事について、後で相談があります。

 まずは安全な街に戻りましょう」


 そう言って生徒たちの輪に入り、色々と指示を出す響子。

 その顔には何やら翳りが見えるのだった。


 帰りはとても順調だった。

 途中でてきたモンスターも、しっかり隊列を組んで冷静に対処する生徒たちの敵ではない。

 ほぼ瞬殺にし、怪我する生徒は一人も居ない。


 ただ、皆黙々と作業するかのように戦っているのだけが気になる。


「やっと、出れたー」


「鈴香、外に出たからって油断は禁物よ?」


「分かっているよー、もうせいかちゃんは堅いな~」


「あなたが崩れすぎなのよ……」


 副委員長と仲がいいんだな。

 ちょっと意外。

 口では文句を言っている副委員長も何気に楽しげだし。

 鈴香もそんな副委員長を信頼しているのか、笑顔でじゃれている。

 うーん、若いっていいなぁ。


 こうして、無事に皆を救うことが出来たのだった。

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