第22話 初ダンジョン

 鈴香と敦を先頭に、俺はミィヤをおぶった状態でダンジョン内を走っている。


 ダンジョン内は薄暗く、油断すると足を取られそうになるが、先頭の2人がしっかりと道を覚えていてくれてるので、迷わずに進めている。


 ダンジョン内には、モンスター達がひしめいているが、余りに早く移動しているためこちらを発見する前に俺達が通り過ぎている。


 何回かスライムやら、小さいゴブリンだろうか?変なモンスターを轢いてしまったが、その場で爆散していた。

 その体液や、肉片が着く間もないので服が汚れることと無い。


 ダンジョン内なのに風を切って走っているので、ミィヤはずっと俺の背中に顔をくっ付ける事で風よけしている。


「はっ、はっ。

 次の階段降りたら地下十階だよ!」


「真ん中の部屋にボスが出るから、そこは通り抜けれない!」


「分かった。じゃあ入ったら直ぐに戦闘態勢だな」


 初めてのダンジョンで、いきなりボス戦だ。

 正直ここまで戦ってすらいないので少し緊張するな。

 まだ上層とはいえ、ボスと言うくらいだ。

 オークよりは強いだろう。


「扉、開けるよ!」


 バァーンッ!と無理やり重そうな扉を開ける鈴香。

 それに続くように敦も武器を構えつつ飛び込んだ。


 グオーーーンッ!!


 辺りに咆哮が響き渡る。

 中で待ち構えていたのは、でっかい犬だった。


「なんだありゃ?」


「ヘルハウンドだってさ!でええーいっ!!」


「流石に見飽きたぜーっ!!」


 鈴香が手に持つ三日月型の剣でなぎ払うと、そこに追撃するように敦が少し長めのメイスで脳天を打ち砕く。


 次の瞬間には、頭を砕かれ胴が半分になったヘルハウンドが倒れていた。

 いや、俺の出番無くない?!


「リューマの知り合い、強い」


「疲れないのはいいけど、初のボス戦がこれか…」


「オッチャン、ぼぉーっとしないで行くよー!」


「川西のオジサン、こんなのまだ序の口だから!」


 そう言うと、戦利品になりそうな物を探す様子もなく奥の扉に走っていった。

 緊急事態じゃなきゃ、売れるものないか漁るんだけどなぁ、残念。

 命のほうが大事だ、急ごう。


 先程までと違い、こちらの速度に反応出来る奴がぼちぼちと現れ出す。

 それでも、攻撃を当ててくる程ではなくこちらから一方的に攻撃するのみだ。

 相変わらず爆散するモンスターに、申し訳ない気持ちが出つつも速度は落とさない。


 ゴブリンが成長して大きくなったようなホブゴブリンや、村を襲ってきたオーク、ハーピーみたいのがワラワラと出でくる。

 ムカデの超でかいヤツが出た時は流石にぞぞぞっと身の毛がよだったが、気にしている余裕は無かった。

 うん、忘れようそうしよう。


 地下二十階のボス戦は、対オークジェネラル。

 豪華な装備をしたオークは、見るからにボスって感じだ。

 それなのに…。


「とりゃあああっ!」

「邪魔だあああっ!!」


 と元気な子供たちに瞬殺されていた。

 いや、今のやつは村ひとつくらい簡単に滅ぼすレベルだぞ?

 それを一瞬で倒すとか、やっぱ勇者候補は強いんだな~!

 そりゃ、育たなそうなオジサンはお払い箱になるわけだ。


「やっと、ここまで来た!」


「トラップにハマったのは、二十五階だったね。

 このまま行けば、あともう少し…!」


 逸る気持ちを抑えれないのか、二人とも目が血走っていてちょっと怖い。

 既にバーサーカー状態だな。

 そういうスキルとかあるんかな?


「まぁ待て二人とも。

 そんなんじゃ、お前達が新しい罠にハマりそうだよ」


「でも、皆がっっ!!」


「そうだよ!先生がいるからっていつまでも耐えきれないよ!」


 先生って事はキョーコちゃんもいるのか。

 それは確かに早く助けたいなぁ。

 いてっ、なんで肘打ちするんだミィヤ。

 まだ何も言葉にしてないぞ?!


「リューマの事ならお見通し」


 さいですか。

 まぁ、そう言うミィヤもソワソワしだしたし、助けたい気持ちは一緒だろうな。


 何も言わず、3人に水筒を渡して水分を取らせる。

 ずっと走りっぱなしで、みんな汗だくだ。

 脱水症状になれば動けなくなるからな、水分は大事。


「呼吸は整ったか?」


「!う、うん。大丈夫だよ!」


「焦るのは分かるけど、確実に行こう。

 途中で俺らがやられたら本当に助けれなくなるぞ?」


「…そうだった。

 俺達以外に援軍もいないもんね」


 よし、思考が正常に戻ったみたいだな。

 ここからは小走りで移動する。

 何故なら…。


「あ、あそこにトラップあるから気をつけてね」


「あ、そこ踏んだら斧降ってくるよ」


 と言った具合に、罠が多くなるからだ。

 ゲームは良くやっていたからな、大体ダンジョンともなればここら辺りから罠が出てくる。


 ゲームと違い、蘇生してくれる人が見当たらないので一発アウトなわけだし、慎重にいかないとね。


 敦は大体の罠を覚えていたらしく、ほぼ罠に掛からずにスルー出来た。

 ちなみに罠に掛かったのは、俺だ。

 いきなり槍が飛んできて当たって痛かった。


 ミィヤを守るために身を挺して守ったけど、掛けられた言葉は『リューマのドジ』だった。

 オジサン泣いちゃうよ?


 しかし、物理的な罠になら耐えれるな。

 頑丈さを確かめれて良かった。

 と、思っておこう。


「あの階段降りれば二十五階だよ」


「あそこから、右に曲がって突き当たりに隠し扉があって、そこに入ったら転送の魔法陣が発動して違う部屋に飛ぶの」


「丁度反対側の部屋に出るんだよな。

 でもって、部屋のあちこちからモンスター湧いて大変なことに…」


「良くそこから抜けて来れたなー」


「うん、モンスターに阻まれているけど道は塞がって無かったから」


 なるほどな。

 つまり、一人二人だけならモンスターを突破出来るけど、全員ともなれば厳しいわけか。

 しかもモンスターは、どんどん湧いていく。


 抜け出せない無間地獄みたいなもんだな。

 なんとか耐えしのいでくれてればいいけど。


「あそこの先だよ!」


 グルおおおーっ!!


「くそーっ、いつまで出てくるんだよ!」

「もう、限界だよ先生!!」

「もうすぐ魔力尽きます、どうしますか?!」

「みんな耐えて!もうすぐ、もうすぐ綾瀬さん達が助けを連れてきてくれるわっ!!」


 部屋の中から猛獣の唸り声と、生徒達の悲鳴のような叫び。

 そして響子ちゃんの叱咤激励の声が聞こえてきた。


「まだ生きているな?」


 颯爽と現れた俺を見て驚きと共に、素っ頓狂な声を上げる響子。


「リューマ兄ちゃんっ!?」 


 へ?なんで兄ちゃん??

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