第21話 目的地変更!

 一ヶ月くらい前に別れたばかりだが、随分と会ってなかった気がする。

 既に懐かしいと感じている二人の顔。


 特に鈴香のほうは、俺をオッチャンと言って懐いてくるので、可愛がっていた。

 もう一人の敦は、野球部にしては大人しく礼儀も良かった。

 まぁ、ヤンチャな奴が多い野球部にしてはってだけだが。

 それでも俺の事を馬鹿にしないで接してくれるので、悪い印象は無い。


 そんな二人が全力疾走しながら逃げていた二首狼を、小石二つで仕留めてしまったせいで、二人から尊敬にも似た眼差しを受けてしまっている。

 別に強さがバレたからって困るとは思えないけど、あんまり目立って今更戻って来いとか言われても困る。

 あ、やっぱり困る事はあるのか。


 しかし、だからといって二人を見捨てるのもどうかと思う。

 話くらいは聞いてあげよう。


「助けてくれって、一体どうしたんだ?」


「やった!聞いてくれるのね。

 えっとねー、昨日の夜に出発したんだけどね、クエスト途中に罠にはまった子のせいで予定よりも下の階の敵が出てきて、みんなパニックで!

 だから、一番足の速い私達が助けに呼びに来たんだよ!」


「えーと…、クラスの全員でクエストに来てたのか?

 それで、ドジったヤツのお陰で強いモンスター湧いてピンチになったと」


「はい、大体それで合ってます。

 川西のオジサン、さっきの奴を簡単に倒せるなら皆を助けて欲しいんだ!

 頼むよっ!」


「うーん、ちなみに強いモンスターってどんなの?」


「えっと、さっきオッチャンが倒した奴が50匹くらい!」


 うわー、あんなでっかいのが50体とかどんだけ広いんだ。

 というか、さっきの奴はダンジョンの中からずっと追いかけて来たのか?

 なかなかのガッツだな。

 モンスターだけど、尊敬するわー。

 まぁ、俺が殺っちまったんだけどね、合掌。


「話は分かったけど、ここからその場所までどのくらいかかる?」


「えっとー、ダッシュすれば1時間半くらいかな?」


「お前ら、一時間半も走ってたのかよ・・・」


 いくら身体能力上がったからって、基本的なスタミナは変わらないと思う。

 俺も、ステータスが上がってもずっと走ってたら息が切れるし、疲れる。

 という事は、この二人は元々1時間半くらいならかなりのスピードで走れるってことだ。


「えへへ! 凄いでしょ!」


「1時間半くらい、部では当たり前でしたよ。

 まぁ、こんな山道でやった事は無いですけど」


 流石にミィヤもいるし無茶は出来ない。

 時間的に間に合うか分からないから、それは保証できないぞと念押ししておく。

 そしたら、鈴香がミィヤをおんぶして行くと言い出した。


 ただでさえ疲れているだろうに、さらにミィヤを背負わせて全力でダンジョンまで走るとか無理があるな。

 それに、現地に着くまでにもモンスターは出てくるかもしれない。

 そんな状態で戦っても、良いことは無いだろう。


「いや、ミィヤは俺が背負っていくからいい。

 軽いから背負ってもなんら疲れない」


「!リューマ男前」


 お、おう。そういう評価になるんか。

 まぁ、はにかんで喜んでいるみたいだし結果オーライだな。


「オッチャン、ありがとう!」


「僕らが先導します、着いてきて下さい」


 ふと、一人は王国に助けを求めに行った方がいいのでは?とか思ったが、思い直す。

 アイツらの事だ、役立たずとか罵った挙句に見捨てるに違い無い。


 あれは、人を道具としか見てない奴の目だ。

 俺が若い頃に常に受けてきた、人を人として見ていない奴の視線。

 久々に思い出して震えがきたよ。


「分かった、俺方向音痴だから助かるよ」


「川西のオジサン、相変わらずなんだね」


「しょうが無いだろっ!

 もう、これは呪いかスキルなんじゃないかと思うくらい治らないんだよっ!」


「帰り道はミィヤが覚えておく。

 リューマは安心して全力で走るといいよ」


「おう、さすがミィヤ! いい嫁さん貰ったぜ」


「ええっ!?オッチャン結婚したの??」


「てか、川西のオジサンって今まで結婚してなかったんだ?」


 最後の敦の言葉で何気にダメージを受ける。

 いいんだ、今はミィヤがいるし、俺はまだ負けてない!!


 と何に負けてないのかよく分からない事を考えながらも、俺達は高速で木々をすり抜けて走続けた。


 来る時と違い、何にも追われてないおかげか予定よりも早く着いたのは嬉しい誤算だった。

 しかし、俺はまだ余裕があったが2人は全力疾走だったようで汗だくで息も切れている。


 流石にこの状態ではまずいな。


「取り敢えず、これ飲んでいいぞ。

 あと、これも食え」


「そんなことしてる場合じゃ…」


「…いいから、大人の言う事をたまには聞け」


「「うん、分かった」」


 俺に押し付けられるように渡された水筒から水を飲み、干し果物を齧る。

 きっと今まで緊張でお腹が空いている事にすら気が付かなかったのだろう、2人ともあっと言う間に平らげた。

 俺らも同じく小腹を満たしてから、喉を潤す。


「こっから、ぶっちぎっても30分くらいか?」


「ぷはーっ!お水美味しい!

 うん、一息入れれたしこっから全力で行けばそのくらい!」


「皆が簡単にやられるとは思えないけど、なるべく急ぎたいね」


 うん、みんなの息は落ち着いた。

 これならもうひと頑張りいけるだろう。


「じゃあ、みんな行こう!」


「「はいっ!」」


 そして俺達は再び走り出した。

 今度はダンジョンの中へと向かって。

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