第20話 SOS

 今日も、いい天気だなー。

 昨日は早速鍛冶屋に行って銅の入手方法を聞いた。

 そしたら、返事は。


「銅なら、あるよ」


 だった。

 村に持って帰りたかったが、流石に原料だけ購入するのは無理らしい。

 ついでに入手方法を聞いたら、専属の鉱夫達を雇っていて定期的に卸していくのだとか。


 鉱山は町から数十キロ離れた場所にあり、次に戻ってくるのは数週間後だとか。

 そうなると、滞在中に分けてもらうのは難しそうだな。

 出来るなら、村に持って帰って好きなように加工したかったのだけどな。


「なぁ、俺らが掘りに行ったらダメかな?」


「ああっ?別に許可が必要じゃないが、坑道の入口で管理人に入坑料を払わないといけないし、出る時は一部の現物が税として支払いが求められるぜ?」


 そうか、お金がかかるんだな。

 で、いくら掛かるかと聞いたら手持からするとそれ程の値段でもない。


 村の復興を考えると、鉱山は抑えておきたいな。

 正直、村の鍛冶屋で作れればここに通う予定は無いからな。


「ありがとう、じゃあツルハシを五本くれ」


 そんなに買うのか?と言うより、そんなに持って帰れるのか?という疑問を顔に浮かべつつも五本取り出す店主。

 ツルハシはしっかりと作られているから、手に持つとしっくりくる。


 試しに何度か振ってみたが、全くガタツキは無いな。

 商品を壊されるんじゃないかと心配そうにしているので、あとは現地で試すか。


 銀貨5枚で5本も買えたので、ひとまずは鉱山に行ってみようということになった。


 ある程度の荷物を積めるように、馬車を買った。

 鉱石自体を運んでくるのはとても効率が悪いので、掘ったら近くの溶鉱炉で溶かして貰うつもりだ。


 当然色んな鉱物がまざっているので、そのうちの欲しい金属だけ貰ってこよう。


「しかし、さっきの鍛冶屋には感謝だな」


「うん、良い人だった」


 『本当に掘りに行くのか?根性あるなー。よし、もし沢山掘れたらシドンという男を探せ。俺に紹介されたと言えば、無下にはしないはず』と言いながら、鉱山までの地図まで描いてくれた。


 ついでに沢山掘れたら、店に少しでもいいから卸せだってさ。

 当たれば良い仕入先になるとでも思ったのだろうか?


 しかしよくよく考えたら、方向音痴の俺が地図もなしにたどり着けるわけもない。

 貰っておいて良かった!


 町の外に出る時に、門番に話掛けられた。

 何でも、勇者の一団がダンジョンに向かったらしい。

 彼らが入っている間は、ダンジョンに入れなくなるから注意する様に言われた。


「大丈夫、ダンジョンに行く用事はないから!

 俺らはこっちさ!」


 と、ツルハシを見せるとなるほどと頷く。

 ダンジョンにも鉱石が出ない訳では無いらしい、しかし鉱山ほど沢山は採れないし、危険度も高いから普通の鉱夫はいかないのだとか。


 その代わりに、ダンジョンでしか産出されない鉱石も有るらしく、ダンジョン専門の冒険者兼鉱夫が居るらしい。


 なんだそのタフなヤツら。

 モンスター狩りしながら、鉱石も掘るとか凄いなっ!


 取り敢えず自分は違うと伝えて、門番と別れた。

 一応間違えないようにと、地図にダンジョンの場所を書き込んでくれるただ親切なだけの門番だったみたいだな。

 感謝だな。


 さーて、馬車で2日くらい掛かるし、ゆっくり行こー!

 ガタンゴトンと荷台が揺れて、尻が痛い。

 なんかクッションとか欲しかったな…。


 そんなこんなで揺られて丸一日たった。

 とてもお尻が痛い。

 臀部を労りつつ、野営していたキャンプで朝食を食べていた時だった。

 何やら森が騒々しい。

 遠くからギャーギャー騒ぐのが聞こえてくるし、その声が近づいてきている?


「リューマ、何事?」


「俺にもさっぱりだ」


 とにかく、何かが近づいてくるのだけは分かる。

 万が一を考えて戦う準備をした。

 と言っても、剣を持っただけなんだけどね。


「どうわあああああっっ!?」


「えひゃああるらあああっ!!!」


 なんだなんだ!?

 あれは、人か?

 何かに追われているみたいだな。


 あの後ろのは…、でっかいわんこ?

 いや、オオカミか?

 でも、なんで首が2つもあるんだろうか?


「リューマ、あの二人食べられちゃうぞ?」


「うーん、取り敢えずこれでダメージ入るか試してみようか」


 そう言いつつ、小石を拾う。

 そして、ヒョイっと放り投げてみる。


 ビュオッー!!ぱちゅんっ!


「おー、汚い花火だなぁ」


「ちょっとえぐいね」


 吹っ飛んだのは、片方の頭だったのでもう片方も狙ってみる。


 ビュオッー!!ぱちゅんっ!

 …ズシーンと音と立てて倒れたかと思ったら、勢い余って首の無い胴体がスライドしてくる。


「わっわっわっ!何何!?なーにーーー?!」


 首なしの巨大な魔獣に追われる形になった、少女がパニック状態だこちらにダッシュしてきた。


「マズイ、このままだと俺たちの馬車が!」


「そこは、先にあの女の子の心配してあげなよ」


 なんか指摘された気がしたが、それどころじゃないので、ダッシュして首なし魔獣に飛びかかった。


 ズズーン…。

 と重い音が響き、やっとその動きを止めるのだった。


「はーっ、はーっ、ひーっ」


「ん、何か生まれそうか?」


「違うわっ!死ぬかと思ったよ!

 …って、おっちゃん?!」


「おーい、大丈夫かー?」


 逃げていたもう一人が、止まったのを確認してこちらにやって来た。


「あれ、その顔は川西のオジサン?」


「おう、二人とも久しぶりだな」


 そこに居たのは、2-Aの生徒のバスケ特待生の元気娘の鈴香と、野球特待生の敦だった。


「オッチャン、やっぱりオッチャンだったんだね!

 さっきのどうやったの?!凄かったよっ!」


「おい、綾堂!そんな事はあとだろうっ!?」


 さっきの俺が魔獣を倒したのを見て、興奮気味の鈴香を諌める敦。

 もう追いかけてくる魔獣は居ないのに、とても焦っているようだ。


「どうしたんだ敦、何かあったのか?」


「そうだった!オッチャン、クラスのみんなが大変なの!たすけて!!」


 この後に俺は、2-Aの生徒達が本当に大変な事になっているのを聞かされるのであった。

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