第19話 魔導師と勇者

 2-Aの生徒達は、普段は訓練に明け暮れたまにクエストに出掛けてお金を稼いでいた。

 最初こそ男子達が『くそっ、こんなの拷問じゃねーかっ!!』とか口々に言っていたが、レベルの上昇と共に強くなってくると、『次はもっと稼げる奴倒そーぜ!』と言ってゲーム感覚でクエストこなす様になっていた。


 そんな様子を王宮魔導師の筆頭である男が彼等を眺めていた。

 あの王の代わりに、響子や生徒達、そしてリューマにご高説してた人物。

 彼の名前は、マリウス。

 若くして魔法の才能が開花し、一気に筆頭王宮魔導師に上り詰めた実力派だ。


 王の側近として、彼は名実ともに巨大な権力をその手に持っている。


「平均レベルが40超えたか。

 思ったよりは早いな」


 数年前、この国は未曾有の災害に遭い多大な犠牲者が出た。

 しかしそれは自然発生した災害でないと判明する。

 そう、『厄災の魔王』の復活である。


 かの魔王は、存在するだけで瘴気を振りまき、近くにある生命の命を刈り取った。

 更に、その配下を僭称する者達が集まる事で様々な害悪が撒き散らされた。


 竜巻、火災、大津波、病魔、日照り、飢饉…。

 ありとあらゆる災害が、魔物達によって引き起こされたのだ。


 王国はすぐに軍を出し討伐に当たったが、その奮闘虚しく多くの軍が全滅。

 指揮をしていた第一王子から第三王子まで全員戦死してしまう。


 王は嘆き打ちひしがれて、絶望に取り憑かれてしまった。

 ここで、ある魔術師が現れて古代の書を読み聞かせた。


『異界より現れし厄災の魔王を鎮める事が出来るのは、異界に住む穢れを知らぬ少年少女の魂である』と。

 さらに続きがあった。


『また、現れし異界の者の中には魔王を討ち滅ぼすチカラが備わる』と。


 つまり、少年少女の魂を捧げれば異界に帰る。

 しかし、魔王を滅ぼせるほどのチカラが備わるなら倒してしまうのが1番良い。


 なにせ、厄災の魔王の周りには数多の魔物がいるのだから。

 魔王だけいなくなっても、この混沌は無くならない。


 王の隣で聞いていたマリウスは、すぐに召喚の義に取り掛かった。

 何度も失敗し、その度に生贄となった者達が命を落とす。

 召喚には、王の血筋が必要なのだとか。


 その過程で、第一王女、第二王女、王弟が犠牲になった。

 その最期の姿は、みなミイラのように干からびて見るも無惨であった。


 最後の召喚では、王妃が犠牲となり遂に勇者たちが召喚されたのだった。

 遺された王族は、王とまだ10歳の第三王女のみ。

 この時点で、既に王の心は壊れてしまっていた。


「愚王を持つと、民は苦労するなぁ」


 その言葉とは裏腹に、マリウスは楽しそうに嗤うのだった。


「あとは幼い王女が1人だけ。

 私がこの国を手に入れるのもそう遠くないだろうね」


 召喚の儀に、王族の血が必要と王に伝えたのはマリウスだ。

 しかし、あの魔術師はそれを必要とは言っていなかった。

 が、その真相を伝える前にどこかへ消えてしまった。……いや、消したのだ。


 この国の王族は、はるか昔に召喚された勇者の末裔だと言う。

 なので、文字こそ違うが言葉が地球と同じなのだ。

 それを知るのは、王族と一部の側近だけ。


 そしてマリウスは、召喚の儀には勇者の血を引く王族の血でなければ出来ないと嘘を吹き込んだのだった。


 全ては、自分がこの国を手に入れるために。


「くくくっ、あはははははっー!」


 今は未だ、その真相を知るものはいない。



 勇者として喚ばれた生徒達は、今日もダンジョンに向かう。

 それがこの国の破滅の手伝いだと知らずに。


「みんな!ここが踏ん張り時よ!」


「「おーっ!」」


 響子が司令を出すと、皆が躍起になって魔物を倒す。

 響子が意識しなくても、スキルが自動発動するので逆らうものは皆無だ。

 その代わりに冷静に的確に行動するため、まだ成長期の子供達とは思えない動きだ。それを戦闘力で測るなら、通常時の数倍にもなるだろう。


 戦闘が終わると、みな元に戻りいつものように会話をする。

 そのギャップが恐ろしく、また気持ち悪さを感じさせていた。


(みんなこの事に疑問を感じていない。このままでいいの?)


「いやー、キョーコちゃんが指示出すといつもより動きが良くなるよな!」


「そうそう、キョーコちゃんがいれば私達って最強かも!」


 無邪気にはしゃぐ生徒達。

 その様子を見て、更に心が荒むのを感じる。


(いいわけが無い。でも、アイツの言う通りに参加しないとみんなに危害が及ぶ。アイツは平気な顔でそう言っていた。今は、我慢するしか…)


 自分が教え子達を戦場に立たせている事に苛まれる響子。

 しかし、彼女を救う者はそこには居なかった。


(リューマお兄ちゃん…)


 つい、呟くリューマの名前。

 自分に優しくしてくれた従兄とは別人とは分かっているのに、つい重ねてしまう自分が情けなかった。


(私がやらなきゃ。この子達を救うのは私しかいないんだから!その為には、強くなって貰うしか…)


 パシパシと頬を叩き、自らの気合を入れ直す響子。


「さーっ、みんないくよー!」


 そうやって響子は心を奮い立たせて、更なる死地へ皆を向かわせるのであった。


「うおーっ!いくぞー!響子先生を守れー!」


「俺が勇者だー!やってやるぞー!」


 ダンジョンには、今日も若い雄叫びが響き渡るのであった。

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