第18話 クリーム作りと試食会

 さて、焼いている間にホイップクリームを作ろう。


 大きな桶に氷魔法で氷を入れて貰う。

 そこにボウルを入れて冷やしつつ生クリームを投入する。

 生クリームに冷えたら、そこに砂糖を入れる。


「よし、高速回転だあああああ!」


 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ・・・・・!


 3分くらい混ぜていると、少しクリームがまったりしてきた。

 更に混ぜると、ついにホイップが完成した。

 少し掬ってぺろりと舐める。


「うん、うまい」


「どれどれー」


 意表をついて、クリームがついた指をミィヤがパクリと咥える。


「あまーい!」

「うはっ!」


「あ、ずるいです。私も─」


 予想していなかったのでミィヤは止める事が出来なかったが、真似し掛けたキョーコちゃんは制すことに成功。

 我に返ったキョーコちゃんは、顔面が真っ赤になっていた。

 ちょっと、可哀想なのでスプーンですくったのを一口あげた。


「うぅ…、甘くておいしいですぅ…」


 消え入りそうな声で、甘さに身をよじらせるキョーコちゃん。

 くそー、可愛すぎる!


「浮気、駄目」


「ぐほっ」


 っと見惚れていたら、ミィヤから肘鉄をいただいた。

 みぞおちに入り、何気に痛い。


 さて、気を取り直してフルーツを切っておこう。

 果物を買っておくのを忘れていたので、少し分けて貰った。

 少し酸味のあるイチゴみたいな果物に、梨や桃みたいなのがある。

 それぞれを細かくカットしておく。


 そうこうしているうちに、ケーキが焼きあがった。

 こんがり焼きあがったばかりのケーキは、とてつもなくいい匂いがする。

 心配していたけど、しっかりと膨らんだようで良かった。


 熱いうちに鍋から取り出し、冷ましておく。

 しっかり冷えたら、天辺だった焼き目の部分を切り取る。

 こうしないと、硬いのが残っちゃうからね。


 更に真ん中あたりをスパッと切って二段にする。

 こうすれば真ん中にクリームを挟める。

 つまりは王道のショートケーキだな。


 クリームと果物は、スポンジケージを冷ましている間に冷やして貰った。

 魔法って便利。

 こりゃ、氷魔法必須か?

 絶対に魔導書買おう。


 そして、最後はデコレーションだ。

 と言っても、絞りと袋が無いので今回は木べらで丁寧に塗っていく。


 まずは下段にフルーツを散りばめて、その上にクリームを均等に塗る。

 その上にスポンジの上段をずれないように乗せて、更にクリームを塗っていく。

 周りにも塗って、最後に上段にふんだんにクリームを落としてからその上にフルーツを載せていった。


「出来た!」


「「わあっ!!」」

「ほう、これは目新しいな」


 ついに出来上がったショートケーキ。

 最後に、料理長の腕前で綺麗に切り分けて貰い用意していた皿に載せていった。


「「いっただきまーす!」」

「いただこう」


 早速、みんなで試食会となった。

 ふかふかのスポンジにひんやりしたホイップクリーム。

 そして少し酸味のある爽やかな甘みが口の中で混ざり合う…!


「「おいし~~~い!」」


 女子から歓喜の声が上がる。

 やはり、どの世界の女子でもケーキが好きなのは共通か?


「うむ、美味いな。こんな食感と味は初めてだ…」


「だろ?色々と足りないから物足りないかと思ったけど、思ったよりも美味しくなって良かったよ」


 昔バイトしていただけの本職じゃない俺が作っただけあって、最高の出来とは言えなかったけど、それでも久々に作った割にはうまくいった。

 これで道具とかちゃんと揃えば、もっといいのが出来るんだけどな。


 ものの数分で全部平らげてしまった。

 1ホール8ピースに分けたが、ミィヤが熱い視線を送ってきたせいで俺は1個しか食べれなかった。

 まぁ、また作ればいいんだけどね。


「リューマ、天才!」


「はっはっは、そうだろう?って言いたいところだけど、作り方さえ知っていれば誰でも作れるよ」


「でも、男性でしかもそも…、リューマさんは『用務員』さんなのに、こんなの作れるなんて」


「ほう、リューマは料理人じゃないのか?」


 そういや、俺は『用務員』だったな。

 バイトしてたと言われても、普段の姿が目に焼き付いていたら想像も出来ないよな。


「ああ、料理長。俺は…ここに来る前は『用務員』っていう色んな雑用をこなす仕事をしていたんだよ。だから料理は本職じゃないんだ」


「それでこの出来なのか!?」


「そう、だからこそだ。

 料理長、俺と手を組んでもっと美味しいケーキ作ろう!」


「!!なるほど、すんなりレシピを教えると思ったらそういう事か。

 だから俺にも食べさせたんだな?いいだろう、その話に乗ってやるよ!」


 見た感じ、まだ俺よりも若いが腕は確かな料理長。

 若いが故に、ノリが熱いな。

 いや、いい事なんだけどね。


 それからは、レシピを細かく教えてから別れた。

 店を出すには色々と手続きが有るらしく、それについても料理長がやってくれる事になったので、後は場所が決まれば開店出来るだろう。


「その前に、金属製の器具を調達しないとだなぁ」


「金属製?鉄という事か?」


「まぁ、間違いじゃない。でも鉄だとすぐ錆びるからなぁ。出来れば錆びない金属が良いのだけど…」


「それって、ステンレスとかですか?」


「そうだね、キョーコちゃんの言う通りステンレスなんて物があればいいけど、合金だからね。

 材料が厳しいかなぁ」


「それなら、何で作る?」


「やっぱ、コレじゃない?」


 そう言って、2人に1枚の硬貨を見せる。

 それはそこらに溢れる、1番価値の低い硬貨だ。


「なるほど、銅ですね」


「ああ、銅なら熱伝導率がいいから色々使える。

 耐久性は鉄より低いけど、いいもの作るにはいいもの使わないとな!」


「銅貨を加工したら、犯罪だぞ」


「そんな面倒な事しないよ。

 これから鍛冶屋に行って、銅の仕入先を聞きに行くのさ」


「なるほど、鍛冶屋なら分かりそう」


 そこで、響子ちゃんが申し訳無さそうに話しかけてきた。


「あの、ケーキとっても美味しかったです。

 ご馳走様でした。

 それで、そろそろ帰らないといけなくて…」


「あー、そっか。

 もうすぐ夕方だものな。

 うん、分かったよ。何か困ったことあったらあの大きな宿屋の501に来てくれ」


「リューマ!?」


「ん、何だ?」


「なんで他の女に部屋を教える?」


「え?知り合いだし、ケーキを一緒に食べた仲だろ?ミィヤは、響子ちゃんがキライか?」


 そんな俺らのやり取りを心配そうに見ている響子。


「んー、嫌いじゃない」


「じゃあ、いいじゃないか。

 俺がいない時は2人で出掛けてもいいぞ?」


「分かった、それなら許す」


 なんだかんだで響子と出掛けれるのは、嬉しいらしい。

 何故か2人は最後に握手を交わして別れるのだった。



「リューマさん…。

 ミィヤちゃんともまたすぐ会えるといいな」


 別れたあと、少し寂しそうに呟く響子だった。

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