第16話 ケーキ食べる?

 実は昔、ケーキ屋でバイトしていたんだよ。


 かくいう俺も甘いものは大好きで、バイト代はそうでもなかったけど、余ったケーキが持って帰れるとか募集に書いてあったからすぐに応募して受かったんだよね。

 店長が強面で、なかなかバイト来なかったらしくて、今思えばラッキーだったなぁ。


 おかげでスイーツ作りなら、そこらの女子よりも得意になった。

 まぁ、披露する相手がいなかったのだけど。

 くうっ、非モテだった学生時代を思い出してしまった。

 甘いものを作っていたのに、甘い思い出がないぜ…。


 いや、今ならミィヤがいる!

 こんな俺を正面から好きだという女の子がいるのだ、今こそその腕を見せるとき!


「ミィヤは、ケーキを食べてみたいか?」


「もちろんだリューマ!

 でも、知っている限りそのケーキというものを売っている所を知らないぞ?」


 数年間、人間の町に住んでいたミィヤが知らないとなると少なくとも町には無いんだな。


「貴族が住む王都側ならそういう店もあるのかも知れないが、こっち側で見かけた事は無い。

 一番甘いもので、パイの中に果物が入っているフルーツパイくらいかな…」


「フルーツパイもいいですね!

 でもそうですか、ケーキはこっちには無いんですね」


「ケーキを作るとなると、生クリームに卵が必須ですからね。

 それに、砂糖が無いとね。

 トウキビ畑や酪農や養鶏所があちこちにある俺らのいた世界と違って、こっちだとどれも高価なんでしょう。

 せめて材料と器具があれば、俺が作るんですけどね」


 そう言った瞬間、ギラッっと二人の目が光った…気がした。

 目の錯覚か?!

 だが、二人がこちらを凄い目で見ているのは確かだ。


「あ、いや昔作ってたんで、作り方なら知っているんですよ」


「本当かリューマ!

 ミルクと卵なら、高いけど売っているぞ。

 サトウと言うのは分からないけど、フルーツパイの店で訊いてみよう」


「凄いですリューマさん!

 ミィヤちゃん、すぐにそこのお店に行きましょう!」


 さっきまでは火花が散りそうだったのに、今では同士とでもいうかのように息がぴったりだ。

 スイーツ恐るべし。

 これは、材料が手に入ったら気合を入れないといけないかも。



 そして、3人でフルーツパイも出している料理店に来た。

 パイ料理が得意らしく、魚のパイやミートパイも出している。

 もちろん、普通にサラダや炒め物、煮込み料理なども出していてどれも美味しそうだ。


 一先ず俺はミートパイと野菜シチューを頼み、二人は魚のパイとサラダを頼む。

 ドリンクは新鮮なフルーツの絞りジュースを出すあたり、かなり本格的なお店だ。


「「美味しい!!」」


 一口食べるだけでその腕前が分かるほど、美味しかった。

 香辛料は使われていないようだが、しっかりと塩分調節をしていて、素材の味を活かしつつ、物足りなさを感じさせなかった。


 食事が終わり、本日の目的でもあるフルーツパイを頼む。

 先ほどまでのしっとりパイとは違って、外側がパリッと焼いてあるの中のフルーツがしっとりとなっている。

 じっくり煮込んでいるいるのか、甘みが増しており口に入れるだけで幸せを感じる。

 ん?これはシナモンなのか?

 微かにシナモンの風味を感じるので、似たような香辛料がこっちにもあるかもしれないな。

 これなら、砂糖もあるんじゃ・・・?


「ふー、美味しかった!

 生の果物も美味しいけど、料理されている果物も違った味がして美味しい」


「うん、そうだな。

 それにしても、ここの料理人の腕は相当なもんだぞ?」


 そうして二人して感心していると、何か疑問に思ったのか不思議そうにこっちを見ている。


「リューマさんとミィヤちゃんって、出会ったばかりにしては…、ずっと一緒にいるような雰囲気ですね?」


「ん、それは出会ってからずっと一緒にいるから」


「ずっと…、一緒に!?」


「えーと、その話は今度にしないか?

 それよりも、砂糖があるかないかじゃなかったのか?」


「そうでした!」


「うん、訊いてみよう!」


 ミィヤが近くの店員を呼び止めて、料理人に話を聞けないかと交渉する。

 最初は訝しげにしていたが、こそっと銀貨1枚をポケットに入れてあげるとすぐに厨房に走っていった。

 うん、世の中ギブアンドテイクだよね。


「あの、リューマさん?」


「鈴木先生、ここは日本じゃないんですよ?」


 海外ならチップは当たり前だ。

 日本はそういう習慣がないから、違和感を覚えても仕方ないが外聞を気にしている場合じゃない。

 小声で『でも…』とか言っているが、あえてスルーする。

 こういうのは、慣れるしかないからだ。


 しばらくすると料理人がやってきた。

 思っていたよりも若く、しかもイケメンだ。

 ちょっとミィヤが見惚れるんじゃないかと心配になったけど、その男の事など眼中に無かったようだ。

 ちょっと、安心。


「フルーツパイ、とっても美味しかった」


「それはそれは、褒めてもらって嬉しいですよ」


「サトウという物を探しているのだけど、これにはサトウを使っているか?」


「ん-、それはどういう物なんでしょうか?」


 そこから俺が糖分を多く含む植物を似て抽出し、水分を飛ばして作るのが砂糖だという事を教えた。


「なるほど、それはシュガーですね。

 この国では生産されていないので、すべて輸入品なのでとても高価なんですよ。

 とてもこの店で出せる値段ではないですよ」


 ちなみに、相場を聞いてみたところ1樽で金貨1枚だとか。

 ちなみに砂糖が1樽だと約100キログラム相当になる。

 つまり、100キログラムが10万円。

 1キロ、千円相当らしい。

 これは仕入れした場合の値段だから、実際にお店で売られている場合はその倍にはなるだろうとの事。


「日本の20倍!?それは流石に…」


 それを聞いて若干引く響子ちゃん。

 しかし、俺の感想は逆だった。


「まー、高いは高いけど買えない程じゃないからなぁ」


「リューマお金持ち」


 確かに今お金持っているから思うのかもしれないけど、手に入らないと思っていたのに、その程度で手に入るのなら買わない手は無い。

 お金は使う為にあるのだ。


 ちなみに卵と牛乳は普通に買えるらしい。

 卵は1個で銀貨1枚。

 牛乳(未加工)は1ガロン(約4ℓ)で銀貨1枚。

 どちらも一般人には高価だが、たまの贅沢に買う人がいるのだとか。


 そして牛乳から作られる生クリームもあるらしい。

 バターやチーズも売られている。

 なんでも専門店があるのだとか。

 ただし、チーズとバター以外は入荷があった朝にしか売ってないみたいだ。


「意外と材料揃いそうだな。これならケーキも作れるかも」


「「本当ですか!?」」


「ん、なんですかケーキとは?」


「ああ、俺の故郷にあった特別なお菓子なんだ。

 こっちじゃ材料が高価だから、ケーキがあっても貴族くらいしか食べて無さそうだから、作ろうと思ってね」


「ほう…。それなら、出来上がったものを少しだけ私にも分けてくれないですか?

 もし、採算がとれるようならお店で出しますよ?」


 ふむ、普通なら特別なレシピだとか言ってお金をせびるだろうが…。

 このシェフの腕前を考えたら、俺よりも美味しいケーキを作るだろう。

 それなら、作って貰った方が良くないか?


 お金は別で稼げばいいし、毎日ケーキ焼いて商売にするのは結構ハードだ。

 それなら手を組んで、いっぱい売って貰い更に俺らにも美味しいケーキを提供して貰おう。

 うん、それがいいな!


「分かったよ。でも、タダでとは言わないよな?」


「!?なるほど、貴方は商売の才能がありそうですね。

 分かりました、実物を食して素晴らしい物ならその話乗りましょう」


 こうして、なぜか料理人と固い握手を交わしその場を後にするのだった。

 え、俺はダンジョンへ行かないのかって?

 用事が無いのに、なんで危険な所に行くんだよ。


 そんな事よりも、今はケーキなんだ!

 

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