第15話 再会
「えっと、川西さんですよね?」
恰好が変わっているし、そもそもいなくなった筈の人物を思わない所で見つけて驚いているようだ。
そんな仕草ですら、可愛らしい人物。
そう、2-Aの担任の鈴木響子こと、響子先生だ。
関係ないけど、心の中ではきょーこちゃんと呼んでいる。
「え、きょう・・・鈴木先生じゃないですか。
こんな所で会うなんて奇遇ですね?」
「よ、良かったぁ~っ!!
川西さんがいきなり追放された後、どこに連れて行かれたのか心配していたんです!
こちらの町の方にいらしたんですね!」
「え、えーーと…。」
あのあと馬車に乗せられて、モンスターのわんさかいる森に放り投げられて死に掛けましたー!とか正直に言ったらどういう反応するんだろうな?
うーん、気の優しいこの人の事だ、色々とアイツらに抗議してしまうかもしれない。
そうなったら、この人の身が危なくなる可能性があるな…。
「ははは。いきなりお金渡されて追い出された時はびっくりしましたけど、こうして元気に過ごしてますから大丈夫ですよ。
心配してくれてありがとうございます」
嘘は言っていない。
あんな奴らに任せてしまうのは心配だけど、一時の感情で連れ出してしまったら、残った生徒達がどういう扱いをうけるか分からない。
酷な事を押し付けるかもしれないが、まだ若い生徒達にはこの人のような味方になる大人が傍にいないと駄目だろう。
「いえいえ。
あ、今のお住まいはどこなんですか?」
「家は借りてないです。
えーと、今は貰ったお金で町の中にある宿屋に泊まっていますよ。
結構貰ったんで、優雅なもんですよ、はははっ」
実際は、俺を連行した兵士に強奪されてしまったんだがね。
まあ、その後にスキルで増やしたとか教えてしまったら、大変な事になるので下手な事は言わないでおこう。
「宿屋…、そうなんですね。
あの…、お部屋の場所を教えて貰っても…」
「リューマ、いっぱい良いのがあったぞ!
…誰だ、その女?!」
「え、竜真って、川西さんの名前ですよね?
こちらの方は、どなたなんですかっ?」
ん?あれ?
これってもしや噂に聞く修羅場ってやつか!?
いやー、俺みたいなのがこんなのを体験出来るとは思わなかったぜ、はっはっは!!
とか現実逃避している場合ではない。
ミィヤは婚約者となっているから分かるのだけど、なんできょーこちゃんまでそんな反応なんだ?
あ、もしかして女に騙されてお金をせびられているとか思っているんだろうか?
彼女ならありえるな。
ここはちゃんと説明しておこう。
「ああ、鈴木先生。
この子は、俺の婚約者なんですよ。
ミィヤには、こっちに来てから色々助けて貰ったのがきっかけで仲良くなったんですよ」
「そう、リューマは私のオトコ。
お前にはあげない」
「こ、婚約者!?私のオトコ!?
いえ、百歩譲ってそうだとして!
まだこちらの世界に来て、2週間くらいですよ?!
いえそれよりもその子、生徒達よりも若いというか幼く見えるんですけど!?」
そういや、そうだったか。
考えたら目まぐるしい日々だったな。
毎日がサバイバルで一日が濃いから、もう1年くらい経っている気分だ。
そして、やはり見た目ではミィヤは子供にしか見えないみたいだな。
まぁ、俺もそうだったから非難は出来ないか。
「まぁ、人を好きになるのに時間は関係無いと思いますよ。
あ、それとこう見えてミィヤは二十歳ですから、立派な大人ですよ。
あ、そんな事より、生徒たちはどうしていますか?」
これ以上、この話を続けても不毛とばかりに話題を無理やり変えた。
それに、突っ込まれ過ぎるとミィヤがハーフリングだとバレかねない。
「うぅ…。
あ、生徒達ですね!
えーとですね。気を失った坂本君も次の日にはみんなと合流しましたよ。
そこから毎日みんなで訓練しています」
「訓練?」
「ええ、『勇者』に必要なのは魔物を倒す力だとかで、毎日戦闘の訓練をしています。
先日はダンジョンに行きましたけど、まだ入り口の方だったのもあって難なく魔物を倒せました。
生徒たちは、すっかり環境に慣れてしまって今じゃゲーム感覚なんですよ…。
といか『勇者』って、何なのッて感じですよね」
どうやら、思ったよりは過酷な生活はしていなさそうだな。
それよりも、俺の部屋を聞いたのは愚痴を聞いて欲しかったのかな。
同じ世界から来た唯一の大人なわけだしな。
元々嫌いじゃないし。
いやどっちかというと、好きだった子だ。
ここは年上の男としても、一肌脱ぐべきだろう。
「ははは…なるほど、相変わらず気苦労が絶えないようですね。
あ、俺らが泊っているのは、町の大通りから見える一番大きな宿屋です。
名前は…『月光亭』だったかな?」
「うん、それで合っている。
でも、なんで教えるの?」
「ん?困った人がいるなら助けるのが当たり前だろ?」
「それは、リューマらしい理由だけど…。
わかった。
でも、来る時は必ずミィヤも一緒にいる」
「ん、それはそうだろ。
向こうの話もしているし、今更隠す話でもないからな」
「ん、なら良し!」
「えっとー。本当に仲良しなんですね…、うう」
なんか小声で『おにーちゃんが取られた』とか聞こえた気がしたが、意味が良く分からなかったのでスルーしておいた。
きっと、こっちに来てからずっと気を張り詰めていたので精神が安定していないのかもな。
「鈴木先生、良かったら3人で食事でもどうですか?
俺らもこれから食べる予定でしたし」
「あ、もう教師じゃないですし、それにミィヤさんも名前で呼ばれているようなので、私の事も響子と呼んでください!」
「え?じゃ、じゃあ響子…さん」
「私の方が年下なんですよ?
呼び捨てにしてもらっていいですよ」
「ええ!?呼び捨ては流石に抵抗があるというかー。
じゃあ、きょうこ…ちゃん」
「あっ…。はい…、それでもいいです。
リュ、リューマさん」
ぐふあっ!
好きな子が、好きだった子が照れて俺の名前呼ぶとか、何のギャルゲーだ!
俺はギャルゲーの世界に迷い込んだのか!?
ふう、一旦落ち着こう。
我が嫁候補様が、鬼のような眼でこちらを見つめていらっしゃる。
これ以上は危険だ、危険過ぎる!!
「と、とりあえず響子ちゃん、ご飯食べに行こう。
ミィヤ、おススメの店あるか?
ミィヤの食べたい所でいいぞ」
心情的には響子ちゃんの好きなものに合わせてあげたいが、ここはミィヤを優先しないと駄目だと生存本能が叫んでいた。
「むう…。わたしはそこまで大人気なくないぞ?
キョーコ、好きなものを言え。
それも候補に入れる」
「え、え。
じゃあ、私はミィヤちゃんって呼ぶね?
えっと、私はお魚と甘いケーキが好きよ」
「ケーキ?
それは美味しいのか?」
「ケーキって、こっちには無いのかしら?
甘いクリームを、ふわふわのスポンジ状の甘いパンみたいなのにいっぱい塗るの。
そして、いろんな果物を載せるのよ!」
「ほおおおっ…」
どうやら、ミィヤも興味津々なようだな。
女子が甘いものが大好きなのはどの世界でも共通事項のようだ。
たまーに甘いの苦手とかいう人もいるが、かなりの少数派だろう。
しかし、ケーキか。
材料と調理器具があれば作れなくもないだろうけど…。
ん?俺がなんで作れるかって?
それは…。
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