第14話 町に買い出しへ
昨晩は大変でした、とだけ伝えておく。
男としてレベルが上がった気分です。
よし、そんな訳で今日は町に行く話だ。
既に追放されてから10日も経っているし、俺の顔なんて覚えちゃいないだろう。
覚えているとしたら、2-Aの生徒と響子先生だけだ。
服装も変わっているし、すれ違った程度では気が付かれないかもしれない。
用務員って、格好で判断されている所あるからな。
そんな訳で、俺とミィヤは町の買い出しへ向かうことにした。
最初はミィヤの身の危険を鑑みて反対したんだけど、どうしても行くときかなかった。
なので人間が良く着る服を作ってもらっていた。そして特徴のある耳が隠れる帽子を作ってもらったのだが、これがめちゃくちゃ似合ってて可愛い。
もう抱きしめたい。
いや既に抱きしめたけどね。
むう、ナンパされたらどうしようか?
ふっ、一撃で仕留めてみせるわっ!
「リューマ、顔が悪人になってる」
おっと、危ない。
顔に出まくってたようだ。
しかし、道中歩いて移動することを考えていたのだが、ウマみたいな動物を用意されていた。
もう馬でいいだろう。
馬車に使う馬らしく、行商を装えば中に入れるとか。
俺は住民証を持っているので問題ないが、ミィヤの分がない。
……筈なのだが、何故か持っていた。
理由を聞くと人間の中にも懇意にしている人がおり、その人のツテで手に入れてあるらしい。
万が一問題になった場合は、全力で逃げる事にした。
異世界転移とかわけわからんこと起こるんだから、最悪の事は想定しておくべし。
そんな訳で、半ば旅行気分のミィヤを連れて町に行くのだった。
「ふふ、新婚旅行」
いや、まだ正式な婚姻は結んでないけどね。
だからと言って、今さら破談になったら俺は再起不能になるかもしれん…。
馬に2人乗りして、行商にしては少なめの荷物を背負わせて出立した。
何か言われても、買いに来たと言えばいい。
実際そうだし!
金ならある!
荷物が少なめなのもあり、町にはほぼ1日でたどり着いた。
夜になっていたので、暗いこともあり門番はすんなり抜けれた。
貴族が住むらしい王都とは違い、城下町辺りではまだ警備が緩い。
俺の住民証は本物だし、しかも王都発行の押印がされていたので、荷物もノーチェックだ。
あのローブ男、態度は酷かったが渡したものはちゃんとしたものだったみたいだな。
案外、本当にいい暮らししてのんびりさせてくれようとしたのかも?
まぁ、今となってはどうでもいい事だが。
取り敢えず宿屋を探す。
金貨は沢山あるので少し高くてもいいと言ったら、町で1番の宿屋を紹介された。
宿屋を見た瞬間に、庶民には不釣り合いな場所に来たと怖気つきそうになったが、ミィヤにグイグイ連れていかれてそこで泊まることになった。
日本で言えば、ロイヤルスイートってやつか?
それの異世界版。
走り回れるほど広い部屋の代金は、2人で銀貨10枚。
金貨一枚で銀貨が100枚らしい。
銀貨一枚は、銅貨100枚。
銅貨一枚で買えるものはほとんど無くて、大根一本で10~15枚らしいから、銅貨一枚で10円くらいか?
じゃあ、銀貨一枚で1000円、金貨一枚で10万円って事か。
俺の勇者退職金は一千万円?!
殆ど強奪されてしまったが、凄い金貰っていたんだな。
話は戻るけど、この宿の代金が1泊1人5000円って事か。
いや、安くない?!
「ちなみに、王都の中の宿屋はここの10倍はするみたい」
「おおう。町だから高級宿やでもリーズナブルなのか」
「りーずなぶる?」
「値段が手頃でお得ってことさ」
「なるほど。
それなら、リーズナブルであってる。
ちなみに素泊まりの狭くて、ベットだけある部屋は銅貨五枚だ」
「やっす」
「主に日雇いの労働者か、稼げない冒険者達が使っている」
そうか、冒険者がいるのか。
稼げない奴なら、それでもギリギリなんだろうなー。
「しかしミィヤは物知りだなー」
「5年前までは、人間のフリして冒険者してた。
あの部屋にはもう泊まりたくない…」
「そ、そうか。辛い時期があったんだな」
「そんな事はもう忘れた。
さ、一緒にお風呂入ろ?
ここは、お風呂もある」
「えっ、ちょっ!」
そして、夜が耽るまで労働とは違う汗を流して、朝にもう一度入ったのは言うまでもない。
「うーーん、スッキリ!」
「そ、それは良かったよ」
ツヤツヤなミィヤとは反対に、すこしゲッソリしている俺であった。
くー、これが若さの違いかっ!?
朝食は宿屋で食べれるので美味しく頂いた。
ここらでは高級店なだけあり、玉子焼きとかハムが出て来て嬉しい限りだ。
胡椒があれば完璧なのに残念。
お腹を満たしたあとは、メインの買い出しだ。
言葉はハーフリングも共通語を使っているらしく、言葉も文字も同じらしい。
俺は文字は書けないので、結果的にミィヤが着いてきて正解だった。
市場に向かい新鮮な野菜や、果物などを購入する。村の資金は略奪で殆どないので俺の持ち出しだ。
元々自分で稼いだ金でも無いし、世話になっているから特に気にならないよ。
その後は、服の素材に反物や染物糸などを購入する。
帰りは荷台を購入する予定なので、大工にも声をかけておく。
何日かは滞在するので、全て予約だけしておくのだ。
それまでに指定した数を用意してもらう手筈。
町の人もどこの出身とか全く聞かない。
雰囲気で分かっているのか、余計な首を突っ込まないのが商売人なのさと、ある食料店が教えてくれた。
さて、一通りの店は回った。
あと行ってないのは、冒険者ギルドと女性用の服屋くらいか。
服は正直言うと村で作れるから寄るつもりは無かったのだけど、ミィヤがどうしても行きたいと言うので連れて行った。
だが、ここで事件が発生する。
なんと、俺は中に入れなかったのだ!
まぁ、女性用下着とかもあるらしいから当然と言えば当然か。
外に追い出された俺は、店の外で待つことになった。
今の俺は、この町の人と何ら変わらない恰好をしている。ぱっと見では、冴えないオジサンが娘の買い物を待っているだけに見えるだろうが・・・。
「え、川西さんっ!?」
いきなり、俺の名前を呼ぶ人物が現れるのであった。
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