第13話 契り

 あれから1週間ほど経ち、村も平穏な光の日々を取り戻しつつある。


 村長の話では、元々この村は職人が多くいる村で、様々な物を自給自足で賄っていたらしい。

 オーク襲撃で村人が半分以下になり人手が足りなくなったが、まだなんとかなるだろうとの事。


 食糧と水と住む場所があれば何とかなるんだとは、村の鍛冶屋の話だ。

 そう、鍛冶屋が有るんだよ!


 俺には武道の経験は無いが、それでも武器とかがあると狩りにも便利だし、またオーク達が襲ってきたらより優位に立てる。

 そう思って、いくつか武器を作って貰った。

 材料は、オーク達が遺していったものを溶かして使った。


 身体能力だけは馬鹿みたいに高くなったので、どんな武器でも振り回せるが、使いこなせなければ棍棒と変わらない。

 弓なんかは当然使いこなせないし、やっぱり剣が一番使いやすい事が分かった。


 ただ、刃の薄い剣にしてしまうと数回で刃こぼれしてしまいすぐにダメになる。

 ならばと、刃の分厚い巨大な鉈のようなものを作ってもらったのだが…。


「うわー、引くほど強いね」


「力だけはあるからな。これなら技術関係なしに殺傷能力高いから、オークくらいなら武器を破壊しつつ真っ二つに出来るわー」


 重さで言うと、100キロはある鉄の塊を木の棒を振るかのようにビュンビュンと素振りする。

 風圧だけで隣のミィヤの服がはためいている。


「オークって、ここら辺じゃかなりの強者なんどけど…」


 羨む気持ちを通り越して呆れるミィヤ。

 まぁ、レベルが上がればミィヤも強くなるんじゃない?って聞いたら、そこまでレベル上げるとすると、オークを殲滅しても足りないだってさ。


 この村と人間の国を挟んで反対側に、上位の魔物が棲むダンジョンがあるらしく、そこで最下層まで辿り着けるなら、同じくらいまで強くなれるとも言っていた。


 ちなみに、近年最下層に辿り着いたものは一人も居ないらしいけど。


「あー、でも」


「ん?」


「俺と一緒にこっちの世界に来たヤツらは、行けるくらい強くなるかもな?」


「ん?リューマは、王国の人間じゃないのか?」


「ああ!そう言えば、言ってなかったな」


 そこで俺が何処から来たのか説明してない事に気がついた。

 なんで森で迷っていたか、何処から来たのかをミィヤに説明した。


「違う世界から、王国の人間に呼ばれて、追い出された?」


「まぁ、簡単に言うとそういう事だな」


「リューマ可哀想」


「お、おう。改めて言われると少し凹むな」


「大丈夫、ミィヤがいる」


「ははっ、有難うな」


 照れ隠しにグリグリとあたまを撫でながら、それでもミィヤに出会えた幸運を喜んだ。

 一緒にいてくれると言う人がいるだけでどれだけ心強いか。


「だから、リューマはミィヤと結婚する!」


「なんでそうなった?!」


 いつの間にか、ミィヤと結婚する事にされて唖然とするが、どの道この先に相手が現れるか分からんし、悪くないか。

 見た目は幼女だが、ちゃんと大人だしな!

 ん?俺はナニモミテナイヨ。


「だけど、ハーフリングの女性が産むのは相手が人間でもハーフリングなんだ。

 それでもいいか?」


 何故かモジモジしつつ、しかし何処か心配そうな表情でこちらを見つめるミィヤ。

 こういう時のミィヤは、妙に色っぽいんだよなぁー。


「いいかって、ミィヤに似た可愛い子が生まれるって事だろ?

 嫌になる理由あるのか?」


「もう、バカッ…」


 なんでバカって言われたが分からんけど、怒ってないから大丈夫だろう。

 てか、俺なんか変な事言ったかな?


 その後は何故かご両親に会いに行き、『結婚する事決まった!』と言いに行っていた。

 何故か『でかしたぞミィヤ!』とか、『一生手放しちゃ駄目よ?』とか言ってた。

 え、OKなの?

 種族とか関係ないの?!

 ただ、『娘を泣かしたら…、分かっているわね?』とお母さんに得も言えぬ圧力を掛けられのだけど。うん、なんか怖かった。


 それより気になる事が…。

 出会った頃、幼女と間違うような体型だったはずなのだが、今はちゃんとあるのだ。

 何が?いや、決まっているだろ!

 あれだよあれ。

 オーク討伐の翌日あたりから、有るんだよなぁ。

 え、俺はナニモミテナイデスヨ。


 場合によってはセクハラ発言になりかねないが、勇気持って(好奇心に勝てなくなって)聞いてしまった。


「ミィヤ…」


「ん、なんだ?」


「出会った頃と違って、急に大きくなってないか?」


 と、視線を胸に落とす。


「リューマのエッチ」


「いや、あはは」


「戦いや狩の時は邪魔になるから、サラシを巻いてぺったんこにするのが習わし。

 今は非常時じゃないから、してないだけ」


「なんと!そういう事だったのか!」


「でも、そう言う事を言うって事は、ミィヤの魅力に気がついたという事か?」


 そう言って、わざと胸を押し付けてくるミィヤ。

 思っていたよりボリュームがある柔らかな感触がダイレクトに伝わってくる。

 うん、神様ありがとう!

 初めて神様に感謝しながらしちゃったぜ!


「ふふふ、リューマは何人欲しい?」


「お、おう。お手柔らかに」


 すっかり主導権を握られてしまった気がするが、これに抗える男などいるだろうか?いや、いない!

 俺にもやっと春が来たっ!


「そういえば、一緒に来たセイト?達はどうしてるのかな?」


「ああ、生徒というのは俺達の世界には子供を勉強させる学校と言うのがあって、そこに通うのが『生徒』で教えるのが『先生』と言うんだ」


「なるほど。リューマはどっち?」


「え。えーと、俺は『用務員』だよ」


「ヨームイン?」


「その学校の修繕とか、清掃とかゴミの管理とか、色んな雑務をこなす仕事かな。

 あと、俺の場合は技術指導って課外授業の時に講師もしていたんだ」


「ふーん、よく分かんないけど雑用係?」


「まぁ、そうとも言うな。なんだガッカリしたか?」


「ううん。なんの仕事でも、立派に務めてるなら立派な人物なのだと父様から教わった」


 俺達の世界でそんな考えになる人はどれだけいるだろうか?

 職業や役職に囚われがちなのに、村の長であるのにそう考えられるお父さんはかなりな人格者と言える。

 素直に尊敬出来るな。


「そうか、ミィヤの父さんは立派な人だな」


「うん、村長だからね!」


「うん、そういう意味でじゃないんだけどなぁ…」


 ただ、それが当たり前のミィヤには俺の感動は伝わらなかったようだ。


「それに、リューマはリューマ。

 何をしていたとしても関係ない」


「そっか、ありがとうな!」


 その代わりにそれ以上の気持ちを与えれくれた。

 うん、ミィヤは可愛い。


「それで、生徒達は?」


「ああ、そうだったな。

 彼らは俺よりも能力が高いらしくて、勇者として育てられてるんじゃないかな?それに響子先生もいるから、心配はないだろうし」


 そういや、響子ちゃん大丈夫かな。

 やっと担任になれたって喜んでいたのに、こんな事になって可哀想な娘だよなぁ。


「キョーコ?…リューマ、浮気はダメ!」


「うお、そんなんじゃないから!

 というか、押しつけるな」


 より胸を押し付けてくるミィヤであった。

 


 

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