第12話 宴

 あれから2時間ほどミッチリ働かされた。

 みんな遠慮なんかしないから、これでもかと言うほどコキ使われたよ。


 しかしステータス様々だな。

 あれだけやっても、全然疲れないぜ。


 例の中身のせいで精神的に疲れたけど、それでも行方が分からない仲間が発見されると涙を流しつつも感謝しながら引取りに来る家族を見ると無駄なことでは無いと実感させられた。


 そして、解体の仕方や肉の捌き方など細かく教えてもらったおかげで、『解体術』なるスキルを獲得した。

 これでどんな生き物もスムーズに解体出来るらしい。


 普通は一日やったくらいで覚えれないみたいなんだけど、異世界から来たからなのかな?

 いまいち法則が分からんけど、覚えやすいならお得だしむしろありがたい。


 そして、待ちに待った宴が始まった。

 ここ数日、まともな食事をしていなかったのもあり、肉が焼ける匂いでお腹が鳴る。


 食べれば供養になると聞いてからは、なんの遠慮も要らなくなった!

 とういうか、考えるのをやめた。

 よし、食って食いまくるぞー!


「皆の者、良く生き残ってくれた。

 あのオークの大群が襲撃してきた時、我等は全滅を覚悟していた。

 しかし、ひとりの人間が我等を救い出し、そして同胞の仇を取ってくれたのだ!

 皆の者!リューマを讃えよ!」


 おおおおおおおおおおおおおっ!!!と地響きが起こりそうなほどの歓声が上がる。

 そして、その視線は全て俺に向かってきている。


 おう、ちょっとへんな緊張が湧いてくるな。

 そんな俺をミィヤが寄り添いつつ、ギュッと抱きしめてきた。


「村のみんなに言葉を」


 うー、柄じゃないけど仕方ない。

 絶対断れない雰囲気だし。


「えーと、俺は偶然ミィヤに出会いここに来たわけだけど、皆さんが生き残ってくれて良かった。

 まだ一日しか経ってないけど、いい人ばかりだし…

 だから、この先も皆が生き残る為に全力を尽くすよ!

 俺も出来ることは、手伝うから!

 だから、だから…」


 相変わらず、口下手だな俺は。

 伝えたい言葉が上手く出てこない。

 でも、嘘だけは言わないって決めている。


「これからも、よろしくお願いします!」


 ワァーっという歓声と共に、俺は拍手で歓迎されるのであった。


 村人の約半数が亡くなった。

 その中には、恋人や子供や家族がいた。

 みな顔は笑っているが、涙を流している人が多い。

 きっと無理して笑っているだなと思うと、切なくなるな。

でも、ここで俺が泣いたらこの人たちの我慢が無駄になる。


「おーい、みんな残ってた酒を配るからこーい。

 今日は特別タダだぞ!」


 飲食店をやっているらしい男が、酒樽をあけて皆に酒を配っている。

 酒か。

 何気にこっちに来てから、飲んでないからな。

 ありがたくいただこう!


「くはーっ、約一か月ぶりの酒だぜ。こんなに美味く感じるのは久々だな」


 元の世界のように、キンキンに冷えた酒ではないが、冷暗所に保管していたらしく冷たくてうまい。

 解体作業で火照った体に染入るようだ。


 村を救った恩人だということで、生き残った村の人々が代わるがわる俺に酌をしていく。

 多分、今までの人生で一番飲んだかもしれない。

 村にとっては悲しい事件のあとだが、俺はこの日とても楽しい宴会を過ごすのであった。


「リューマ~、飲んでいるか~?」


「み、ミィヤ?! なんか出来上がっていないか?」


「私はもう大人、こんな程度ではよわないのだあ~!」


「だぁーって、完全に酔っ払いじゃねーかっ」


 すでにフラフラになっているミィヤは、そのまま俺の膝を枕にしてコテンと寝てしまった。

 幸せそうに寝息を立てる彼女を見て思わず顔を綻ばせてしまう。

 酒が回っているせいか、思わずいたずら心が生まれて、ほっぺたをつまんで伸ばしてやろうかと思い、手を伸ばそうとするとミィヤが寝言のように呟いた。


「リューマ、みんなを救ってくれて本当にありがとう……」


 再びかわいい寝息を立てる彼女の柔らかい髪の毛を撫でてやる。

 気持ちよさそうにほほをすり寄せながら眠る彼女を見て、まるで猫のようだなと笑みがこぼれる。


「俺こそ、ミィヤに救われたんだよ。……ありがとうな」


 きっとこの出会いは運命だったのだろう。

 何もなかった俺に、初めて生きる意味を持たせてくれた出会い。

 そして新たに結ばれた絆を守るため、ここから新しい人生が始まるのだと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る