第8話 オーク達との戦い
ハーフリング達が作ったこの村は、基本が木材で出来ている。
村長の家という事だけあり、他の家よりも随分と立派に出来ているが、それでも僅かに軋む音が出る。
正直、音が鳴るたびに心臓が飛び出そうになる。
そう言って、心臓が飛び出たやつは見たことないけどね。
ミィヤが声が聞こえると言ったが、階段を上るにつれそれは大きくなる。
声というか、呻き声に近い。
あまり想像したくない事が起きている可能性があるな。
それに、相手がオークだと想像よりも陰惨な状況になっているかもしれない。
(ミィヤ、何を見ても悲鳴をあげるなよ?)
(…分かっている。ここに来る前から覚悟は出来ているよ)
(よし、行くぞ)
踊り場に誰も居ない事を確認し、一番大きな部屋の扉を開ける。
ギイッー…と僅かに軋みのある音を立てて、そこに入ると…。
「誰だ、ここには誰も居れるなと…。
貴様、何者だ!?」
そこに居たのは、身なりの良い人間の男とひどく痛めつけられたハーフリングの人々だった。
「誰だとか関係ない、お前に恨みは無いけど報いを受けて貰うぞ!」
ビュンッと小石を投げるが、なんと石が当たる前に弾けて砕け散った。
「くっ、障壁が打ち破られるだと!?」
驚きたいのはこっちの方だ。
オークでさえ抵抗も出来ずに爆散した攻撃を、何もせずに防いだのだ。
何かの魔法が掛かっているのか?
「リューマ、もう一回!」
「言われなくても!」
もう一度投げようとした瞬間、男がハーフリングの女性を抱え上げる。
女性の衣服はボロボロで、体中に傷が出来ている。
なんとも痛ましい姿だ。
「何をしたのかわからんが、もう一度攻撃すればこの者も吹き飛ぶぞ?」
「お母さま!?」
「な、卑怯だぞ!」
どうやら、盾にしている女性はミィヤの母親のようだ。
母親のほうは既に気を失っているらしく、ぐったりとして動く様子が無い。
うーん、どうしたらいいものか。
「ふはは、逃げた筈の娘も一緒だったか。これは都合がいいな。
そこの男、悪い事は言わない。その小娘をこちらに寄こすのだ」
形勢が逆転したからか、勝ち誇ったようにしている男。
さらに、光る石に向って何かを喋っている。
もしかしたら、あれで仲間を呼んでいるのか?
そうだとしたらヤバイ。
早くしなくては他のオークが来てしまう。
「どうした、早くしないか。
でないと、この女を殺してしまうぞ?」
そういいつつ、母親を抱えつつその首を絞めている。
このままでは母親は死んでしまう。
「くっ…。一体どうしたら…」
「いやぁ、お母さまぁっ!?」
今にも飛び出しそうなミィヤを抑えつつ必死に考える。
どうする?いま小石を投げたら確実に盾にされてしまう。
おそらく貫通して男は死ぬだろうが、母親も死んでしまう。
あの男が死ぬのは罪悪感が湧かないかもしれないが、母親を見捨てるのは流石に無理だぞ。
…いやまてよ。
なんで小石を投げる事にこだわっているんだ俺は。
そうか、あの男が人間だから直接手を掛ける事を無意識に避けていたのか?
ミィヤの方を見る。
涙を流して、必死に母親の方に行こうとしている。
その姿には、自分の事など顧みる様子は見られない。
馬鹿だな俺は。
もう、ここは日本じゃない。
大事なものを守るには、自分自身でなんとかするしかないんだ。
出会ってからたったの数日だが、ミィヤの存在が大きなものになっているのに気が付いた。
すっかりオジサンになったというのに、なんとも青臭い感情を抱いているんだろうか。
「はははっ、こりゃあ覚悟を決めるしかないか」
「貴様、何を言っているんだ。もう迷っている暇は無いぞ?」
「お前こそ、その母親を殺してしまったら自分の盾が無くなるの分かってるのか?」
「ふん、代わりの盾などそこらに転がっているだろうが?」
なるほど、コイツはクズだ。
こんな奴に躊躇している自分が馬鹿らしく思えた。
「そうか。じゃあ、死んでくれよ」
「何を言って…」
ミィヤを軽く後ろに突き放し、次の瞬間に全速力でダッシュする。
そして人を殴ったことが無い拳で、男の顔を打ち貫いた。
ドパンッ!!
まるでスイカが破裂したような音が鳴り、辺りに血しぶきが飛び散る。
そして、頭を失った男の体が真後ろに倒れた。
放り出された母親をキャッチし、そっと汚れて無い方の床を降ろした。
「お、お母さまー!」
気を失ったままの母親に、泣きじゃくりながら縋りつくミィヤ。
良かった、取り敢えず救う事は出来た。
あとは…。
「ミィヤはここに居ろ。
あとは俺が片付けてくる」
「リューマ…。
分かった、必ず帰ってきて」
「ははっ、見ただろ?
絶対に負けないさ」
そう言い残し、踵を返し外に向かう。
階段を降りる途中で、外から声が聞こえる。
『シンニュウシャ キタ ズーク サマノエンゴスル』
『『オオウ!』』
ち、かなりの数が集まっているみたいだな。
だけど、今のステータスならオークなら何人いようと負ける気がしない。
いや、負ける事は許されない!
こんな歳になって、初めて血が沸き立つものを感じているな。
ここから、俺の人生をやり直そうか!
バアアアアンッ!!とわざと大きな音を立てて、扉を開く。
そこには村中から集まったと思われるオークが群れていた。
「さあ、始めようかオークども!
俺を簡単に殺せると思うなよ!!」
そうして、その群れに飛び込もうとした時。
「オイ ニンゲンノ オッサンダゾ?」
「ナンデ コンナトコニ イルンダ?」
「イマキコエタカ? オレタチトタタカウ ダトヨ」
「ジョウダン ニシテハ ワラエナイナ」
うん、人のやる気を削ぐ事を平気で言ってくるなコイツら。
オジサンは許せても、おっさんは許せんな。
よし、決めた。
お前等、全員処刑するの決定!
いや、最初からそのつもりだったけどね。
「さーて、イノブタの解体ショーだ!」
両ポケットに入れてあった小石を、両手いっぱいにそれぞれ握り締め、それを全力で投げつけた。
ボボパパパパパンッ!!!
一瞬にして、あちこちに血の花が咲いた。
あまりきれいではないが少しは溜飲が下がる。
しかし、まだ半分は生きているな。
それなら…。
「おらーーー!!殴り合いで勝負だっ!!」
今度こそ、オークの群れへ飛び込んでいくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます