第7話 村へ潜入

 ミィヤの水浴びが終わり、俺も体を拭う事にした。

 その前に髪を洗い流したいと言われ手伝わされたが、洗ってあげる事よりも首から下を見ないようにする事の方が大変だった。


 汚れていた服は流石に火を起こして乾かせないので洗えなかったが、こればかりは我慢するしかない。

 体の汚れを落とすだけでも随分スッキリしたので、取り敢えず良しとした。

 夜には村に侵入するので、しっかりと体を休める事にした。

 暗がりでもここからなら村まで辿り着けるというので、そのまま泉で休憩する事にした。


 冷えた体を温める為に体を寄せて座って休んでいると、すぐに寝息が聞こえる。

 たった数日で随分と気を許すようになったもんだ。

 …よくよく考えたら、出会った次の日からそんなに警戒しているようには見えなかったか。


 日が落ちて暗くなった。

 ミィヤを起こして移動する。

 最初むにゃむにゃ言いながら移動を始めたので心配になったが、問題なく村の裏門に辿り着いた。

 さすが長年住んでいるだけあるな。

 というか、暗闇の中迷わないとか、そもそもの方向感覚が凄すぎじゃないか?

 そんな疑問をぶつけたら、わたし達は精霊との親和性が高いから道を示してくれるんだと言っていた。

 流石異世界、精霊とか普通にいるのかよと驚いたわ。


「じゃあ、俺が先に行って中から開ける。

 俺が中から出てくるまで、じっとしているんだぞ?」


「わかっている。

 …気を付けてリューマ」


「ああ、行ってくる」


 小声で言葉を交わし、なるべく音を立てないように塀に近づく。

 一番頑丈そうな所を狙って、軽くジャンプして手を掛ける…筈であった。


「うわわっ!?」


 そういやジャンプすること自体、こっちに来てから無かったなぁ。

 とかどうでも良い事を考えている間に、軽く飛び越えていた。

 うん、現実逃避している場合じゃない。


 とりあえず、下が土のお陰で大きな音を立てずに済んだ。

 取り敢えず、誰かが来る前にと閂をそおっと抜いて扉を開ける。

 まるで計画通りとでもいうかの如く、澄ました顔をしてミィヤを小声で呼んで招き入れた。


「リューマは、本当に人間なのか?」


「生まれた時から人間だったぞ?」


「…そうだな、ジャンプした瞬間はへっぴり腰だったものな」


 うん、驚いていたのバレてたー。

 ただ認めたくないので、軽い咳払いだけして誤魔化しておく。


「俺から離れるなよ?」


「そうだな。わたしがオークに捕まったらひとたまりもない。

 リューマにぴったりくっついておく」


「それはそれで動きづらいが…」


 無理に剥がすわけにもいかないので、そのまま放置するが控えめなふくらみが直に押し付けられる感触に内心ドキドキしてしまう。

 いかんいかん、兎に角オークを確実に仕留めて行こう。


 入ってすぐにオーク達を見つけた。

 崩れかけている家の影に隠れて、オーク達の様子を伺う。


(仲間は見当たらないな。流石に外にはいないか?)


(精霊の反応だと、近くに何人か生き残りがいるみたい)


 オーク達に聞こえないように最小のボリュームで話をする俺ら。

 どうやら、生き残りはいるようだ。

 だが、どこにいるのか。


(…いた。あの中央の建物。あれは村長の家)


(あの中にいるんだな?よし、急ごう)


 コソコソと移動する二つの影に、気が付くオークはいない。

 例の人間というのも、もういないのか見当たらなかった。


(家の中には、他のやつらは居ないのか?)


(…流石にそこまでは分からない。精霊も万能じゃない)


 残念。

 敵がいるかどうかわかれば、もう少し楽なんだが分からない物は仕方ない。

 仲間が居る場所が分かるだけでもかなり凄い事だしな。


 どうやら村の中にいるオーク達は、既に寝る前なのか酒らしい飲み物を呷って気が緩んでいる。

 まさか侵入者がいるとは思っていないだろう。


 大体のオークは村の中心に集まっており、そこで焚火を囲みながら飯を食っている。

 何を食べているかを確かめる勇気は無かったが、どちらにしろ見えないので止めておく。


 村長の家は村の中心より、少し外れたところにあった。

 村長の家からは村の中心を見る事は出来るが、中心から村長の家は見えにくくなっているらしい。

 一方的に監視する意味合いでもあるんだろうか?


 ざっと目視で確認出来ただけで、オークの数は30体くらい。

 村を襲ってきた時は、上位種が居たらしいが広場にはいなかった。

 もういないのか?と思い掛けたが、もしかしたら家の中にいる可能性もあるのか。

 より油断は出来ないな。


 家の前には、2体のオークが暇そうに広場を見ている。

 既に寛いでいる仲間達を羨ましがっているようだ。


(まずは、あの2体を片付ける)


(一気に2体も!?死んでしまうよ?)


(まぁ、見ておけって)


 少し離れてから、彼等だけに聞こえるように石を転がす。

 コツンッ。


「グガッ。ナニカ オトガシタゾ?」


「ネズミ ジャ ナイノカ?」


「ダッタラ オマエ ミテコイ」


「ショウガナイ イッテクル」


 聞き取りにくい声で喋るオーク達。

 そう言えば、なんでこいつ等の言葉が分かるんだろう?

 いや、余計な考えは後だ。

 今はこいつらに集中だ。


「ナニモ ナイゾ?」


 今だっ!

 ビュンッ!!!

 バシュンッ!!!ドサッ!

 たった小石一つで、オークの頭が爆散した。

 その音に気が付いたもう一匹も下に降りて来た。


(リューマ、凄い!)

(まだだ、もう一匹くる)


「ドウシタ? ナンダコレハ!?」


 もう一丁!

 ビュンッ!!!

 バシュンッ!!!ドサッ!

 今度も見事に命中。

 ステータスのお陰でなのか、本来ならノーコンの俺も狙った場所にドンピシャだ。


(よし、他のオークに気が付かれる前に家の中に入るぞ)

(分かった)


 頭を失った2匹のオークの横をすり抜けて、階段を上って村長の家の前に立つ。

 どうやら、こちらに気が付いたオークはいないみたいだ。


 ゆっくり、ゆっくりと扉を少しづつ開ける。

 中に人の気配はない。


(入ってすぐは食堂と応接間になっている。

 更に上の階に大きな部屋があるから、もしかしたらそこにいるかも)


(なるほどな。だったら、音を立てないように入ろう)


 まだ気が付かれていないが、うろついているオークに気が付かれるかもしれない。

 俺らは滑り込むように中に入り、音が出ないようにゆっくりと扉を閉めた。


(上から声が聞こえる!)


 俺らは逸る気持ちを抑えて、静かに上への階段へ近づくのだった。

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