第6話 ハーフリングの村

 翌朝、日が昇ると共に目が覚めた。

 普段から寝起きはいいけど、流石に野外だという事もありかなり早かった。


「うーん、まだ緊張感が抜けてないんだな」


「ほう、何に緊張しているのだ?」


「うわぁっ!!

 ・・・って、ミィヤか」


 すっかり忘れてた。

 この少女(本人は大人だと言っている)が隣で寝ているんだった。

 何日も森を彷徨っていたせいで、せっかくの可愛らしい顔が土汚れで台無しだな。

 近くに川でもあれば、水浴びでもさせようか。

 その前に服とか諸々必要だなぁ…。


「どっちにしろ、村に行ってみるのが早さそうだな」


「やはり行くのか?」


「ああ、生存者がいるなら助けたいんだろ?」


「ミィヤにはそんな力は無い…。

 けど、リューマが出来ると言うならお願いしたい」


「ああ、任せな!

 村の場所は分かるか?」


「もちろんだ。

 オークから逃れるために大分離れたが、長年住んでいた村の場所を忘れるわけが無い」


「そうか、それなら良かった。

 自慢じゃないが、俺は道を覚えられないんだ」


「確かに自慢にならない」


「う、人に言われるとグサっと来るな。

 じゃあ、案内まかせたな」


「わかった」


 それから、俺はミィヤの案内で森の中を進んで行く。

 時たまモンスターが襲ってくるが、俺の投擲で粉砕していく。

 初めてそれを見た時は、かなり驚いてたな。


「…?!????

 なんだそれ、何かの魔法?」


「いや、単に石を投げただけだよ」


「そんな馬鹿な…」


 と口をあんぐりと開けていた。

 あまりにも面白い顔をしていたので、開いた口に木の実を放り込んだら、怒られました。

 そして、ぽかぽか殴られた。

 うん、可愛いなこの子。


 そんな和気あいあい(?)とした雰囲気で、道中進んで行きついに目的の村へ辿り付いた。

 途中、2回の野営をしたから丸2日掛かった感じだ。

 よくこんな長い距離を覚えていられるなと感心したよ。

 俺には絶対無理だ。


「ちなみに人間の町って、ここからだとどのくらいだ?」


「馬車で丸1日くらい?徒歩なら、街道に出れば3日くらいかな」


「行った事あるのか?」


「小さい時に何回かは。

 今は人間側から一方的に敵視されていて、行ったら捕まる」


 なんだと!

 じゃあ、ミィヤに案内してもらっても一緒には入れないじゃないか。

 うーん、困ったな。

 お金があっても使えなきゃ意味が無いぞ。


 取り敢えず、考えても仕方ない事は後回しだ。

 まずは目の前の問題から片付けようか。


 村の正門らしき木の塀が見える位置に来てみると、まだオークらしき巨体が門番をしていた。

 暇そうに欠伸しているな。


 という事は、まだこの村はオークの占領地という事になる。

 流石にこの位置じゃ中の様子は分からないな。


「正面からは無理そうだな。

 裏手に回ろう」


 俺の提案に素直にこくりと頷くミィヤ。

 その一動作一動作が愛くるしい。

 って、何考えてるんだ俺は。

 非モテではあるが、ロリコンでは断じてないぞ!

 あ、でもミィヤは大人なのだからロリコンではないのか。


「早く行こう」


「ああ、すまんすまん」


 雑念を振り払い、意識をオークに集中する。

 あんな豚だか猪だか分からない生物ばかり見ていたくはないけど、仕方ない。

 見つかれば事態が悪化するだけだからな。


 うまく気が付かれる事なく、裏手に回る事が出来たな。

 あの愚鈍そうな奴に見つかるとは思えないが、一緒にいたという人間が気になる。

 魔法使いでもいたら、俺の事なんかすぐに察知してしまうかもしれないのだ。


「裏には誰も居ないな」


「裏門は基本閉まっているから、必要ないと思っているかも」


「鍵は掛かっているのか?」


「鍵というか、かんぬきが掛かっている。

 無理に開けようとしても、開かない」


 うーん、そうなると一回よじ登って乗り越えて、中から閂を抜くしかないな。

 そうなると日が出ている日中だと見つかるか。


「よし、このまま日が落ちるまで待とう」


「分かった。でもミィヤお腹空いた」


「お前…、こんな時なのに呑気だな」


「お腹が減ったら動けない。

 リューマお腹減った」


 うーん、仕方ないな。

 日持ちさせるために道中せっせと作った乾燥リンゴをあげるか。

 でも、これだと喉が渇くんだよな。

 あ、そうだ。


「なぁ。近くに川は無いか?

 水が飲めそうなところ」


「うーん、それなら近くに泉がある。

 そこは湧き水だから綺麗で安全」


「じゃあ、一旦そこに行こう」


「わかった、こっち」


 再びそろりと村を離れて、湧き水があるという泉に向かった。

 水を求めてオークが来ているんじゃないかと心配したが、村の中には井戸があるので余程の事が無い限りこっちには来ないはずだという。


 30分くらい移動すると、目的地の泉に辿り着いた。

 ミィヤの言う通りオーク達が来た様子は無い。

 ここであれば、しばらく居るだけなら安全だろう。


 そうだ、まだ日が高いし水浴びでもさせようか。

 体の汚れを落とす前に、水筒に水を入れてと。


 そうそう、村に辿り着く途中に竹のような中が空洞の植物がいくつも生えていたんだよ。

 竹というよりは、笹の大きな種類みたいな感じだけど、丈夫で竹と同じ構造で中が空洞なので丁度よかった。

 保存食もこの竹みたいなの(もう竹でいいか)に入れている。


 今まではちょろちょろと流れる小川しか見つからなかったが、ここなら水浴びも可能だ。

 体拭きは、俺の首に巻いていた厚めの手拭いしかないが、洗えば大丈夫だろう。

 今は贅沢は言ってられない。


 水が汲み終わってから、ミィヤに保存食を食べさせた。

 流石に火は起こせないので焼きリンゴは出来なかったが、そこは彼女も理解して我慢していた。


「ミィヤ、ここなら水浴び出来るんじゃないか?

 流石に体を洗った方がいいんじゃないか?」


「普段なら泉が汚れるからしないけど、一日くらいなら平気か。

 でも急にどうしたの?

 もしかして、リューマはミィヤの麗しい裸体見たい?」


「ぶっ、なんでそうなる。

 別に覗いたりしないから安心しろ。

 また汚れるかもしれないが、体を清潔にしておかないと何かの病気に罹(かか)るかもだろ?」


「なんだ、残念。

 もうすこし、興味を持ってもいいんだぞ?」


「からかうんじゃない。

 早く洗って来いよ、この手拭いも水洗いしたから使っていいぞ」


 そう言って、タオルを渡す。

 昨日の夜に、竹の中に灰を入れて沸かしたお湯に漬けてから洗ったので、匂いは消えているはず。

 元々体臭は少ない方だと自負するが、それでも人からの評価は聞いた事が無いので念のためだ。


「ありがとう、使わせてもらう」


 そう言うと、そのタオルを受け取るとその場で服を脱いだ。

 慌てて背を向けるが不満そうな声が掛けられる。


「なんだ、そのまま見ていてもいいのだぞ?

 リューマに見られても、ミィヤは怒らない」


「お前が恥ずかしくなくても、俺は恥ずかしいんだよ!」


「見る方が恥ずかしいって、リューマは変な奴だな」


 終始、ミィヤにペースを乱されっぱなしの俺であった。

 

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