1章
プロローグ
*
*
——嘘だと、思いたかった。
怪物を前にたった一人で膝を折り、絶望をその心に抱きながら、ひとりの赤い髪の少女は下を向いた。
息をするのが痛い、胸が苦しい、全身が震えて足に力が入らない。
——嗚呼そうか。
誰にでも……“この能力”を持っている者なら、誰にでも起こりうる“この道”に立つ者として自分が選ばれてしまったのだと少女は理解する。
——いつからだ?いつから、あたしは……。こんな事になってた?こんなに弱くなってしまった?
背後には守りたい人たちが、失いたくない仲間たちがいる。
——それでも、どうして。どうして、どうして今なんだ!
胸の内の怒号は、誰にも届かない。少女は乾いた笑いを吐きながら自分の剣を握りしめ、化け物に立ち向かって行った。
「うあああああああああああああ!!」
*
雲にまで届くほど伸びた白いタワーがそびえていた。その最上階の部屋は、特殊な能力を持った少年少女らが通うとある学校の学長室となっている。
室内には、光沢のある机やソファーが置かれており、外の景色に背を向けて配置された執筆用の机には、学長の男が座っていた。
「——はぁ。事情はわかった。とりあえず、今のところソロをチームに入れる方が良いのではないかと思ってだね……まぁ、ちょうど“彼”に会っていくと良い」
なにかよほど重大な事が起こったのか、深刻そうな学長は、頭痛を和らげるように頭を揉む。頭を悩ませ、窓辺に控える赤い髪の少女に口頭での返答を述べた。
「はい、学長。あたしもそう思っています……」
赤い髪の少女が下を向いて、悔しげに唇を噛み締めた。
「……これを、見ておきなさい……」
暗い顔の少女に、学長は机に乗った多数のファイルの中から紙切れ一枚を渡した。
「これって、学生の能力値のデータですか?」
受け取ったものは——黒髪と翠色の瞳の青年が写る4センチ×5センチの写真が貼りついた個人の能力値などを記載した紙だった。
「そうだ。彼が、君たちのチームの一員になるには適任だろう。気にいるかは知らんが、実際に会う前に能力を確認しておくと良い」
「は、はい。わかりました……」
と、学長に言われて少女は書類に目を通す。黒髪と翠眼の生意気そうな容姿をした青年の写真を指でなぞってから、その横に記された彼の名前を声に出して呟く。
「ひがし……。えと。とうおか、はやと……」
たった一枚の紙切れの上に、
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