第43話 皿洗いの1年間
『アナタタチ、ドコカラキタノ?トシハ?』
片言だが妙に分かりやすい言葉でキュートな外人は喋っていた。
『えっと、あたしたち神奈川県分かりますか?』
愛羽は身振り手振りで伝えようと頑張っている。
『oh、カナガワケン。ワタシイッタコトアルヨ。ヨコハマ、エノシマ、ハコネ、オダワラジョウ』
『あっ、そうそうそこそこ。あたしたち小田原から来たんです』
『ah、オダワラデスカ。カマボコユーメイネ』
そんなことがすぐ出てくるとはなかなか日本のことに詳しいようだ。
『キョウハ、ボウケンデスカ?』
『あーボウケン?違う違う。旅行リョコウ』
冒険とはまた素敵な日本語を知っておいでだが、そう言われても仕方がない冒険の主人公玲璃が横から答えるとキュートな外人は何秒か考え首を傾げた。
『リョコウ…デスカ?』
不思議そう、というよりは理解ができないという顔をしている。
『お姉さんは名前なんて言うんですか?』
『ワタシ、イデア テ ユーヨ』
『イデアさん。あたし暁愛羽です』
『アカツキアイハ?oh、アイハ。カワイイナマエネ』
愛羽は喋りながら、その目線の先にある物に意識を持っていかれた。
『…ナニカ、ツイテマスカ?』
愛羽は目を点にしてイデアの胸元をガン見していた。
(…えっ?超絶大っきいんですけど。何あれ?メロン?メロン?どうすればそうなっちゃうの?何を食べて生きてきたの?嘘でしょ?今までで断トツ1番かも。やっぱ外人さんは体の作りから違うんだなぁ…)
『アナタタチハ、ガクセイサン?』
イデアは話しかけたが愛羽の意識は完全にオッパイの世界に入りこみ聞いていないので代わりに麗桜が話に入った。
『あぁ、そうそう。高校1年でみんな同じ学校なんだ』
『ミンナカワイイネ。ブカツノトモダチデスカ?』
『部活?違う違う、あたしたちは暴走族だよ』
玲璃は自慢気に答えた。
『oh?ジャパニーズボーソーゾク?カナガワノ?コレハコレハトテモキョーミブカイネ』
イデアは聞いて驚きを見せると改めて6人を見回し顔を覗くようにした。
『…どうか、しました?』
『…ah、ナンデモナイヨ。モウスグツクヨ』
愛羽と目が合うとすぐに笑顔に戻ったが、みんなを見る目がそれまでとは違い、何か探るような感じになったのを風雅は見逃さなかった。風雅はそれを言わなかったが、一瞬刀を抜くような殺気をわずかに感じた気がした。
そこから少しして彼女が案内してくれるらしきホテルに着いたのだが、愛羽たちの想像していたホテルとは次元の違う建物がそこにはあった。
まず大きい。建物がデカイだけじゃなく敷地もかなり広い。
『…え、ねぇ。あたしたちここ入っちゃって平気?』
蓮華が言うと改めて6人はその建物を見上げた。ただ大きいだけではない。上から下どころか、その辺一体がもういかにも高級感で溢れ、1歩足を踏み入れただけで自分たちが場違いであることは明らかだった。
『お断りした方がよさそうね』
蘭菜がそう言って溜め息をついた。蘭菜が言うのだ、間違いない。
だがイデアはとっとと1人で歩いていくと、まるで自分の家にでも招き入れるように声をあげた。
『ハヤクオイデヨ!ダイジョブダイジョブ!』
手招きすると1人でエントランスから入っていってしまった。
『ねぇ、大丈夫?あたしたちハメられてない?』
蓮華は不安そうだったがイデアが行ってしまったので、みんなそのまま逃げることもできず6人はとりあえず入っていくしかなかった。
『まぁ、入るだけ入ってみようよ。もしかしたら安い部屋があるのかもしれないし』
愛羽はみんなを元気づけようとしたが、いざ建物の中に入ると中はまた別世界だった。
入ると広いフロアになっていて他の客が数人見えるが、どこからどう見てもお金持ちにしか見えない貴婦人や、すでに偉い人のオーラが出てしまっている政治家風の男など、やはり空気が重い。間違っても子供連れの家族なんていなかった。
少し離れた所でホテルのスタッフらしき男とイデアがこちらを見ながら何やら話している。そうかと思えば他のスタッフが話しかけてきた。
『お部屋にご案内させて頂きます。お荷物をこちらへどうぞ』
もうすでに泊まることが決定してしまっているらしく動きがスムーズで早かった。
『ワタシ、コレカラシゴトダカラユックリシテテネ。アトデアイニクルカラ』
イデアは手を振ってどこかへ行ってしまった。
『えっ!あの…』
『お客様こちらへどうぞ』
6人は何か質問することも許されぬまま部屋に案内されていった。
『お食事はいかがなさいますか?何時に致しましょう』
愛羽たちはまだここに泊まることさえ決めきれていないのに話は勝手に進んでいく。
『えっとー…』
『よろしければお持ちしますが』
返答に困っているとそう言われたので愛羽も答えてしまった。
『あっ、じゃあお願いします』
なにせもう腹ペコだったのだ。
『かしこまりました。では少々お時間いただきまして、19時半からのお食事とさせて頂きます。ではあちらの和室の広間に用意致しますので、落ち着いたらあちらでお待ち下さい。よろしければお飲み物お先にお持ちしますがどうなさいますか?』
愛羽はみんなの方を見て一瞬考えたが決断は早かった。
『あっ、じゃあそれでお願いします』
愛羽たちは1人1部屋用意され、食事は大きな和室の広間でということになった。何はともあれやっと座ることができた。
『いやぁ~、疲れたなぁ~。こんないい所泊まれて良かったなぁ~』
玲璃がさも自分のおかげとでも言いたそうだ。
『何言ってるの?ガイドさん。あなたこれヤバいわよ?色々調べたら、ここ京都で1番有名どころか日本でも五指に入る超高級ホテルよ?あなたここ1人辺りいくらかかると思ってるの?1番安くて200万よ?』
『にっ!200万んん~!!!?』
蘭菜の言葉に一同は本当に腰を抜かした。
『…よし。今からでも遅くない、出よう、帰ろう、逃げよう』
みんな顔が青くなり座っていた場所、触った物を一生懸命拭いて立ち上がった。だがそうしてる間に飲み物と料理が運ばれてきてしまった。
『お飲み物はこちらからお好きな物を注文して下さい』
デンモクを渡されメニューを開くと右はビールから左はシャンパンやらワインやら、あまり聞いたことのないような高そうなお酒がズラリと並んでいた。
『あ、あの、これって多分余計にお金かかっちゃいますよね!?』
そのメニューを見て恐る恐る愛羽が聞くと(当たり前だ!)とみんなが思った。
『いえ、こちらの皆様はお嬢様の大切なお客様ということで存分にもてなすよう申しつけられております故、代金の方はお嬢様がもう済まされております。ですので、お好きな物をお好きなだけ頼んで頂ければお持ちしますので何なりとお申しつけ下さい』
(お嬢様?お客様?)
『あの、それって多分、あたしたちじゃないんじゃ』
ないのでは?と愛羽が言おうとすると玲璃がその口をふさいだ。
『あーあーあー!分かった分かった!どうもありがとう!ほら、愛羽、とりあえずカンパイしようぜ!』
そのまま話をうやむやにした。係の者が去っていくと愛羽の口から手を放した。
『…どうしたの?玲ちゃん』
『バカ!!これでいいんだよ、間違いなら間違いで!勝手に出された以上はこっちに非がないってことで
玲璃の言っていることは正しいようで間違ってるような気がしたが、もう考えてもしょうがないのでカンパイすることにした。
『じゃあ、まぁ、大阪の予定が京都になっちゃって今日は大変だったけど、旅行は旅行ってことで盛り上がってこー!カンパーイ!』
暴走愛努流、旅行初日の宴会がスタートした。
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