第19話 チーム綺夜羅
愛羽たちはお昼をみんなで食べてから川原で水遊びをしたり自然を存分に楽しんだ。
その後来た道をもう1度レースしながら戻ると最初のパーキングに着いた時には4時を回っていたので帰ることにした。
『暁さん。月下さん、風矢さん。今日は本当にありがとう。すごい楽しかった』
瞬はまた病院に戻るということなので愛羽たちはそこまで送り届けた。
『こちらこそだよ。今度はまた泪ちゃんと一緒にお散歩しに行こうね』
愛羽はあの激闘の日に言った通り、時間がある時は玲璃たちも引き連れて病院に足を運んでいた。
『ありがとう…泪と楽しみに待ってるね』
その約束を守ってくれたことどころか進んで何かをしようとしてくれる愛羽に、最初は瞬も琉花も千歌も気まずく、床に額をついて謝っていたものだが、そんなこと1ミリも気にせず泪のことを応援してくれる愛羽たちに心から感謝していた。
今では愛羽のことが大好きになってしまっている。
瞬は別れ際にまた愛羽を抱きしめた。彼女にとって愛羽はもはや神的存在なのかもしれない。
『じゃあまたね!』
『また走ろうぜ!』
『瞬。友達さんお大事にな~』
3人が行ってしまって見えなくなっても、音が聞こえなくなっても彼女はずっと耳をこらしていた。
咲薇は特に行くあてもないらしいので愛羽たちについていく話になり、1度学校に寄りたいということで3人は夜明ヶ丘高校に向かった。
学校に着くと校門のすぐそこで緋薙豹那が見知らぬ少女たちに囲まれていた。ケンカではなさそうだが何やら豹那は大きな声をあげていた。
『おいガキ共!あたしは忙しいんだって言ってるじゃないか!…あ!愛羽!いい所に来たよ。お前頼むからこいつら追っ払ってくれよ。…待てよ?あぁ、それよりガキ共。あれがあんたらの探してた愛羽だよ。来てくれてよかったね、じゃああたしは帰るからさ…』
豹那は今完全に愛羽を売った。可愛い教え子のはずの愛羽を売ると、彼女はそそくさと足早に帰った。
掠たちが言われて愛羽の方を向くと5人が一斉に固まっていた。石にでもなってしまったかのような5人の視線は愛羽ではなく、その隣の綺夜羅に向けられていた。
対する綺夜羅はそれはそれはとてつもなく不機嫌そうな顔をしている。
『てめーらぁ…ここで何してる』
しかし5人は石になっている。
『説明しろよ、燃』
名指しにされた燃は石化が解け、いきなり慌てふためいた。
『あたしは止めたんだよ!?』
『ほう…で、止められなかったと。いつもと一緒だな。めぐ、これはどーゆーことだ?』
燃はそれ以上何も言えず、次に旋が言葉を求められた。
『あ、あはは、あたしたちはついてきただけだよ?』
『そういうの、同罪って言うんだって言わなかったか?』
『…』
旋は再び石になっていた。
『掠。ここに何しに来た?』
掠は口笛を吹いて気づいていないフリをした。そうなってくるともう聞く相手は1人しかいない。
『さて数。どうしてここにいる?』
旋も珠凛も燃も掠も一斉にビクッとした。
(言うな!)(お願い!)(言わないで!)(ちょっとは考えて喋んなさいよね!)
4人は祈った。
『暴走愛努流の頭の奴、掠とどっちが先にやれるか勝負しに来たんだけどよ、なんかいねぇみたいなんだよな』
日頃から問題を起こすなと綺夜羅からいやと言う程言われていた4人は目をつぶり額を押さえた。
『いい加減にしろよテメェらぁ~!!!』
綺夜羅のイラつきは頂点に達しぶち切れた。
『まぁまぁ、綺夜羅ちゃん。そんなに怒らなくても……ん?暴走愛努流のって…あたし??』
綺夜羅はすぐに取り調べを行い5人から話を聞くと玲璃と麗桜に謝罪した。
『…ってことで愛羽、それから2人共、今日は本当にウチのバカ共がご迷惑をおかけしました』
綺夜羅が5人を代表して頭を下げると、渋々掠たちも頭を下げたが数は違った。
『おい綺夜羅。そこまで謝ることねーべよ、こっちだってやられてんだからよ』
『てめーの為に謝ってんだよ!!!このバカ!頼むからちっと黙っとけよ!』
全く反省の色などない数に綺夜羅は発狂してしまいそうだった。
『まぁまぁ。先に手ぇ出しちゃったのはこっちの玲ちゃんだったんだし、ケガ人も出なくてよかったじゃん』
しかしやり合っていた玲璃、麗桜、掠、数はさすがに打ち解けられる雰囲気ではない。
『あ、それよりみんな知ってる!?大阪の方で暴走族襲撃事件が起きてるんだって!』
愛羽は話題を変えようと気を利かしたつもりだったのだが、綺夜羅は絶対その話に触れたくなかった。
『バカ!愛羽!』
しかし気づいた時にはもう遅かった。
『大阪?』
『暴走族襲撃事件?』
当然のようにみんなが食いついてしまった。
『愛羽、なんだよそれ』
玲璃が聞くと愛羽は得意気になって話し始めた。
『咲薇ちゃんから聞いたんだけどね、今大阪で土曜の夜に暴走族が襲われるのが続いてるんだけど犯人はオバケなの』
『はぁ?』
『なんや、ずいぶん簡単にしよったね』
愛羽の説明ではあまりにも伝わりそうにないので咲薇はその場にいた全員にもう1度その話を説明した。
みんな興味津々になって聞いている中、燃は咲薇から嘘の匂いを感じていた。だが彼女がなんの嘘をついているのかは分からなかった。
大したことではないのかもしれないと、初対面でもあるので燃は気にしないことにした。
そんな燃をよそに他のメンバーは目を輝かせて話を聞いている。
『ヤバ。超おもしろそーじゃん』と旋。
『じゃあ大阪行く日は単車にお札貼ってった方がいいんじゃない?』と掠。
『おもしれぇ。夏はやっぱり肝試しだな。やってやるよ、オバケ退治』とやる気満々の数。
綺夜羅は頭を抱えていた。
『なぁ珠凛。お前はあいつらとは違うよな?』
3人を見て泣き出しそうな綺夜羅に珠凛は何も言わず微笑んでみせた。
『…なぁ…お前、今笑ってごまかしてるだろ』
珠凛はギクッとしたがとぼけた顔をしていた。綺夜羅は肩を落としてしまった。
その向こうで愛羽が玲璃と話している。
『バイク屋の子の仲間だったとはな。ビックリしたぜ。バックドロップはされるし豹那見た途端みんなしてデレデレしやがってよ。おい愛羽。まさかあんな奴ら勧誘しようとしてんじゃねーだろーなぁ?』
『あ!そうそう。ねぇ!みんな!暴走愛努流入らない!?』
愛羽は思い出したようにチーム綺夜羅のメンバーたちに呼びかけた。
あ?なんでテメーのチームに入んなきゃいけねーんだよ!と今にも数が言ってしまうのを綺夜羅は察知しすぐに行動に出た。
『よし!今日はもう帰ろう!愛羽、その話はまた今度な!咲薇もまたな!』
そう言ってまた頭を下げると5人をかなり強引に連れて帰ってしまった。
『バイク屋の子…大変そうだな…』
その後ろ姿を見て麗桜が同情した。
『ま、たとえお化けが相手でも負けねーけどな』
そう言うと麗桜はボクシングの真似をしてみせた。
そんな様子を見て咲薇は笑っていた。
『元気えぇね君ら。カッコえぇわ』
するとそこに着替えと片付けを終えた蘭菜と蓮華に風雅が出てきた。
『ちょっとぉ!玲璃も麗桜も片付け位やってよね。こっちはか弱い乙女3人なんだから。豹那さんもさっさと帰っちゃうし、全くもう…』
蓮華はケンカを代わってもらった立場でありながらなかなかイラついた様子で文句を言ってきた。
『あ、みんなお疲れ~!』
今日ダンスを欠席した愛羽が仲間たちと喋っているのを見て、咲薇はある人物の存在に気づいた。
その視線の先にいるのは風雅だった。
『ねぇ君!剣道やってたやろ!』
咲薇の記憶の中で遠い日の立ち会いが甦った。
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